修繕工事の話をするために事務所へ寄ったついでに、つくってひと月ほどが経ったコンクリート舗装の経過観察も兼ねて庭へとあがる。
もちろん、それは事実にはちがいないが、みなさんご存知のように「事務所へ寄ったついで」や「舗装の経過観察」というのは方便でもあって、わたしの場合、それらの本来業務と「庭へあがる」は不可分なセットとしてある。つまり、こと「モネの庭」に限ってはどのような業務であっても「ついで」がなければならず、その限りにおいて、「それは”ついで”とは呼べないのではないか」という指摘は受けつけない。
新緑にかぎらず、目に映るすべての色が若々しく眩いのに、池のまわりを独り歩くおじさんからは「春やなぁ」という月並みなことばしか浮かんでこない。まったく、おのれのボキャ貧がうらめしい。
ん?まぶしい?ということは・・・待てよ・・・そうだ、あそこだ。
思いつきにニンマリとしてボルディゲラの庭まで足を伸ばしてみた。
池のまわりの小径に淡い黄色の花がたれさがっていた。
なんという色だろうか?クリームレモンという名前が思い浮かんだが、そんな色名称があるのかどうかは定かでない。
なんという花だろうか?ミモザという名前が思い浮かんだが、わたしの知っているミモザの花はふわふわなのに、この花はちいさい。葉は、線形だと表現してもおかしくないほど細い。
Googleレンズで調べてみると、「アカシア」という答えが出た。
アカシアか?わたしの知っているアカシアとは似ても似つかないが、スマホの画面に写し出されたいくつかの候補と、目の前の植物の花と葉はソックリだ。
疑問を解決するためにヒゲさんに電話をしてみた。
「今、庭へ来ちゅうがやけんど、ボルディゲラの池のまわりにたれさがって咲いちゅうアカシアみたいな花ってなに?」
Googleの出した「アカシア」という答えに疑念を抱きつつ、平気で「アカシア」という名称が口をついて出てくるのだから、このオヤジあつかましい。
「ああそれ、ミモザです。ミモザ◯△▼」
「あーミモザか」
自らがまず浮かべたミモザという名にも疑念を抱いていたのに、相手がヒゲさんなら一も二もなく信用してしまうのだから、このオヤジ節操がない。
ひとしきり庭の感想を述べたあと電話を切り、さて、と思い起こしてみる。彼がミモザのあとにつけた◯△▼の部分が判然としないのである。たしか・・・プロパガンダ・・・いや、それはあり得ない・・・フロバンダ・・・う~ん・・・そんな感じだったが・・・。
それ以上記憶をたどっても時間のムダだとあきらめて、不完全なまま検索をしてみる。
「ミモザ フロバンダ」
画面に出てきたのは「次の検索結果を表示しています”ミモザ フロリバンダ”」。さすがGoogleだ。瞬時に正解へとみちびいてくれた。フロリブンダ
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フロリバンダは、細葉のアカシアで樹形が整いやすい品種です。笹のような葉が涼しげで、枝はしだれています。
(『nae-ya』より)
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マチガイない。ミモザ・フロリバンダである。ではアカシアとの関係はどうなるのだ?こうなると止まらない。調べてみた。
選んだのはずばりそのもののタイトルを持つサイト。『ミモザとアカシアの違いは?お花屋さんで人気*ミモザの種類を総まとめ』。
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黄色い花を咲かせるアカシアがヨーロッパに持ち込まれたとき、「これはオジギソウ(ミモザ)に似ているアカシアだな」ってことで「ミモザアカシア」と呼ばれるようになりました。
それがいつしか「ミモザ」と略して呼ばれるようになり、もう黄色い花のアレはミモザ!!ってことになってしまったのです。(カクテルのミモザも、ミモザサラダも、黄色いミモザのイメージから作られていますよね)
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そこには、「最後にとっておきの、混乱する情報」と前置きをして、「アカシアの花」と呼ばれているものが「ニセアカシア」というまったく別の植物であることが多い旨も記されていた。
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アカシア蜂蜜のアカシアは黄色いお花のミモザとは関係なく、ニセアカシアの花なのです。
(ちなみに、石原裕次郎のヒット曲「赤いハンカチ」に歌われる「アカシアの花」も、レミオロメンの「アカシア」も、ユーミンの「acacia」も、ニセアカシアのことです)
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ミモザアカシアの花の下でひとしきり調べたあと、♪アカシアの花の下で・・・♪、裕次郎の往年の大ヒット曲を脳内で口ずさみながら歩き出そうとすると、年配夫婦とその娘とおぼしき3人づれの会話が耳に入る。
「コレ、なんていう花やろね?」
すかさず脇から口をはさむわたし。
「ミモザです」
「え?私の知ってるミモザとちがう」
「はい。ミモザ・フロリバンダっていう種類なんです」
「へ~、そうなんですね。ありがとうございました!」
まったくもって付け焼き刃もいいところだが、なんだかとてもよいことをしたような気分になって、意気揚々と引き上げる、「ついで」の「ついで」の帰り途。