因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

モナカ興業#5『点滅する秋』

2008-08-03 | 舞台
*フジノサツコ作 森新太郎演出 公式サイトはこちら 下北沢OFF.OFFシアター 3日のちょうどいまごろが終演の時間…
 夏は日が落ちてから元気が出てくる。これから芝居をみるとなったら尚更だ。しかし自分の欠点は気合いが入り過ぎるところだ。これが2度めのモナカ興業(1,1`)は、昼間の熱気がすっと引くような静かな空間であった。開演前の場内には無伴奏のチェロソナタが低く流れ、舞台下手に古ぼけた扇風機が回る。

 認知症のハハ(椋敬子)と次男坊ミツオ(金本樹堅)が暮らす家に、姉のリエ(長瀬知子)がダンナ(配役表にはこう書かれています。加藤大我)を連れてやってきた。ハハを自分たち夫婦が引き取ろうというのだ。そうさせないミツオと、是が非でもハハを連れ出そうとするリエの攻防に、ゲイバー「ヒマワリ」のママやミツオの野球友達、彼女らしき女性などが絡む。不意にハハとその連れ合いの過去の情景も描かれて、現在と過去が緩く行き来する。

 劇作家の思いや背景が強く伝わってくる舞台がある。これはおそらく劇作家自身の体験が深く根ざしたものであろうと察しがつく、あるいは劇作家自身が演劇雑誌のインタビューや当日リーフレットで思いの丈を饒舌に語っていたりするものだ。それはそれで構わないと思う。しかしその度合いが強すぎると辟易してしまうのも確かで、作り手側の息づかいを感じたいと思う一方で、舞台は舞台として受け止めたいとも思うのである。

 フジノサツコの舞台はこれが2本めなのでまだ考えがまとまらないが、舞台をみるほどに、これを書いた人がどういう人なのかどんどんわからなくなってくる。家族について何か特別な思いを抱いているようだが確信が持てず、得体の知れない存在になってきた。ある劇作家の作品を続けてみようとするとき、確かな手応えを求めると同時に、場合によってはさらに迷って深みに陥ることもある。それが今の自分には楽しい。モナカ興業のフジノサツコは、まさにその迷いに引き込む不思議な魅力をもつ劇作家だ。
 

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