因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

らくだ工務店『戦争にはいきたくない』

2007-09-17 | 舞台
*らくだ工務店第13回公演 石曽根有也作・演出 下北沢「劇」小劇場 公式サイトはこちら 公演は17日で終了
 足立区にある小さなネジ工場・稲川製作所の事務所が舞台である。誰もいない事務所の電話が鳴る。見るからに「町工場の社長さん」然とした男性(林和義)が入ってきて電話を取ろうとするが切れてしまう。そこへ重たそうな銀のネックレスをして、いかにもわけあり風な工員(古川悦史/文学座)が上がってきて、社長と話し始める。子どもが生まれるのか、名前をどうしようかなどと言っている。職場の誰かに子どもが生まれるのか、あまり楽しそうではない二人の様子に複雑な人間関係が明かされるのかと身構えた。と、それがたちまち今度もらってくる「犬」の話であるとわかり、どんどん事務所に上がってくる工員たちのやりとりで、大きすぎる犬小屋を作ってしまったの、散歩は誰がするのと一気に舞台が活気づく。これはいったいどういう話なのか?!

 男たちの会話のイキのよさに、思わず前のめりになってしまった。勤め先をリストラされてこの製作所で働いていることをずっと妻に隠していたり、外国からやってきたらしかったり、社長には若年性認知症の妻がいたり、それぞれの背景は決して軽くはないのだが、彼らの会話を聞くうちに、さまざまなことがわかったり、逆にわからなくなったりするところがおもしろい。笑いのツボも「ここでこういうところに落ちるのか」となかなか展開が読めないのである。特に中盤、大雨による停電場面が抜群のおもしろさ。登場人物の描き分け、配置、話の運びがいかにもありそうなパターンやルーティンに収まらず、周到に工夫され、稽古も充分に入っていることを感じさせるもので、安易な比較は慎みたいが、前日みた『ロマンス』の不完全燃焼感がぶっとんでしまった。いやいや最近芝居でこんなに笑ったのは久しぶりではないか。

 反面残念に思ったところもある。稲川製作所は医療機器の部品であるネジを作っている。その医療機器は難病の治療に使われるもので、その機械が、そのネジがなければ患者は治療が受けられない。ここ以外では作られず、まさに「世界にひとつだけの花」ならぬ、大変な技術なのである。社長がそれを製作所に出入りの保険外交員(岡本考史/東京タンバリン)に話す場面があるのだが、社外の人間に企業秘密を明かさないという配慮なのか、社長の口ぶりはまるで素人の説明のように聞こえた。小さなネジが医療機器のどの部分に使われ、それがどう役立っているのか。長年それを作っている社長なら、もっと具体的で丁寧な言葉で語るはずではないのか。そうすることによって、仕事に対する誇り、製作所の存続と妻の介護の両立に悩む心も、より深く複雑に感じさせる場面になるのではないか。

 後半、謎のベテラン工員レオ(高木尚三/サモ・アリナンズ)が、母国(という言い方でいいのでしょうかね)で戦争が勃発したために仕事を辞めることになる。題名の『戦争にはいきたくない』を直接に感じさせるところであるが、「戦争」とは、社長はじめ彼らそれぞれ逃げたりかわしたりしていても、いつかは直面しなければならない現実の壁のことではないかと想像した。この風変わりな劇団の公演に行くのは今回がはじめてである。早くも次回作が楽しみになった。

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