因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

国際ドラマリディーング『前と後』

2008-02-17 | 舞台
*ローラント・シンメルプフィニ作 大塚直翻訳 タニノクロウ演出(庭劇団ペニノ) 公式サイトはこちら 川崎市アートセンター 2月16日のみ

 下手に明かりがつくと、洋式トイレに女性が腰かけており、ぶつぶつと独り言を言いはじめる。やがて舞台にベッドが3つ並び、その中のひとつに下着姿の女性が座っている。当日リーフレットによれば、「登場人物は総勢39名。同じホテルと思われる場所を舞台に、断片的な場面転換の中、日常と幻想が描かれ、シュールなイメージ世界が繰り広げられる」作品であり、今回演出のタニノクロウは短い51のエピソードの中から40くらいを紹介するという。

 俳優は男女各3名、合計6名が出演する。同じ部屋にベッドが3つ置かれているのではなく、同じホテルの違う部屋であるらしいことはすぐにわかる。一緒に暮らし始めて11年目の男女がいる。女性の方が仕事で知り合った男性とホテルで密会する。女性の伴侶(こういう言い方をしていた)はそれに薄々気づきながら、自分も他の相手を探そうとする…という話がひとつの軸になっていると思っていいのだろうか。俳優はベッドを出たり入ったり、現在と過去が入り交じったり、前にみた場面がまた出て来たりとめまぐるしい。

 特異なのはト書きの文体である。単なる状況説明だけではなく、ある人物が何を考えているか、そこに至るまでにどんなことがあったか、これから何をしようとしているかが、まるで小説の地の文のようなのだ。もしかするとこれはいわゆる「ト書き」ではなく、実際の上演でも読まれるようなものかもしれない。逆に言うとこれが読まれないとしたら、この話を理解するのはますます困難になるだろう。こういう作品に出会うのは初めてかもしれない。緊張感を持続できず、途中何度も意識が遠のく。俳優は手に台本を持っているが、前述のようにベッドの出入りはじめ、性行為らしきことも相当際どく行うのである。これが本式の上演だったらどうなるのか。みてみたいような、そうなったらとてもついていけないような。しかしながら3つのベッドやランプなど、舞台美術もなかなかに凝っており、16日の夜1回限りの上演をみる機会を与えられたことは大変な幸運で、贅沢な体験であった。

 当日リーフレットでタニノクロウは「この戯曲は非常に奇怪で個性的で、私は苦手です。特別な戯曲ですから、大変だと思います。どうか気を抜かず、挑んでみてください」とあって、ああ、よかった、自分だけではないのだと安心する一方で、今回自分がほぼ完敗に近いことを認めざるを得ないのであった。次の機会が与えられるだろうか?与えられるとして、その時に備えて自分をどう鍛えていけばいいのだろう?

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『よくないこと』 | トップ | 国際ドラマリーディング『イ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事