装蹄や削蹄の現場って、本当に汚いですよね。こないだ、削蹄に来た方が、「グラインダーで削蹄すると、埃が目に入って結膜炎になる」なんておっしゃってました。仕事中に作業者が健康被害を起こす事態はあってはならないはずですが。。。。作業環境等々改善しないと、本当に誰も削蹄師なんかやらなくなっちゃいます。グラインダーで蹄を削る場合、ゴーグル&マスクは当たり前、みたいな衛生教育をやってください、関東装蹄師会様。
蹄は汚いもの、床が汚いから、掃除が行き届いてないから、という削蹄師やオーナーの言い分はごもっとも、とは言えない。だって、無理ですもん。但し、床の環境整備ができないかというと、これはできる。という提案はあります。今後書きます。今回は、どうやって蹄を消毒洗浄するべきか、について。それには、まず、消毒薬の種類について、理解しなければなりません。
消毒薬の分類に関しては、健栄製薬のページに詳しいですが、その中から、図版をちょっとお借りします。
白癬菌は真菌のうち「糸状真菌」に分類されています。従って、低水準消毒薬は全く無効ということになります。白癬菌を殺滅したくば、中水準~高水準の消毒薬を使わなければなりません。
これを、具体的な商品でみてみますと
低水準消毒薬
- クロルヘキシジン:オスバン・ノルバサン等
- 塩化ベンザルコニウム:ヒビテン・パコマ等
中水準消毒薬
- 次亜塩素酸ナトリウム:塩素系ハイター等
- ヨード:ポピドンヨード等
- アルコール:エタノール等
この辺までは商品が出てきますが、高水準消毒薬となると、なかなか一般販売はされていない。
で、大動物業界でやたら使われてる「パコマ」なんですが。これの主成分は逆性石鹸=低水準消毒薬なんです。だもんで、ウイルスにも真菌にもほぼ無効、なだけでなく、高濃度では細胞毒性もあって(つまり、動物に有害)、環境負荷が大きい。効果より副作用が強い。
なのに、なんでパコマパコマ言うんだろうと思ってたんですが、どうやら、この本のせいらしい。
この本には、大動物の畜舎衛生の方法が色々書かれています。著者の方が、パコマを売り込んだ人、なんだって。この方の営業努力のおかげでパコマが浸透したんだけども、残念ながら、今や時代遅れになってしまった・・・・。真菌にもウイルスにも無効じゃ意味なし。おまけに動物に有害&環境負荷あり、とくれば、もはや使うべきではない薬と言えます。
では、中水準消毒薬はどうか。塩素系ハイターはその辺のドラッグストアで売っていますが、強アルカリで、勿論動物の皮膚なんかに使っていい薬剤ではありません。蹄に対してもそう。塩素系で最近クローズアップされているのは、いわゆる「除菌剤」系のもの。昨今のコロナ騒ぎでスーパーでも扱うようになりました。例えば当協会でも取り扱っていますバイオウイル等。これらの塩素系除菌剤は、おおむね二酸化塩素を殺菌成分として含んでいます。この化合物の殺菌力は強力で、しかも動物に無害なので、急速に広まってきています。
ただ、この手の塩素系除菌剤の大欠点は、「有機物に触れると、即分解してしまい、殺菌力を失う」こと。これを「失活」といいますが、要は汚れた場所に使ったら、その効果は気休め程度になりかねない。最近、この液を噴霧して除菌している大動物畜舎が増えてきていますが、その効果には懐疑的なものがある。基本有機物まみれの汚い場所なので、どうなんでしょう?ただ、きちんと洗浄した蹄に使う分には効果が高い。洗浄が欠かせないのは、消毒効果を十分に発揮させるためにも重要だという事です。
ほかにヨードがありますが、これは簡単に揮発してしまいます。定着してくれない。だけでなく、着色しちゃうから評判悪いですよね。価格が高いのも難点。大量・長期間使うと、甲状腺に悪影響を与えかねないのも、問題ではあります。アルコールは、カビに対して確かに効果が高いんですが、引火性があるからねえ、装蹄のような現場(ごうごう火を使ってます)で使うには、かなり気を付けなければなりません。
では、高水準消毒薬は?グルタルアルデヒド等は、完全に業務用の消毒剤になってしまいます。毒性も高くて、とても生体に使える代物ではない。
ここで、最近大きくクローズアップされている薬剤が「過酢酸」です。この薬剤の成分は非常にシンプルで、酢酸+過酸化水素なんですが、広域&強力&生体に無害&すぐ分解されて(但し、有機物には関連しない)環境負荷0、というまことに優れた除菌剤です。
で、これは、例えば
のように、市販もされるようになってきました。現時点では、この薬剤が最強&最善でしょう。最近では、この過酢酸は、原液を全農で扱うようになっています。原液はそれなりに高いんですが、これ、600~2000倍希釈で十分有効なので、一回買えば、どこまでも長持ちしそうなんですよ。