キプチョゲ選手の「覚悟」、すばらしいです。
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マラソン世界新記録樹立 キプチョゲはなぜ異次元のタイムを出せたのか
2時間1分39秒。
この記録を見て、日本のマラソンランナーたちは何を感じただろうか?
今月16日に行われたベルリンマラソンで、エリウド・キプチョゲ(ケニア)がマークした世界新記録は、まさに異次元の数字だった。
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ベルリンで圧巻の走りを披露したキプチョゲ ©getty
従来の世界記録(デニス・キメットの2時間2分57秒)を1分以上更新し、今年2月に設楽悠太(HONDA)が更新した2時間6分11秒の日本記録とは実に5分近くの大差をつけている。
「フルマラソンで2時間を切る」ことを目標に
実は、この大記録の樹立には前段がある。
5年前からスポーツメーカーのナイキが「フルマラソンで2時間を切る」ことを目標に、「Breaking2」と題したプロジェクトをスタートさせていた。キプチョゲはそのプロジェクトに参戦したランナーのひとりでもあった。
実際のトライアルは昨年5月、F1ファンの間で高速コースとして名高いイタリア・モンツァのサーキットで行われた。
周回コースを用いて複数のペースメーカーが交代でつけられたり、特殊な給水方法を実施したりと、公認条件下ではなかったため、公式には記録認定されなかったものの、キプチョゲは当時の世界記録を大きく上回る2時間00分25秒で42.195kmを走破した。この経験が、今回の記録達成の一助となっているのは間違いないだろう。
モンツァの地でプロジェクトを取材した時に最も顕著に感じたのが、キプチョゲの持つ冷静さと、メンタル面の強さだった。
キプチョゲだけが実現可能性にまで言及していた
「Breaking2」にはキプチョゲ以外にも数名の世界的な有力ランナーが参加し、それぞれ万全のサポートの下で記録を狙っていた。それでも、取材に参加したメディアの間では「記録を出すとしたらキプチョゲだろう」という空気が漂っていた。
その理由は、キプチョゲが唯一、この「2時間切り」という途方もないプロジェクトを、現実的に捉えているように見えたからだ。
他の選手たちが、記録の話をすると苦笑しながら「ベストを尽くす」「出来る限りの努力をしようと思う」という紋切型の答えに終始する中で、キプチョゲだけが実現可能性にまで言及していた。
「2時間を切ることは、もちろん可能です。そのために練習をしていますから。本当に実現できると思っていなければ、やる意味がないでしょう?」
トライアルが行われた時点でのキプチョゲのマラソンのベスト記録は2時間3分5秒。もちろん素晴らしい記録ではあるが、2時間を切るにはさらに3分以上もタイムを短縮しなければならない。それを「可能」と言い切るのは、日々のトレーニングはもちろん、自分のあらゆる可能性に蓋をしない、精神面の強さの現れだったように思う。
「“モノ”で走るのではなく“心”で走るんです」
キプチョゲ本人も、トライアル前にはこう語っている。
「まず大切なのはマインドですね。2時間で走れるということは、いままでの世界記録から3分近くを削らないといけない。それはかなり大きな心理的な壁だと思います。まずはその壁を崩さないといけない。常に『2時間で走りきる』ということだけを考えていますよ。それから大事なのが、常に自分のリミットを超えること。自分の能力を超えていくということを、いつも心がけていますね」
万全なサポート体制に加えて、多くの人が長年、労力を費やしてきたプロジェクト。そのために新しく開発されたシューズもあり、記録達成へのプレッシャーもあったはずだ。だが、そう問いかけても、当時のキプチョゲの表情は変わらなかった。
「どんな重圧でも対応できますよ。“モノ”で走るのではなく“心”で走るんです」
マラソンは、突き詰めれば非常にシンプルな競技だ。決められた距離を、いかに速く走るか。それだけといってしまえばそれだけだ。だからこそ、ランナーたちの心の持ち様が、走りに大きく影響を与えると言っていい。
「このペースで最後まで持つのか?」
「本当に自分に狙った記録がだせるのか?」
そんな小さな疑問が頭をよぎるだけで、結果には大きな差が出てくることになる。
それゆえ、自分の可能性を信じ抜くということが、他の競技よりもさらに必要になるものなのだと思う。
絶望するのか、一歩ずつ歩を進めるのか
例えば現在の日本で同様のプロジェクトを行い、日本記録を3分以上も上回る「2時間2分台を出せ」という命題を与えたとして、それを現実的に考え、自分を信じ抜ける選手は、一体何人いるだろうか。
もちろんキプチョゲをはじめとした世界のトップランナーたちは、日々科学的なトレーニングで自分を追い込み、信じられないような強度の練習もこなしている。毎日の肉体作りや生まれ持った才能が、世界のトップになるのに必須なのは、大前提だろう。
それでもなお、今回の結果を見て感じたのは日本勢と海外勢の“思考”の差――もっと言うならば“覚悟”の差だった。
ベルリンのレースを見た日本陸上競技連盟の河野匡長距離・マラソンディレクターは「ショッキングな結果。(日本選手は)記録的なものは並べて戦えない」とコメントした。
「こんな記録を持つランナーに敵うはずがない」と絶望するのか。
「いつかはこの記録までたどりついてやる」と一歩ずつ歩を進めるのか――。
後者のように思う日本選手が、1人でも多くいることを願っている。
(山崎 ダイ)
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2時間3分のマラソン選手が、2時間切れを可能だと信じられる。これができただけで、キプチョゲ選手を尊敬してしまいます。
こんな強い覚悟をもっている心で走れる人なら、来年にでも、それこそ同じベルリンで2時間切れを達成してくれるかもしれません。
夢の2時間切り。夢の限界破り。期待しています。
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