因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

顔見世大歌舞伎夜の部「勧進帳」

2014-11-10 | 舞台
*公式サイトはこちら 25日まで東銀座/歌舞伎座
 今年の顔見世最大の話題は、市川染五郎が41歳にして歌舞伎十八番の「勧進帳」弁慶を初役でつとめることだ。
 尾上松緑は辰之助、市川海老蔵も新之助時代にそれぞれ初役を済ませていることを考えると、彼らよりも年長の染五郎がこれまで演じたことがないとは意外であった。
 今月の筋書きによれば、41歳での弁慶初役は、弁慶役者と呼ばれた曾祖父七代目松本幸四郎いらい弁慶を当たり役としてきた高麗屋の歴史のなかで、最年長とのことだ。
「勧進帳」は歌舞伎狂言屈指の名作であり、人気演目だ。「またかの関」と皮肉を言われるくらいひんぱんに上演され、「えっあの人が」と驚くような俳優も弁慶を演じているという印象がある。
 それを考えると、とうの昔に初役を済ませていてもおかしくない血筋の人がここまで慎重であることを改めて考える。
 今年は染五郎の祖父である初代松本白鸚の三十三回忌に当たり、顔見世大歌舞伎を追善興行として行うことから、お披露目の機会がめぐってきたということだろう。父・松本幸四郎が富樫を、叔父・中村吉衛門が義経をつとめ、そして染五郎の長男の松本金太郎が太刀持で加わり、祖父、叔父、父の「勧進帳」がさらに次世代に継承されることを示す。
 

 「勧進帳」はハードルの高い困難な演目だ。しかし捨て身でぶつかる俳優をまるごと受けとめ、それが未熟であっても不確かであっても、それらを含めて現時点での何らかの成果を示す。観客に対してもベテラン俳優の舞台を懐かしく思い起こさせるだけでなく、若い俳優たちがこれから変容する可能性が大いにあることを確信させるのだ。
 重厚で滋味の深い当代中村吉衛門、滅びの宿命を感じさせる十二代目市川團十郎、まだまだ危なっかしいが(苦笑)、「がんばれ」と声をかけたくなるような市川海老蔵。どれも大好きだ。
 そこに当代市川染五郎の弁慶が新たに加わったことを客席から喜び、祝福を贈りたい。
 客席ぜんたいがが息を詰めるように鎮まって俳優を見守り、最後の飛六法では溢れるような拍手になり、弁慶が走り去ったあとも長いこと拍手が鳴りやまなかった。
「このときを待っていた!」。
 多くの観客が、染五郎の弁慶にずっと会いたかったのである。
 それに応えた染五郎の弁慶であり、忘れられない「勧進帳」になった。
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