自己満足的電脳空間

完全自己満足主義。テーマはない。自分の趣味・関心事を偏った嗜好と思考でダラダラと書き綴る自分のための忘備録。

阪神タイガース「虎の袖章」の普遍的な美しさ

2017-07-11 00:05:00 | ユニフォーム・球場考察
「阪神タイガース」は、その成績に関係なく、いつも多くのファンに愛されている。その理由は“デザインの質の高さ”かもしれない。

「虎の袖章」、「Tigers」のロゴ、「黒と黄色の球団旗」、これらのデザインは80年変わらずに使い続けられている。永く親しまれてきた事実は、飽きのこない質の高いデザインの証なのである。


長い歴史の中でブランドイメージを変えた企業は多い。日立製作所や東芝、トヨタ自動車など子どもの頃に見た個性的なマークやロゴは、今はもう見ることはできない。それは、多くの企業がブランディングというイメージづくりの手法を活用し、より統一感や永続性のあるデザインを訴求し続けているからであろう。

ところが、「阪神タイガース」はブランディングという言葉が認識されていない80年前に、虎の袖章やロゴを作り上げていた。単に古くからあるものが残っているわけではない。もしデザインの質が低ければ飽きられ、長続きせず、イメージ一新の名の下に、違うデザインに置き換えられてしまったであろう。しかしタイガースのデザインは無意識のうちに多くの人に親しまれ、熱烈なファンには深く愛されてきた。時代を超えて愛されるということは、古典文学や名画のように、普遍的な美しさがあるからに他ならない。

重要なのは、阪神鉄道会社内のデザイナー:早川源一氏が自社の球団(大阪タイガース)のデザインを手がけたということである。もし部外のデザイナーに頼んだならコントロールが効かなくなるかもしれないし、また、デザイナーが変わるたびにイメージがふらつくということにもなりかねない。

「虎の袖章」は非常にクオリティが高い。それを見て誰もが虎と認識できることがまず凄いことである。目の形、鋭い牙などの正確な表現もあるが、特に縞模様が的確に描かれているところが秀逸である。この縞の明暗の面積バランスが絶妙である。カラーではなく白黒で表現しても違和感なく虎に見える。

左:#50 野村克則/右:#73 野村克也監督 2001年のみビジター用の「虎の袖章」がモノクロ(評判が悪く翌年から通常のカラー版に戻る)

この虎は様々なアレンジをされているが、本当にさまざまな変化に耐える。たとえば鉄道路線図風にアレンジしても、オリジナルの早川氏デザインの虎が読み取れる。


またカラーで印象づけることもブランディングでは重要であるが、タイガースといえば黄色、と誰もがイメージできることにも成功している。その源は「虎の袖章」「球団旗」に彩られた黄色にある。デザインの基本アイテムの完成度が高いと、あらゆるデザイン展開に応用できるのである。


ちなみにカープの赤がチームカラーとして定着したのは赤ヘルの初登場とチームが初優勝した1975年。巨人のオレンジも球団(1934年設立)ほどには歴史が古くなく1953年、同じチーム名のニューヨーク(現サンフランシスコ)・ジャイアンツのユニホームを模したことがきっかけのようだ。阪神が自らデザインしたことに対して、巨人は既製品を借りてきた。この手法の違いは対照的で興味深い。球団によってはテームカラーを頻繁に変えることもあるが、これでは愛着を持続できないファンが出てくるかもしれない。

「阪神タイガース」の黄色は虎の色から来ているが、虎を黄色と認識しているのは世界的には少数派のようである。MLBのデトロイト・タイガースやソウルオリンピックのマスコットの虎はオレンジで、世界中のタイガースを見ると黄色は少ない。本物の虎は黄色でもオレンジでもなく黄土色であるから、各地域の虎のイメージは球団カラーなどで刷り込まれたものなのであろう。とすると日本で虎が黄色であるという認識は、早川源一氏のデザインが源になっているのかもしれない。

阪神タイガース以外にも、優れたマークを持つ球団があった。南海ホークス(1938年~1988年、現在の福岡ソフトバンク)の鷹マークはシンプルで誰が見ても鷹そのもので、球団旗にも、キャップのマークにも使われていた。デザインは今竹七郎氏。超一流デザイナーによる鷹マークであったが、球団が身売りされたときに葬り去られてしまった。


近鉄バファローズ/大阪近鉄バファローズ(1950年~2004年、オリックスとの吸収合併により消滅)の猛牛マークも最高にすばらしい。デザインは、あの“芸術家“岡本太郎。何の説明も要らないであろう。この“芸術”作品も球団の吸収とともに消えてしまった。


どんなに優れたデザインでも、それが生き続けるのは難しい。

この2球団はチーム名が引き継がれたのにデザインは棄てられてしまった。いくら著名であっても部外のデザイナーに頼むということは、いざとなれば別の著名デザイナーに新たなデザインを頼めばよいという意識が潜在的にあったのかもしれない。もし社内に自らデザイナーを抱えて、自らデザインしたのであれば、違った運命であったのかもしれない。

タイガースのデザインのすばらしさと早川源一の功績を改めて確認すると、ここから学べることは多い。企業が親しまれるにはデザインが大きな役割を果たす。つまり球団とファンを結ぶのがデザインなのであろう。

こちらの記事から全文引用させていただきました。

※他にもユニフォームのこと、ゴチャゴチャ言ってます(笑)