*古川健脚本 日澤雄介演出 公式サイトはこちら 渋谷ルデコ 31日まで
JACROW(1,2,3)に客演の多い岡本篤の所属劇団として、「チョコレートケーキ」の名前を認識するようになり、これが初見である。岡本は今月なかばまで風琴工房の『葬送の教室』に客演しており、それからおよそ2週間で本拠地の舞台に立つのは大変なエネルギーだと思う。
客席スペースのギリギリまで迫るように、山荘の一室が組み立てられている。公演チラシには武器を持ってうつむく男たちと1970年代初頭、『政治の季節』の敗北を受け入れられなかった若者たちが逃走の末に山荘に逃げ込んだという物語が記されており、本作があさま山荘事件をモチーフにしていることは明らかだ。山荘に押し入った男は5人、山荘管理人夫婦の妻が人質になる。そこまでは自分が知っている話であった。しかし1時間40分の舞台は予想もしなかった展開をみせ、客席をぐいぐいと引きつけてゆく。
連合赤軍やあさま山荘事件について記されたノンフィクションはもちろん、小説やコミック、映像など多くの資料にあたり、単にそれらを舞台として立体化したわけではなく、受け止められたもの、できなかったことなども含めて自分たちの方法で舞台として表現したという印象をもった。
実際に起きた事件を舞台化する場合、現在の視点を象徴する人物を配したり、過去と現在が行き来する構成にする方法はみたことがある。しかし本作は、あくまであの当時の若者たちのもがくさまを無残なほどに生々しく描いている。そうした場合、「ではなぜ敢えてこの事件や人々を取り上げるのか」がみえてこない舞台もあるのだが、本作はある仕掛けによって成果をあげている。
公演期間中なので詳細が書けないのだが、蓼崎今日子演じる人質の女性の造形が、本作を非凡なものにしている。この人物についてはほとんどが作者の創作であると考えられるが、虚実入り混じりはじめる後半は、舞台の狭さや暗さを効果的に使い、グループが崩壊していくさま、それまで政治的な思考をしたことのない女性が変貌していくさまを、時々刻々と描いて圧巻である。一連の事件の首謀者たちが異常性格者だったわけではなく、その人が心に秘めていた葛藤や悩みが、何か強烈な刺激を受けたことで表出し、過激な行動に走らされる可能性がありうることを示している。
やりきれない結末だが、重苦しいだけではない確かな手ごたえがあったのは、作り手側が当時の若者たちに心を寄り添わせているという実感が得られたからだろう。それは安易な共感でも幼稚な憧憬でもない。脚本の古川健、演出の日澤雄介は、ともに俳優として出演もしている。劇団チョコレートケーキ。甘くて可愛らしい劇団名からは想像もできない硬派で、しかし相手と痛みを分かち合おうとする優しさが感じられる舞台であった。
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