金柱聖(キム・ジュソン)『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実態』(双葉社)
著者は元在日で、北朝鮮に渡り、脱北し、現在は韓国に住むという。
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あれは、韓国の「北韓大学院大学」という大学院で修士課程に通っている時だった。韓国人の若い(といっても30代)女性たちに“在日帰国者”について話をしたことがあった。彼女たちが興味があるのは“洗脳教育”だというので、私は冗談半分に「北朝鮮式の宣伝扇動であなたたちを泣かせてみせましょうか?」と言った。
「金さん、それは無理でしょう。私達は北韓問題の専門家なんですよ? もし泣かすことができたら、夕ご飯は私たちが奢(おご)りますよ」
そして先述の奇跡の物語、つまり金日成氏が送った“初の教育援助費と奨学金”ストーリーをより壮大に語った。話し始めて30分ほどが過ぎた時だった。2人の女性がハンカチで目じりを押さえ、しくしくと泣き始めた。残りのひとりに至っては、ほぼ嗚咽に近い鳴き声をあげていた。彼女が一番たかをくくっていた人だった。
「金さん、もうやめてください。金日成さんて、本当に温かくて人間味のあるお父さんのような方だったんですね。私、感激しました」
冗談で話していた私ですら、驚くほどの効果だった。話を聞くまで、彼女は金日成氏を呼び捨てにしていたのに、そこまで簡単に“洗脳”されてくれるとは思わなかった。おかげで私は、高級料理を奢ってもうらことができたのだが――。
人様の感性をくすぐる、そしてその感性を論理化していく過程が、いわゆる“洗脳”ではないだろうか。
(『跳べない蛙』「第2章 祖国」
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「感性」つまり情に流されず、「論理化」つまり知の働きを反省すること。これが「洗脳」防衛策だろう。だが、意地を張り続ければどうにもならない。『夏目漱石を読むという虚栄』〔4310 ばらける知情意〕参照。夏目漱石を読むという虚栄 4310 - ヒルネボウ (goo.ne.jp)
日本では、夏目を筆頭とする何四天王の作品が「洗脳」に利用されてきた。『夏目漱石を読むという虚栄』〔1421 何四天王を紹介しよう〕参照。夏目漱石を読むという虚栄 1420 - ヒルネボウ (goo.ne.jp)
この著者も、和式「洗脳」から脱していないようだ。終章のタイトルが「吾輩は人間である」となっている。
GOTO 『夏目漱石を読むという虚栄』〔第七章予告(1/10)知識人批判〕予定。
(終)