ヒルネボウ

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『冬のソナタ』を読む 「胸に降り注ぐ雨」(上p61~86) 1 「美」の矛盾

2022-06-04 23:39:24 | 評論

   『冬のソナタ』を読む

       「胸に降りそそぐ雨」(上p61~86)

1 「美」の矛盾

 

ユジンは仕事に逃避する。だが、逃避は反復にすぎない。形を変え、より深刻になった困難の反復。

 

<「いままでスキー場の旧地区についての全般的なリノベーションにについてご説明致しましたが、新地区と比べましたら確然とした差はございます。しかし、新地区に合わせた形で変更するよりおのおのの長所を最大限に生かすことに、デザインのポイントを置いた方がよろしいかと思いまして、古いものは古いものとして、新しいものは新しいものとしての美を生かそうというのが、わたくしどもの設計案の核心なのです」

(上p70)>

 

ユジンは、「美」の矛盾を過小評価している。本当は、どちらも選べないだけ。「古い」チュンサンと「新しい」ミニョンと。

ユジンは自身の「核心」を自分自身に対して隠している。

 

<助手席に乗ったユジンは、窓の外しか見なかった。そして時折、指にはめてある婚約指輪を指で撫でた。

ミニョンは、ユジンが何を考えているのかまったくわからなかった。

(上p75)>                                    

 

ユジンはチュンサンに似ているミニョンを見まいとした。そして、「婚約指輪」に頼った。婚約相手のサンヒョクに頼ったのではない。

ユジンは自分が「何を考えているのか」わかっているのか。

 

<ミニョンが工事現場の方へ戻ると、ユジンは再び工事準備のための写真を撮り始めた。

偶然のように、レンズがまたミニョンの姿をとらえた。

(上p78)>

 

「偶然」を装ったのか。

ユジンは誰を騙したいのか。

 

<「写真で見たときは気づきませんでしたが、ここは構造を変える必要はなさそうですね。骨格は生かして、仕上げ材さえうまく処理すれば大丈夫そうですね」

(上p79)>

 

どの「写真」のことか。

「仕上げ材」は「婚約」の比喩。自己欺瞞。

(終)


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