答えは現場にあり!技術屋日記

還暦過ぎの土木技術者のオジさんが、悪戦苦闘七転八倒で生きる日々の泣き笑いをつづるブログ。

爺と少年

2024年09月11日 | ちょっと考えたこと
夏のあいだぼくに課せられた任務のひとつに孫との川遊びがあります。
やらなければならないことは幾つもあるのですが、そのなかでも重要項目として位置づけされるものです(ちなみに誰に頼まれたわけでもないのですが)。

「爺いの出る幕ではないのでは」

とお思いの方もたくさんいるでしょうが、そこはそれ、今という時代の子どもたちが相手なれば、昔なら先輩たちの姿を目で見て覚えたようなことでも、大人がていねいに教えてやった方がよいことが多々あります。見るところ、「川で遊ぶ」というのはそのうちの一つでしょう。そう思うがゆえに自らにその任務を与え、数年が経ちます。

もちろん、相手は年々成長し、こちらは年々衰える。これが自然の理なのですから、いつまでもつづけることはできないでしょうが、ただ今のところは、まだまだ大丈夫。ということで、淵、瀬、堰に落差と、いろいろ様々に場所を変えながら、それぞれでの遊び方をレクチャーしているというわけです。

つい先日のことです。
「水切り」に励んでいた小学生兄弟ふたりのうち兄の方が、おもむろに近づいてきてこう言いました。

「石が跳ねて向こうへ飛んでいくってことは、人間も水の上を歩けるってことぜねえ?」
「ほぉ」とワンクッションを入れたぼくが、「やってみいや」と促すと、それから彼は何度も何度もトライします。

仮説を立てる→実行する。
その結果が失敗であれ成功であれ、この繰り返しから人は何かを学び、この繰り返しが人を成長させます。この理に異論のある人はそうそういないでしょう。
この場合の彼が立てた仮説は、「人間は水面を歩ける」でした。そして、己の肉体を使ってそれを立証しようとします。一歩目の歩幅を変え、踏み出す角度を変え、助走をつけ、またストロークを狭く回転を速くして。
もちろん、それが不可能であることは、大の大人なら十人が十人承知していることです。家に帰ってその動画を見た彼らの母もまた、飽くことなくチャレンジする我が子に大笑いしたあと、「だいじょうぶかしらん」と心配気でした。

しかしぼくは、すぐさま否定をすることはしませんでした。なんとなれば、昔から水上歩行は少年たちの憧れだからです(不思議と少女がそれをしているのを目撃したことはありません。やはりちいさい頃から男はバカです)。


では、あらためて水上を歩く(走る)ための物理法則を考えてみましょう。
水の上を歩くには、地面のように安定した表面が必要ですが、水は液体であるため、個体のように強い反力を生じさせることができません。したがって、体重を支えるために特別な技術を必要とします。
水上をスイスイといかにも軽やかに移動する小動物、たとえばアメンボは、表面張力を利用してそれを行っていますが、その方法は軽い、しかもムチャクチャ軽いという身体的特性をもつものに限定されます。

たとえば、水上走行をすることで有名なバシリスクトカゲは、特殊な形状をした足の指で水面を叩く力を強化すると同時に、ストローク時にエアポケットをつくり、下に引っ張られる力を軽減するといったメカニズムで水の上を走ります。
ポイントは体の重力に対抗する力をどうやって発生させるかです。原理的にはかんたんです。
水の表面、あるいは水面下で足を交互に速く動かす。そうすれば体は水に沈むことがありません。では、人間にそれは可能なのでしょうか。
ある研究によると、平均的な人間が水上を走るには毎秒4回、足で水面を秒速30メートルの速さで叩く必要があるとのことです。念のため繰り返しますが「秒速」です。これは、通常の人間の足の筋肉が発揮できるパワーの約15倍に相当するそうです。ということは、素の人間は水上走行することが不可能という結論になります。

ではどうしたらよいのか。これについて、日本語では「公共科学図書館」と訳されることもある米国の科学雑誌『PLOS』で2012年に発表された研究があります。
研究者たちは、小型のフィンを足に装着した人間を、プールにハーネスで吊るし、低引力状態を再現してみたところ、地球上の10パーセントの引力であれば、すべての被験者たちが7秒以上水面上に留まっていられることを確認したそうです。
ということは・・・・そう、月です。
地球の17パーセントしか引力がない月面であれば水上走行が可能となります。


この事実、孫にはしばらく黙っておこうと思っています。
なぜならば、「仮説を立て実行する」という行為から得られた結果が失敗であれ成功であれ、その繰り返しから人は何かを学び、その繰り返しが人を成長させるからです。
いつ気づくか。それが問題ではありますが。




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