因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

しずくまち♭『しびれものがたり』

2009-05-19 | 舞台
*ナカヤマカズコ作・演出 公式サイトはこちら 日暮里d-倉庫 19日で終了 
 稽古場プレヴューから一週間後の本公演を観劇。劇場の客席の暗がりは、自分にとってやはり居心地がよいのだろうか、稽古場よりもリラックスしてしまい、時折集中が途切れることも。プレヴューの印象は大変強く、「初演よりも今度のほうが断然いい!」と前のめりになったのだが、では初演のことをどれだけ覚えているのかと観劇後「優秀新人戯曲集2009」(劇作家協会編 ブロンズ新社)収録の初演戯曲を読みかえし、つぎに今回の改訂版上演台本も読んでみた。
 マザータウンという近未来の架空の町で繰り広げられる物語やアンドロイドが登場する初演の設定に、そのときの自分はやや甘い印象を抱いたのだった。改訂版ではより現実味が強くなり、自殺を幇助する闇サイトや「代理人」と自称する教祖的な人物によって人々が翻弄される様子には、世相を反映した面が読み取れる。手作り感あふれる可愛らしいお家風のセットも、定食屋と病院、本屋の最低限の装置になり、DJの実演をはさみながら展開した物語は、生ハープ演奏でシンプルに進行するものに変った。わずか1年半で、大きな賞を受賞した作品をよくぞここまで改訂したと、作者の勇気と意欲には改めて驚かされる。音楽やダンスを入れて、観客をいろいろな面で楽しませながらではなく、俳優が語り、演じるという、いわばストレートプレイ、普通のお芝居の形式により近くなったわけである。ナカヤマカズコの舞台は『しびれものがたり』初演と再演しかみていないので、ナカヤマがどんなものを目指しているのか、ほかにどのような活動をしているかもよく知らないのだが、今回の改訂版の上演は大きなターニングポイントになるだろう。初演と再演と、どちらが優れているかということではなく、また単に好き嫌いでまとめるのも残念だ。初演版で、マントをかぶった男が自分は一言も発しないで、言葉を書いたカードを相手に次々をみせる場面は、手法も新鮮であり舞台の緊張を高めるのに効果的であったし、登場人物のなかではマザータウンからやってきた女性刑事を演じた鈴木京香がきゅっと小柄になったような女優さんも魅力的だった。

 強い風が吹き荒れるd-倉庫からの帰り道、すっかり困惑してしまった。困惑も楽しんで糧とするには、まだ何かが必要だろう。
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