因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ハイリンド第一回公演『ー初恋』

2005-12-10 | 舞台

*土田英生 作 加藤健一 演出 江古田ストアハウス
加藤健一事務所俳優教室出身の俳優4人が立ち上げた「ハイリンド」の第一回公演。演出も兼ねる座付き作家が劇団の中心になる形が多い中、敢えて俳優だけの集団という形を選択したのは「様々なジャンルの作品に信頼のおける演出家の下、役者として絶えず挑戦を続けていきたいという強い思いがあったから」とのこと(公演リーフレットより)。
その言葉通り、戯曲と師匠である加藤健一の演出に対する揺るぎない信頼と尊敬が伝わってくる、いい舞台であった。



ゲイばかりが暮らすアパートで起こる悲喜こもごも、というとすぐに映画『メゾン・ド・ヒミコ』を、あるいは劇団フライングステージの『Four Seasons』を思い起こす。
設定としてはもはやありふれており、特に新鮮味は感じられないのでは?と予想したのだが、これが一時間半のあいだまったく気の緩むことがなく、わくわくしながらみることができた。



その理由のひとつは登場人物の中に二人の女性がおり、その二人の視点が実に巧みに活かされている点だろう。
一人はアパートの管理人小百合、もう一人は牛乳配達人の毛利さんである。
アパートを揺るがす大事件は、住人の一人が「女の人を好きになってしまった」と告白したことだ。
その一言をきっかけに、住人たちはそれぞれの心のありよう、これからの生き方について決断を迫られる。
折しも周囲の人々からの投石、嫌がらせは日に日にエスカレートしていき、社会から疎外された者たちの安住の地であったアパートは、中からも外からも崩されていく。



題名の『ー初恋』は苦く切ない響きをもつ。
決して明るい結末ではないが、見終わったあとの気持ちは清々しい。
ハイリンドの次回公演は『牡丹灯籠』だという。
どんなものになるのか、まったく読めない。
楽しみである。



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