因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

社団法人日本劇団協議会『にわか雨、ときたま雨宿り』

2012-03-27 | 舞台

*鈴木穣(すずきゆたか)作 西川信廣演出 公式サイトはこちら 恵比寿・エコー劇場 27日まで 「日本の劇」戯曲賞(文化庁主催)2011において60篇の応募作のなかから最優秀賞を受賞した作品(選評)がお披露目の運びになったもの。
 戯曲賞としてまっさきに思い浮かぶのは「岸田國士戯曲賞」である。これは1年間に雑誌発表や単行本発行された作品が対象だが、「画期的な上演成果を示したものに関しては、選考委員等の推薦を受ければ、生原稿・上演台本の形であっても、例外的に選考の対象とすることがある」とのこと。「選考委員等の」の「等」が微妙だがそこはさておき、どの戯曲賞も有望な新人劇作家の奨励と育成を目的とし、そこからより豊かな演劇が生まれることを願ってのものであろう。
 
 今回の『にわか雨~』の公演チラシには「現在第一線で活躍する演出家たちが選出し、最優秀賞に選ばれた作品は必ず上演される戯曲賞」と記されている。戯曲を選出することだけでなく、それを上演する義務を負うところに特殊性をもつ戯曲賞なのだ。
  

 折り込みチラシといっしょに配布される無料の公演パンフレットは、小ぶりではあるがオールカラーの立派なものだ。「日本の劇」戯曲賞2011の選考過程や選評、出演者のプロフィールもすっきりして読みやすい。しかし最終ページに掲載された演出家の西川信廣の「上演に向けて」には非常に複雑な印象を受けた。

 要約すると、書き下ろし戯曲の場合、劇作家と舞台作りの現場のあいだで喧々諤々のやりとりが交わされ、カットや書き換えを何度も繰り返す場合が少なくない。
 この戯曲賞の特徴は必ず上演されることにあり、本作も書きなおしの作業が何度もあり、ドラマドクターという作品を現場とは違う距離からの意見をいう役割を立て、今回は賞の選考委員でもある原田一樹が行った、とのことだ。
 初稿を俳優に読んでもらい、劇作家、演出家、ドラマドクターを交えて意見交換をして第二稿、俳優を入れて本読みをして再度書き直し、立ち稽古に入ってからも手直しを続けたという。

 具体的にどの場面をどう書き直したかはわからないが、や、それでは最優秀賞と決定した時点での『にわか雨~』の戯曲はどんなもので、自分がいま目の前にしている舞台の『にわか雨~』とはどう違うのか、60もの応募のなかからみごと最優秀賞に選ばれた作品であるのに、それほど書き直しを繰り返す必要があるのはどういうことなのかという素朴な疑問がわいてくるのである。
 公式サイトには5人の選考委員すべての講評が掲載されている。それを読むと、「その戯曲が上演に適しているか」が選考の大きな基準であると察せられる。戯曲は小説や詩とはちがい、俳優の声をからだを通して立体化され、それをみる観客の存在を必要とするものであるし、この戯曲賞の主旨を考えれば、実際の上演を視座にいれた選考になるのは必然であろう。
 稽古の段階で練り上げられ、より精度の高い作品になる可能性が感じられる点で評価されたとも受けとめられるが、「この戯曲をぜひ舞台にのせたい、客席と共有したい」という意欲が掻きたてられた作品であるかが重要ではないのか。

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