長らくお世話になっていた免疫学の教授が、間もなく退官の日を迎えられる。
その頭脳はすば抜けて明晰、
行動は羽の生えたように軽やかで、
1年を通して、さまざまな国を闊歩している。
研究も縦横無尽で、
手法も、視点も、いつも独創的だが、
信念は恐ろしく筋金入り。
つい先日、
第2の研究室におじゃまする。
ここは、さまざまな国の学生が自由に出入りし、部屋中が、本と世界中の不思議なものであふれている。
ここは、世界そのものだった。
部屋に入ると、
部屋いっぱいの本がほとんどなくなっている。
もちろんそうだろう。
次の人のため、部屋を明け渡すのだから。
「何を持っていかれるんですか?」
「結局、何もいらないね」
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カードを引くと「世界」。
じっと眺めていると、
教授との会話が浮かんだ。
「結局、何もいらないね」
教授の世界は、
全ての教授の頭の中に。
結局、世界はもともと教授だったのだ。
まさにそうだと思い至り、
私は、心から満足した。
そして、全てを自分に刻んで、
「何もいらないね」と、
私も軽やかに言えるようになってみたいものだと、
つくづく思った。
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