なぜ親たちは、そんなに「孫」を欲しがるのか
独身でいると、親に「早く孫の顔を見せてよ」と言われ、結婚したらしたで、顔を合わせるたびに「子どもはまだ?」とせっつかれる―。こうした話は、かなり頻繁に耳にします。昔から、「孫の顔を見せることは、最大の親孝行」などと言う人もいましたが、未婚率が上昇し、少子化が進む現代では、孫のいない高齢者も増えてきている様子。「旅行などして楽しそうに生きているのに、親はどうしてそんなに『孫』が欲しいのだろう?」という知人の素朴な疑問を受け、今回はその理由を掘り下げてみました。
祖父母から見た、「孫」の意味とは?
広島大学の岡本祐子教授によれば、「祖父母からみた孫の意味」として、「自己評価の再獲得」「子育て体験の再吟味」「世代継承性の自覚」の3つを挙げています。親世代にとって、「孫」は以下のようなことを感じさせてくれる存在、ということですね。
●孫に慕われることで、自分の価値を感じられて嬉しい
一般的に、孫を持つようになるのは、定年退職前、退職後くらいの年代。長らく社会で担っていた役割を失う時期なので、急に自身の存在価値を見失ったり、自己評価や自尊心を低下させてしまったり、という高齢者は少なくないと言われます。そうした時期に、孫に慕われる、必要とされると、「自分にもまだできることがある」と感じられ、生きるエネルギーや自尊心を取り戻せる、なんてこともあるようです。
●「自分の命が、しっかり引き継がれている」と感じられ、安心できる
発達心理学者エリクソンは、「人生の終わりが近づいたとき、『自分は、よい人生をおくってこられた』と思える人は、死をそれほど恐れない」と述べています。孫が育っているのを見ると、「自分は人生の役割の大半を終えても、子どもや孫が、自分の生命や仕事を引き継いでいってくれているな……」と感じられる。結果、死への抵抗感は少なくなり、死後の未来も穏やかに想像できることで、精神的な安定に繋がることもあるようです。
●「自分の人生、これでよかった」と感じられる
また、高齢になるに従い、人は「自分の人生」を振り返るようになるのが普通。あれこれと思い出しては、「自分の人生は、これでよかったのだろうか……」といった自問自答をすることも。そんな時期に、孫を通じて子育ての再体験することは、「自分の子育ては、そして人生は、これで良かったのだ」と感じられる、大きなきっかけともなるようです。
いざ孫が生まれたら、祖父母の存在は心強い!
年を取り、「いよいよ人生が残り少なくなってきた」という感覚のなかで、「自分が生きてきた人生を肯定したい」という思いが芽生えることもあり、また親としては「自分の子がしっかり家族を築けた」「自分がいなくなっても、心配ない」といった満足感や安堵感を得たい気持ちもあるのかも。そう考えれば、年老いた親たちが「孫が欲しい」と言ってくる心情も、多少は納得できるし、育ててもらった苦労や恩を考えれば、それくらいは受け止めよう、聞き流してあげよう……と思える人もいるかもしれませんね。
とはいえ、望めば子どもを持てるわけではないですし、あまり頻繁に言われると、「こっちの気持ちも知らないで!」と反論したくなることもあるでしょう。そんなときは、「親も自分の人生を振り返る時期なんだな」と考えて聞き流すか、一言「親孝行できなくてゴメン」「でもお陰で、充実した人生をおくれているよ」などと伝えてみると、親の気持ちも少しは収まるかも!? 親の期待どおりに生きることはできなくても、心を通わせることはきっとできるはず。
それに、いざ子どもが生まれれば、時間的、経済的にゆとりがあることの多い親たちは、非常に頼りになる存在にもなることも多いもの。豊富な知恵や経験を伝えてくれ、子育て面でも何かとサポートしてくれることでしょう。
いかがでしょうか。無論、親世代のなかにも「特に孫は望んでいない」という方もいますし、性格や、親子の関係性によっても事情は異なると思いますので、自分には当てはまらない、という方もどうぞあしからず。「孫を欲しがる親の気持ち」を理解するにあたっての可能性の1つとして、ちょっぴりご参考いただければ幸いです。