ハミなし頭絡で楽しい馬生活!日本ビットレスブライドル協会

テーマ別に連載形式になっています。テーマ別に最初の記事からお読みください。

蹄病を理解するー12 白癬菌感染を増悪させるもの

2020年03月14日 | 裸蹄管理

 蹄の脱落というのは、蹄葉炎の最終形態とされていて、馬関係者ならだれもが恐怖におののく症状です。その恐怖感の元は結局

  1. 蹄の脱落を招く蹄葉炎の原因・悪化要因が分からない。
  2. 原因が不明どうすれば防げるのかも分からない。

に尽きる。しかし、爪水虫に対する免疫反応のせいですよ、となれば、スッキリしますでしょ。で、こんなことは、人間の爪水虫でも重症例では起きがちなんだから、となれば、ああ成程、となると思うんですが。まとめるとこんな感じ。

これについて、これから更に解説します。

 装蹄されていない蹄ってサラの若馬であっても綺麗なもんです。YOUTUBEを見ると、「初めての装蹄」という名前の動画が結構あって、それを見ると、蹄底がちゃんとしてるのが分かります。この手の動画は馬の「成人式」風ですけど

自分に言わせれば「爪水虫寄生の儀式」にしか見えない。可哀そうだよ・・・・。無駄なことされて。

 この手の動画を見ると、サラの若馬でも初装蹄前の蹄ってきちんとしてます。それがどうして、10歳にもなるとボロボロになってしまうのか?その位の年月でもって、白癬菌がじわじわ浸食していくわけですよ。寄生増悪の因子に「時間」を挙げたのはそれ。「蹄質」は、最初の頃は不顕性感染(白癬菌が引っ付いていても症状として出ない)状況になる場合。蹄質がしっかりしていて、白癬菌が入り込みにくければ、侵入するまで時間がかかる。但し、装蹄するとアウト。釘伝いに侵入してしまうからです。「白癬菌の量」は削蹄師の道具に引っ付いている白癬菌の量で、例えば、水虫がその厩舎で蔓延していれば、当然道具にくっつく白癬菌の量はうんと増える(今はどこの厩舎も水虫だらけでしょうけど)。「床の衛生度・湿度・気温」は、真菌が育ちやすい環境かどうか、ですね。当然梅雨時・秋雨の頃が症状が増悪しやすい。不潔な床ならおさらでしょう。コンクリの床はほぼアウト。コンクリは水を吸い込んでしまって雑菌の温床になるからです。

 以前、オーストラリアの削蹄師さんが日本に裸蹄管理の講演に来た時、裸蹄の方が蹄病が起きない、と言っていました。これには、オーストラリアの風土が関与しています。この間の大規模・長期の山火事が全く消火できなかったのは、オーストラリアは乾燥していて、水が少ない、湿度がかなり低いから。消火しようにも、そもそも水がなかったんだな~~。

 でも、その環境なら白癬菌は増殖しにくい。日本は、それとは正反対の気候。湿気が多くて、ざぶざぶ雨が降る。ジトっと暑い。白癬菌の増殖に極めて適した環境。だから、日本の裸蹄馬は管理がうまくいかないんです。


蹄病を理解するー11 馬への白癬菌の感染経路

2020年03月09日 | 裸蹄管理

 人間の爪水虫の場合、爪への寄生は皮膚の水虫を放置した結果、と言われています。いきなり爪に白癬菌が住み着く可能性はかなり低い。皮膚の水虫からじわじわと爪に移行する。直に埋め込む可能性があるとすれば、やはり爪切り等々直に爪に触る道具でしょう。こういう道具を消毒もせんと共有すれば、シイタケ栽培と同じ、原木に菌を植え込むように、爪に白癬菌を植え込む結果になるわけです。

 馬や牛の場合、そういう効果を発揮しているのは、間違いなく削蹄師の皆さんが使っている道具でしょうね。だから、いきなり爪に白癬菌がたかってしまう。従来蹄病の原因が「よく分からん」と言われていたのには、それなりの根拠があります。まさか、削蹄や装蹄が蹄病の元だなんて!という思い込み(というか、社会常識がない、馬業界のヘンさ加減とも申しましょうか。または、特殊技能の持ち主である装蹄師や削蹄師さんに「ケチ」をつけているようで悪い、という忖度か)、人間のような「皮膚爪に移行」という従来の寄生拡大コースを取っていないのでピンとこない、試料を取ってもコンタミネーションばかりで、真菌はありそう、しかしそれが病原体と断定できない、というこの辺が理由でしょう。そのせいでモタモタしていたわけ。

 しかし、白癬菌感染のせいだよ~~、と断定すると、その結果起こる蹄病はこの図のようになるんです。

 

 この図には、元来別々の疾患と考えられてきている蹄病がほぼすべて網羅されてますが、成り立ちは全て同じです。

白癬菌が削蹄や装蹄によって蹄に刷り込まれる 
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白癬菌がケラチンを食い荒らしながら蹄に侵入し、微細な穴をつくる
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その穴に別の細菌が入り込んで二次感染を起こす

というパターン。蹄底だったら「挫跖」。被覆層と保護層の間なら「蟻道」。保護層と蹄真皮の間なら「白線病」。蹄叉なら「蹄叉腐乱」。蟻道が繋までいっちゃったら「蹄膿瘍」。白線病が蹄全体に広がってきて「蹄葉炎」。細菌は真菌よりうんと小さいので、白癬菌がこしらえた空洞に簡単に入り込めるんですね。

 こうやって整理すると、非常に分かりやすい。証拠?こないだの真菌培養が一番ですが、更にというなら、蹄の切片を電顕で調べてほしいんです。ぜひ、大学にお願いしたい。卒論なんか、どうでしょう?大発見になりますよ。もう一つ、臨床家としての最大の証拠は

「抗真菌剤の経口投与による治療でちゃんと改善して、今やほぼ治った」

に尽きます。こっちは臨床家でありまして、研究者じゃないもんで、治ればOK。更に言うなら、症例数を増やしたくてしょうがないんですけども。治療に「偶然」はありません。「奇跡」もない。目論見が当たった、だけ。

 前回の動画でぴょんぴょん障碍飛越をしているのが、治った馬です。去年の6月ごろはもう蹄葉炎だ、このままだと蹄が脱落して安楽死だぞとかなんとか馬の先生に脅されたんですがね、なんの治療の指針も出してこないもんだから、呆れて自分で治療方針を立てて抗真菌剤で治療した結果がこれ。

 ところで、蹄の脱落ですが、これは、人間の爪水虫でも起こることです。爪全体が白癬菌に侵されてしまうと、それに対する免疫反応の結果として脱落が生じる。勿論馬の場合は、こんなことが起きてしまえば命に係わるわけですが。

参考:白癬の予防とガイドラインに基づく治療方法~感染症とリハビリ~ 


Dr.Cook'sハミなし頭絡で最近の障碍練習(垂直・ダブル・オクサー)

2020年03月08日 | ハミなし頭絡

最近の練習風景。Dr.Cook'sハミなし頭絡で障碍飛越。
ハミがないとどうやって方向転換するのか?というご質問をよくいただきます。このスピードでも割と簡単です。急旋回に最初は戸惑っていましたが、きちんと障害に視線を合わせることで馬側も予測しやすくなってくるようです。


蹄病を理解するー10 人間の爪水虫の治し方

2020年03月06日 | 裸蹄管理

 前々回でもリンクした東京新聞の記事。かなりよくまとめてあります。この記事の後半に「爪水虫」について書かれていますが、爪は白癬菌にとって、薬も届きにくいし組織に含まれる白癬菌の餌=ケラチンも多いし、爪の中に埋まってのんびり暮らせるってことで、確かに「安住の地」なんですよ。で、その結果何が起こるかというと、宿主である人間は

1)爪の見た目が悪くなる。

2)二次感染を起こして爪周囲のトラブルが甚大になる。

3)ひょうそ等々が生じて疼痛で歩けなくなったり、靴が履けなくなる、糖尿病を併発している場合には、脚の切断に至ってしまうケースも。

という末路になる。ちなみに、水虫の主症状である「痒み」は、これは白癬菌に対する自分の免疫反応の結果起こります。これだけなら、アトピーで痒い、というのとまったく同じメカニズムです。白癬菌の怖いところは、白癬菌が寄生した周囲に簡単に二次感染が起きてしまう点。特に足元は汚くなりやすいから、最初は白癬菌だけだったのに、白癬菌が食い荒らしたケラチンの隙間にすぐ別の細菌が感染を起こして話をややこしくする。糖尿病で症状が激烈になりやすいのは、細菌の餌になる糖分が血中や体液中に多いからどんどこ増える免疫も細菌の増殖ペースについていけない簡単に細菌が血液に乗ってしまって全身に回り、壊疽や敗血症を起こしやすくなるから。この時白癬菌はもうあまり関与していないのですが。

 人間の爪はあんなに小さい、のにこれだもの。ちなみに、爪白癬は基本足の爪に起こります。しょっちゅう手洗いしている手の爪には白癬菌は、まず定着できないからです。

 治療は?とにかく訳分らん民間療法では「奇跡」は起こりません。というか、いい薬が続々開発されているんだから、健康保険を使って皮膚科でサクッと治すのが正しい。爪水虫は、基本飲み薬を使います。現在の主流は3つ。

  1. テルビナフィンの長期連用
  2. イトラコナゾールのパルス治療
  3. ホスラブコナゾールの連用

このうち3)のホスラブコナゾールは2018年に認可されたばかりの新薬で、値段もスバラシイんですが、日本人には「健康保険」という凄いシステムがありますから、それを使えばそこそこの料金で行けるのではないでしょうか?実際のところは知らないんですが。

 3)の治療は1)2)に比べるとかなり短期間で治療することが可能、だそうです。

 そう、1)も2)もとにかく治療に時間がかかる。それが爪水虫を根治させない大きな原因らしい。おまけに、1)も2)も肝機能障害を起こす可能性があるとされてるので、毎月血液検査でチェックを入れることになっている。これがまた、患者の脱落を招くのだ。「めんどくさい」とうのは、本当に困った症状ですよね。心のね。でも、根性で半年~1年位頑張ると、爪水虫から解放される!!筈なんだから、がんばれよ~~。というか、大したことないじゃないですか、薬飲むだけなんだからさ。と思うんだけど。血液検査だって、保険使って健康チェックしてもらってるんだと考えれば、かなり「お得」な話、なんだけどなあ。人間ドックで血液検査、高いですから。

 でも、「奇跡の民間療法」はなにかというと塗り薬で何とかしようとしますね。こっちの方がよほどめんどいと思うんだがな。多分「皮膚の病気に飲み薬って効かないような気がする」だの「副作用がありそうで不安」だの、こういう気分に付け込んでくるんでしょうけど。爪には白癬菌が埋まってる訳で、爪には薬なんかほぼ浸透しない、んだから、効きっこない。金の無駄です。

 埋まってる白癬菌が更に爪に浸潤しないように飲み薬で抑え込む、のが飲み薬がやっていることです。爪自体はすでに死んでいる組織だから免疫もへったくれもない、一回白癬菌に侵入された爪が脱落するまで白癬菌はそのまま居ついてます。だから、爪が完全に生え変わるまで、飲み続けなくちゃならない、のが時間がかかる理由です。ホスラブコナゾールの優れた点は、爪組織への移行性が極めて高く、爪に居ついている白癬菌にアタックしてくれることです。従来の飲み薬にはそこまでのパワーはないから、のんびりやっていくしかない。

 肝機能障害については、あらかじめ分かってる、というのがポイントで、だから、先手を打って血液検査しましょう、という事なんですね。分かっている副作用というのは非常に安全レベルが高い。予見できない副作用が一番怖いんだけど、特に日本で販売されている薬に、そういうのはまずない、と言っていい。だから、不安感って本当に「気分」に過ぎない、というのは押さえておくべきことだと思います。


蹄病を理解するー9 人間の水虫はどううつる?どう防ぐ?

2020年03月06日 | 裸蹄管理

 ということで、妙に軽んじられている水虫ですが、白癬菌を自分の皮膚や爪で飼っていると当然他人にうつす恐れが高くなる。白癬菌は接触で広がります。まず、家族。次に他人。家族間は、爪水虫の場合、やっぱり爪切りを共有しちゃうのがまずい。一人一人専用の奴を使って、同じ場所に保管しない、この位気を使わないとうつってしまう。または、毎回使う前にアルコール消毒をしっかり行うか。他人にうつす恐れがあるのは銭湯・ジムやプールのシャワールームや着替えする場所等。足湯も怖い・・・・。

 今日のニュースで、最近流行りの新型コロナ、陽性判定された男がわざわざ店で飲み食いした挙句吹聴して回る、という実にガキッぽい行動をしたという話が出てますが、水虫持ちの皆様は、同じことをやってるわけですよ。さっさと治していただきたいものです。

 そういえば、大学生だった頃、大学の男子寮で「いんきんたむし」が流行して大騒ぎになったことがありました・・・・。これも、実は白癬菌感染症で、大学寮の風呂を経由して感染が広がった例です。ヤダヤダ・・・・。

 こうした寄生疾患や感染症は例えば癌治療のように免疫を落とす可能性の高い治療を行うと、確実に増悪します。糖尿病も危ない。糖尿病のせいで足の切断に至るケースは、こうした疾患を一緒に抱えてて、なのに放っておく、という「病気に対するだらしなさ」が招くんですね。

 白癬菌の寄生を防除するのはやっぱり日ごろの衛生管理なんですが、白癬菌の寄生に至る特徴を知っておくと、やりやすくなります。白癬菌は、皮膚に付着してからそこに定着するまでに12~24時間かかるとされています。その間に洗浄消毒すれば白癬菌は定着できずに落ちてしまいます。だから、毎日お風呂に入って洗うのが鉄則。あと、有効な消毒薬を使う事。真菌=一種のカビですが、カビに有効な消毒薬というのは、実はかなり少ない。一般のご家庭で入手できるのは、ハイター等の塩素系・アルコール程度。ただ、最近はいいものが出てきました。イソプロピルメチルフェノールという物質で、最近は薬用ミューズにも入っています。ミューズ等の薬用殺菌石鹸は、かつてトリクロロキンという成分を使っていたんですが、これが環境汚染の問題でアメリカ等で使用禁止になった、その代替品としてイソプロピルメチルフェノールを使うようになりました。この成分が入っている薬用シャンプーやボディーソープはかなり増えてきているので、これを使ってこまめに洗う事で、家庭内での水虫の伝搬は防ぎやすくなってきていると思います。水虫が汚染している靴下等は塩素系のハイターできっちり消毒(漂白もされちゃうでしょうけども)して、家族とは別に洗う、くらいの心遣いが必要です。