ヒルネボウ

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『冬のソナタ』を読む 「胸に降りそそぐ雨」(上p61~86)2 靴を履かせてくれる人

2022-06-12 23:07:19 | 評論

   『冬のソナタ』を読む

       「胸に降りそそぐ雨」(上p61~86)

   2 靴を履かせてくれる人

 

雪で靴が濡れた。

 

ばつが悪そうにしばらく黙っていたミニョンは、ユジンに靴をぬいで乾かすことを勧めた。ユジンは靴をぬいで、自分が座っている場所の側に置いた。

(上p80)

 

ミニョンはユジンの靴を脱がせたかった。そのわけを彼は知らない。もう一度履かせてやるためなんだけどね。

 

それは、ユジンにまたジュンサンのことを思い出させた。ゴリラから逃れるために、学校の塀を越えた自分に靴を履かせてくれたジュンサンの姿を。

(上p80)

 

チュンサンには、ユジンの靴を脱がせる勇気がなかった。

 

「実は……ミニョンさん……」

ユジンがジュンサンの話を切り出そうとするとノックが聞こえた。

(上p81)

 

チェリンが来たぞ。チェリンに決まっている。でも、どうしてここへ? 

(終)


漫画の思い出 花輪和一『日没』(『呪詛 封印版』所収)

2022-06-08 23:25:24 | 評論

   漫画の思い出

     花輪和一『日没』(『呪詛 封印版』所収)

『刑務所の中』以降、ずっとマンネリだった。

同時期の『天水』は、花輪漫画の集大成といえるが、マンネリの始まりでもある。『呪詛』もマンネリだった。ところが、『呪詛 封印版』に追加された十篇は、趣が異なる。以前の主題が対人恐怖だったとすれば、この十篇は死への不安だろう。特に、書き下ろしの『日没』が面白い。

『日没』は、漫画ではなく、絵本だ。この本では白黒として掲載されているが、本物はカラーだろう。花輪の色遣いの面白さは、表紙の絵を見ればわかる。この作品をカラーで見てみたい。

話も悪くない。

 

おかしいな、背中の猫はまだ一度も鳴かないな。ああ、やっぱり道に迷ったようだ。ああっあんなに日が傾いてきた。早いな、冬の日没は。

ん? あれ? “日没”とは変だな。

 

花輪は絵本作家に変身するかもしれない。現代社会終末期の絵金になりなさい。

*goto ミットソン/漫画の思い出 

 

(終)

 


『冬のソナタ』を読む 「胸に降り注ぐ雨」(上p61~86) 1 「美」の矛盾

2022-06-04 23:39:24 | 評論

   『冬のソナタ』を読む

       「胸に降りそそぐ雨」(上p61~86)

1 「美」の矛盾

 

ユジンは仕事に逃避する。だが、逃避は反復にすぎない。形を変え、より深刻になった困難の反復。

 

<「いままでスキー場の旧地区についての全般的なリノベーションにについてご説明致しましたが、新地区と比べましたら確然とした差はございます。しかし、新地区に合わせた形で変更するよりおのおのの長所を最大限に生かすことに、デザインのポイントを置いた方がよろしいかと思いまして、古いものは古いものとして、新しいものは新しいものとしての美を生かそうというのが、わたくしどもの設計案の核心なのです」

(上p70)>

 

ユジンは、「美」の矛盾を過小評価している。本当は、どちらも選べないだけ。「古い」チュンサンと「新しい」ミニョンと。

ユジンは自身の「核心」を自分自身に対して隠している。

 

<助手席に乗ったユジンは、窓の外しか見なかった。そして時折、指にはめてある婚約指輪を指で撫でた。

ミニョンは、ユジンが何を考えているのかまったくわからなかった。

(上p75)>                                    

 

ユジンはチュンサンに似ているミニョンを見まいとした。そして、「婚約指輪」に頼った。婚約相手のサンヒョクに頼ったのではない。

ユジンは自分が「何を考えているのか」わかっているのか。

 

<ミニョンが工事現場の方へ戻ると、ユジンは再び工事準備のための写真を撮り始めた。

偶然のように、レンズがまたミニョンの姿をとらえた。

(上p78)>

 

「偶然」を装ったのか。

ユジンは誰を騙したいのか。

 

<「写真で見たときは気づきませんでしたが、ここは構造を変える必要はなさそうですね。骨格は生かして、仕上げ材さえうまく処理すれば大丈夫そうですね」

(上p79)>

 

どの「写真」のことか。

「仕上げ材」は「婚約」の比喩。自己欺瞞。

(終)