因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

龍馬伝第13回『さらば土佐よ』

2010-03-29 | テレビドラマ

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 武市半平太(大森南朋)に吉田東洋(田中泯)を斬れと懇願された龍馬は、吉田の真意を確かめ、「自分はもう土佐だけのことを考えているわけにはいかない」と悟り、脱藩を決意する。

 当時の脱藩がどういうことなのか。坂本家の会話から、現代人が会社を辞めるどころではなく、藩に背き、お殿さまに逆らった謀反人とみなされること、本人はもちろん、家族までその咎を負う重罪であることが伝わってくる。朝の食卓で、ふと「どこそこの息子が脱藩したそうだ」と話題になり、うろたえる龍馬の様子から家族はたちまち彼の意志を知ることになる。

 龍馬はほんとうによい家族をもった人だと思う。龍馬が脱藩すれば坂本家は取りつぶされる可能性もあるのに、家族は動揺しながらも彼を守り、進む道へ押し出そうとする。もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。必死で悲しみをこらえ、家族はそれぞれが心のこもった品々を龍馬に託し、送りだす。翌朝龍馬がいなくなった食卓で、家長の権平(杉本哲太)が、食事が終わったら本家の質屋に行き、藩の借金台帳を手に入れてくるという。「それがあれば龍馬が脱藩したからといって、容易に坂本家に手は出せまい。」そして「わしらには、わしらの闘い方がある」ときっぱり。自分は思わず画面に向かって拍手していた。ご立派です、兄上さま。

 吉田東洋をめぐって、龍馬と武市はほぼ完全に袂を分かつことになる。武市よりもう少し年上で彼を諌めることのできる人物がいたら、尊王攘夷思想と個人的恨みが結びついて東洋暗殺に走ることはなかったのではないか。夫を心から慕う富(奥貫薫)は申し分のない妻で、それだけに武市が道を踏みはずしていくことが残念でならない。東洋がなぜここまで龍馬を高く評価するのかは正直なところよくわからないし、脱藩を決意するに至る過程の描写も不十分だ。龍馬の家族もいささか出来過ぎの印象があり、歴史をよく知る人であれば、矛盾や首をかしげる場面も多いのではないか。と数々の小さな不満や疑問があるものの、福山雅治をみればぐうの音もでなくなってしまう。3月29日朝日新聞に作家船戸与一が『新・雨月 戊辰戦役朧夜話』について語った記事が掲載されている。「歴史は小説の奴隷ではない」のひとことが興味深い。小説をテレビドラマに即座に置き換えて考えるのは安易だが、今年の大河ドラマの作り手がどんな龍馬をみせたいか、何を伝えたいのかを素直に受け止めよう。次週から浪士となった龍馬がこれまで以上に多くの人と出会い、変化していく第2部が始まる。

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