馬は、大動物の中では、治療しやすい方なのでは、というのは前回書きました。でも、そうはいっても、なかなか馬に飲み薬をやって治療、という話は聞かない。その理由としては
- 基本的な投薬量がよく分かっていない。
- 経済的な問題(連続して診療できない事情)
- 疝痛恐怖症
が挙げられるのではないかと思います。
1)薬用量の決定というのは、本気でやると非常に大変です。投薬量は、薬剤が持つ効果を十分に発揮して、かつ副作用がほとんど出ない、という範囲を決める、という事なんですけど、これを決定するには、体内での薬物動態(どう吸収され、どの臓器に集まり、どこを経由して排出されるか)から始まって、色々調べなくちゃなりません。
小動物に使われている動物用医薬品については、かなりきちんとしたデータに基づいて、薬用量が決定されています。ただ、認可されている動物用医薬品だけで世の中の病気に対応するのは無理なので、人間の医薬品も使うことになる。この場合は、しょうがなくて、人から外挿して類推して投与量を決めます。で、使いながら様子を見る、感じでしょうか。後は、世界の文献を探る、とか。
大動物の医薬品を見ると、なんだかその辺がいい加減なんですよね・・・・・。ホントーにこの量で大丈夫なの?と思うことが結構ある。多分、大動物の場合、特に牛や豚のような家畜は、「治療」にいそしむ、という可能性は限りなく0で、体調が優れなければ、じゃあ屠場に出すかあ、で終了になるケースが多いから、必要度が低いんでしょう。
馬は、しかし、特に最近の乗馬馬の皆さんにはオーナーが付いている人も多いから、何とか助からんか、治療してもらえないか、という潜在ニーズは高いはずなんです。拾うべきです、獣医なら。
でも、ここで2)が出てきちゃうんですよね~~。なんでこう、金がかかるんだ???という疑問というか、悲鳴というか。最近は、小動物業界も患者からがめつく金を取る獣医が増えてまして、そういう事をするから、自分の首を真綿で締めることになるでしょうが、と苦々しく思っているんだけど。治療に金がかかる、じゃあ、飼うのやーめた、って人が増えてますから。動物を飼う人が増えなければ、我々の仕事のニーズもなくなっちゃうっての。
馬の場合は、そもそも大動物を診察します、という獣医が少ないし、きちんと診断して、こういう治療をするから、この薬飲ませてください、なんてやってくれる獣医なんか皆無でしょう。で、3万円+検査料等々、下手すると一回の診察で5万とか吹っ飛んでく、それでまともな治療案も提示されないんじゃ、もういいですよ、となりますよね。
この件で特に問題なのは蹄病だと思います。蹄病については、後ほど詳述しますが、原則削蹄師や装蹄師は、蹄病を治せません。治す権利も持っていない。病気なんだから、獣医が治さなくちゃなりません。なのに、未だに「蹄葉炎の原因は不明」なんてアホなことを言ってるんだもの、なんの頼りにもなりゃしない。この間、自分の馬について、そういう事がありまして、馬の獣医と大喧嘩になったんですけどね。治療方針が出せないなら、自分の馬に口出しするな、という事でね。
それから、飲み薬に抵抗感がかなりありそうな理由として、3)が挙げられると思います。某クレイン系に通ってた頃は、下手な生徒に付き合ってくれる優秀なお馬さんが次々に疝痛でお陀仏になるので、これはいったいどういう事なのか、と心底思ったもんです。疝痛もね、一般的には原因不明とされているから。こちらとしては、もう原因は明快すぎるんですけどね。これも、後ほど詳述します。
ただ、この件は、自分の中でも治療上の心理的なハードルになっています。新しい薬を飲ませようと考えた時に、飲み薬をやったら、途端に疝痛起こしてバッタリ、となるんじゃないか、という。自分ちで飼っているなら、さくっと対応できるだろうけど、馬が乗馬クラブに預託されているということは、発見が遅れる、判断が遅れる、知らせるのが遅れる、そんなこんなでお陀仏になるのでは、という恐怖心ね。普通には、あり得ないんですが。
その理由は、馬の消化管構造から明らかなので。要は、馬の消化管のメインは盲腸~結腸で、ここに薬剤が届く前に小腸で全部吸収されてしまえば、問題はない、はずなんです。そうは思っても、飲ませた事のない薬を飲ませて大丈夫かなあ、となると、飲ませないとお陀仏だ、というあたりまで行かないと踏み切れない感じはありますね・・・・・・。
ので、自分の馬は気の毒に、あれこれ実験されちゃってます。別にお陀仏にしようというわけじゃないんですが、色々病気をしてくれるもんだから、結局治さざるを得なくなった。本当は、こういう事は馬の獣医が根性入れてやるべきなんですけどね。結局責任逃れなんでしょうなあ。文句言うだけなら簡単だもん、オーナーの飼い方が悪い、乗馬クラブの管理が悪い、装蹄師がへっぽこだ、なんとでも言えるからさ。
で、2)に関しては、薬用量がどうやら少なくて済むらしいという事が見えてきています。従って、意外にお金がかからないことが分かってきました。ですので、ぜひ、トライしていただきたいと思います、特に、蹄病については、飲み薬を使わない限り治りません。3)については、要はチームワークが大事なんです。クラブの人には、きちんと薬を飲ませてもらうように依頼する、なにかあったら、即連絡を入れてもらう、獣医にも連絡を取ってもらう、こういうチームワークをつくれないクラブが多いから困るんですが。以前、クラブ側が勝手に投薬を中止していたことがあって、その時は怒りましたけど、割とこういう事を勝手にやるクラブが多そうなのも事実なので。
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