因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

Pカンパニー番外公演「その弐」 『岸田國士なるものをめぐって~3人の作家による新作短編集』

2011-10-02 | 舞台

 公式サイトはこちら スタジオP(Pパンパニー稽古場) 5日まで
 Pカンパニーは、木山事務所に所属していた俳優とスタッフが中心になって結成された演劇集団だ。代表である林次樹のメッセージは、演劇にかける真摯な思いを浮ついたところなど微塵もなく堅実に示すものだ。
 木山事務所の公演にせっせと足を運んでいたのは90年代なかばからおよそ10年間である。
 それからは小劇場に軸足を移したこともあり、次第に足が遠のいていた。
 今回は岸田國士の戯曲の本質に迫った現代の劇作家による新作戯曲3本立て公演である。
 ここ数年は岸田國士の大当たりとみえ、観劇の機会が多い→1,2,3,4,5,6,7,8,9,10 
 本公演は岸田作品そのものでなく、現代の劇作家が岸田作品を通してとらえた現代の物語である。なぜ今もなお岸田作品が影響を与え続けるのか、その魅力はどこにあるのかを知りたい。ほぼ連日満席の盛況らしく、客席50の小さな劇場は開幕を待つ観客の静かな熱気に満たされている。

 竹本穣『果樹園に降る雨』で開幕。木島恭演出。コーヒーのなかなか出てこないティールーム。観光ガイドにも載らないお祭りを楽しみにこの町にやってきた男女の会話。40分。
 10分の休憩ののち、石原燃『はっさく』。震災後、原発事故の放射能汚染が心配される町。
 老人介護施設で働く女性のもとに、別れた夫がやってくる。20分。
 装置転換で5分程度暗転し、最後は阿藤智恵『曼珠沙華』で締めくくる。冨士川正美演出。川べりなのだろうか、おいしそうなサンドウィッチのお弁当を食べるふたりの男。これもおそらく震災後の風景だ。20分。

 はじめの1本に集中できず、2本めの『はっさく』から意識がはっきりしてきた。
 登場する男女の過去といまの事情などが、説明的ではなく実際の会話のなかに少しずつ示されてゆく。会話の運びが自然であざとくない。3月11日以降、結婚する男女、いわゆる「震災婚」が増えたと報道されている。何となくのつきあいが正式な結婚を決意させたり、別れた相手と互いの無事を確認しあうやりとりから再燃したりなど、明日をもわからない現実を、信頼できる相手とともに歩むことで乗り切りたいと願う人々が増えたということだ。
 この流れでとらえると『はっさく』の男女の設定は後者になりそうだが、話はそう単純ではない。
 男女のあいだの溝は震災のずっと以前から深まりつづけていた。震災や原発事故はたしかに未曽有の大事件であり、この国に暮らす者にとって計り知れない影響を及ぼし続けている。
 しかしひと組の男女のあいだにさえ、互いの努力や歩み寄り、震災のようなうな尋常ならざる外的要因をもってしても修復が困難な関係が生まれてしまうことに慄然とする。『はっさく』のふたりはどうなるのか。この終幕に希望を抱いてもかまわないのかどうかさえ、決めかねている。

 『曼珠沙華』。男ふたりが川べり(だと思う)でなぜかピクニック。30代と思しき男J(長谷川敦央)と、彼よりは年かさのP(林次樹 相手からはJと呼ばれている)がサンドウィッチ、野菜スープにピクルス、りんごのランチをとる。実際に食べ物は出さない無対象演技なのだが、あつあつのスープを啜ったり、こぼれそうなほど中身がたっぷり入ったサンドウィッチや、歯ごたえのいいピクルス、香りのいいコーヒーに水気の多いりんごなどなどをほおばるふたりの様子がそれはそれは旨そうで、みているこちらの空腹感が増すほどであった。
 のどかなランチ風景だが、このふたりが震災で心に傷を負ったらしきことが少しずつ伝わってくる。はじめは若いJを年かさのPが見守っているとみえたが、ひょっとするとJとPは同じ人物の分裂した姿かもしれず、一面に広がるとJが言う曼玉沙華の花々に囲まれて、あの日から迷いつづけている痛々しい魂の様相とも考えられる。

 「岸田國士的なるもの」を感じ取れたかどうかは疑問であり、みる前の期待や目標が果たされたとはいいがたい。これは作り手の問題ではなく、おそらく不勉強な自分にほとんどの原因があるのだろう。

 Pスタジオは池袋から歩いて10分のところにある。こちらの方向に出向くのはおそらくはじめてだ。駅周辺の喧騒がうそのように静かで殺風景な場所だが、地味ながらも誠実に舞台を作ろうとするPカンパニーの姿勢に、疎遠になったけれどもずっと尊敬していた先輩と久しぶりに再会したかのような安心感を与えられた。これからもよろしくお願いいたします、の手ごたえである。

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