因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『ホットパーティクル』

2018-03-18 | 舞台

*瀬戸山美咲作 佐藤音音演出 公式サイトはこちら サブテレニアン 18日で終了 
 本作はミナモザ主宰の瀬戸山美咲作・演出で20119月に初演された。東日本大震災と原発事故に衝撃を受けた瀬戸山自身が福島を訪れ、劇作に悩み、恋愛に悩み、上演にこぎつけるまでの右往左往を描いたドキュメンタリー演劇、私演劇として反響を呼んだ話題作である。自分もまた客席において大いに混乱し(当時の劇評)、紆余曲折があった。

 2014年、本作は佐藤音音(おとね)がドイツ語に翻訳し、2016年ミュンヘンの日独劇団EnGawa(えんがわ)がドイツ初演を行った。今回は「サブテレニアン・ダイアローグ」と銘打ったイベントプログラムの一環として上演の運びとなったのである。『ホットパーティクル』を一人芝居形式で、映像も使いながらの新演出ということがピンと来なかったのだが、舞台を見てすぐに納得した。

 俳優は小倉雅子一人。舞台奥にスクリーンがあり、彼女の部屋や居酒屋、カフェなどがイラスト風に描かれる。友人たちと福島へ旅する車中では、彼らの顔の部分がスクリーンに映し出され、主人公と何ら違和感なく会話をする。ドラマタークの顕史郎さんは、スクリーン上部の小窓から顔を出す。なるほどこういうことであったか!

 ドイツ初演ではドイツ語で主人公瀬戸山美咲を演じた小倉雅子が、今回は日本語で演じた。そのほかの人物は映像による出演で、ドイツ語を話す。ドイツ語の字幕付き。ドイツ語パートの演技は自然であり、日本版で感じた大仰でけたたましい印象は消えていた。主人公も怒ったり不貞腐れたりしているものの非常にクレバーな印象の女性であり、彼女の葛藤や混乱が今一つ強く伝わってこない印象でもある。

 大胆というより無防備に大ナタを振るって自分が傷つくような無茶ぶりが魅力であるが、その分隙や緩みも散見し、突っ込まれやすい作品である。それが日本語からドイツ語に翻訳され、外国人俳優も交えて演じられることで変容し、作品と演じ手に距離が生まれたのであろう。

 初演を観劇したときは、これは震災から半年後の今だからこそ有益な作品だと思ったが、7年の月日を経て日本語とドイツ語が飛び交う舞台に出会った今日、もっと深いところでの普遍性を得て、複雑な味わいを持つ作品に変容したことを実感した。あの日で終わったのではない、今も続く混乱であり、葛藤なのである。

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