因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『空中庭園』

2005-11-14 | 映画

*角田光代原作 豊田利晃監督・脚本 あらすじ: 団地の一室に暮らす京橋家では「家族間では秘密を作らない」というルールを作っている。しかし実際は秘密だらけ。夫(板尾創路)は複数の愛人に振り回され、娘(鈴木杏)は学校をさぼって彼氏とラブホに行くし、息子(広田雅裕)は父の愛人と知りつつ若い女性(ソニン)を家庭教師としてうちに連れてくる。妻(小泉今日子)は母(大楠道代)との確執に苦しみ、必死で家庭を守ろうとしている。
 

家族や家庭とは恐ろしいものだと思うときがある。血のつながりと愛情によって共に暮らす小さな群れが傷つき、壊れる様は、赤の他人とのトラブルよりも遥かに陰惨で醜悪である。しかし家族という言葉は、心の奥深くに懐かしく温かい響きを与える。それがあるからホームドラマはいつの時代でも作られてきたし、家族をめぐる物語は次々と紡がれていくのであろう。

子供時代の親との確執がトラウマになったり、一見幸せそうな家族が、実はひとりひとりが小さな秘密を抱えていたり、崩壊寸前だったりということは既に知っているし、これまでいろいろなドラマや映画で描かれてきた。

『空中庭園』も大雑把に言えばホームドラマだが、内容や描写はかなり重く、ホームドラマにおける家族や家庭の描き方についての既成概念をバリバリと(そんな感じである)と食い破っていく。登場人物の性格や背景も一筋縄ではいかず、安易な感情移入ができないし、「家族っていいな」などとしんみりさせてはくれない。家族とは何なのか、ますますわからなくなる。 日頃朝の連ドラや菅野美穂主演の『あいのうた』をみて、口当たりのよい笑いや涙ですっかり緩んでいる心に、いきなり固くて苦いものをぶつけられるような感覚がある。



パンフレットには撮影、照明、美術などスタッフへの詳細なインタビューが掲載されており、読み応えがある。採録シナリオにはちょっとした演出(?)があって、どきっとさせられる。
渋谷での上演は昨日で終わったが、このあと吉祥寺などで続映されるようである。
少し消耗するが、後味は決して不愉快ではない。
控えめにお勧めする。





 



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