*関根信一作・演出 公式サイトはこちら 下北沢OFFOFF劇場 8日まで(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22 )
2019年秋、HIVに感染していると申告しなかったことを理由に就職内定を取り消されたのは違法だと訴えた裁判に、原告勝訴の判決が下った(参考)。フライングステージの最新作は、かつて死の病と恐れられたHIVとエイズについての認識の変容といまだに残る偏見や差別、そして今現在世界に蔓延している新型コロナウィルスと闘う人々を描いた舞台だ。2020年の「世界エイズデーシアター札幌」のために書下ろしを依頼された作品でもあり、原告ご本人へ取材を行うなど、ドキュメンタリー性の強いものとなった。
2019年秋、HIVに感染していると申告しなかったことを理由に就職内定を取り消されたのは違法だと訴えた裁判に、原告勝訴の判決が下った(参考)。フライングステージの最新作は、かつて死の病と恐れられたHIVとエイズについての認識の変容といまだに残る偏見や差別、そして今現在世界に蔓延している新型コロナウィルスと闘う人々を描いた舞台だ。2020年の「世界エイズデーシアター札幌」のために書下ろしを依頼された作品でもあり、原告ご本人へ取材を行うなど、ドキュメンタリー性の強いものとなった。
舞台に置かれた数脚の椅子で複数の場面、時間の経過をわかりやすく描く手法に加え、コロナ禍真っ最中の現状をそのまま舞台の設定としているため、登場人物はほとんどの場でマスクを着用し、距離を取って演技する。また劇中自然な流れで劇場の換気を行うなど、工夫や配慮が凝らされている。
主人公が働くケアコミュニティにやや偏屈な老人が入所している。互いにゲイであることを告げて二人は次第に親しくなるなか、老人が主人公に府中青年の家事件(Wikipedia)の裁判を傍聴した体験を語る。裁判は90年代のはじめであり、劇団フライングステージの旗揚げの時期と重なる。それから30年近くを経て、エイズ=死ではないこと、セクシュアリティの多様性を知り、認め合うためのさまざまな動きが生まれていることを思うと、世の中の動き、考え方の変容は著しい。しかしそれでもなお偏見や差別は存在し、いま新たにコロナ禍によって生じた困難がわたしたちを息苦しく、先の見えない不安に陥れている。世の中は大きく変わった。しかし…というやりきれない思いに駆られるのである。
現実の事例に対して誠実に向き合ったため、物語や会話の楽しさという面ではやや控えめな印象ではある。しかし「こんなときこそ笑いたい」、「しばし現実を忘れたい」というエンターテインメントとは違う姿勢を確と受けとめたい。
2016年の『Family,Familiar 家族、かぞく』において、中嶌聡はレズビアンの母を持つ中学生を作りすぎず、控えめに演じた。無口でぶっきらぼうだが、思いやりがあり、なかなか「渋い」少年であった。今回は前述の老人役である。歩き方や話し方など目に見えるところよりも、この老人の内面をどう滲ませるかを熟慮した造形であると思われる。また主人公の元カレ役の岸本啓孝は、人物設定や話の流れから、ともすれば「型」になりがちなところを、ほんの少しの目の動きや表情や声の変化などを繊細に演じ、この人物の心象の変化を客席から喜びたいと思わせた。
タイトルの「Rights,Light ライツ ライト」は、失われるかもしれない「権利」と希望の「光」からつけたとのこと。互いの違いを知り、認め合い理解し合って、笑える日が来るのはまだ先かもしれない。1年後、世界はどうなっているのか、想像もできない。三密を避けるためにいつものような賑々しさのない劇場はやはり淋しく物足りなくはある。それでもこうして上演が叶い、観劇ができたことを喜び感謝して、今日に続く明日を歩いていこうと思う。
―当日リーフレット折込の関根信一の公演挨拶と本作についての詳細な解説に、これまでフライングステージでHIVを扱った作品として、2008年『二人でお茶を TEA FOR TWO』、2014年『PRESENTS』を紹介されています。当ブログの観劇記事をご参考までにリンクしておきます―
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