さくらの花びらが舞っている。
風に吹かれて、
いろいろなものから自由になって、
上に行ったり、波打ったり、
いつまでもいつまでも舞っている。
青空の中に飛んでいく。
小さな花びらたち。
「こうやって、いるの」と言う。
そばにいる、のとも少し違う。
いつもいる、のでもない。
でも、
目を閉じればそこにいる。
手を伸ばせば触れられるのではないかと思うくらい、
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原因不明の病気になって、
日々の苦しみの中、
このことに、一体どんな意味があるのか、
という問いかけをどれほどしただろう。
思いつくもの全てに、どれほど問いかけただろう。
家族に、友人に、恩人に、医師に、神仏に、ご先祖様まで。
けれども、
どんな言葉を聞いても、絶望は消えなかった。
退院後、日常生活を送れるようになってからしばらくしてのこと。
毎日 . . . 本文を読む
いちごは待っていた。
いつものようにビニールハウスの中で。
その美しさ、おいしさに、誰もが顔を輝せ、その素晴らしさを讃えることを。
子供も大人も笑顔になる。幸せになる。
こんないい仕事があるだろうか。
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いちご農家の若き3代目が、悩んでいる。
手塩にかけた自慢のいちご。
今年もいちご摘みを開くことができなかった。
期間限定のいち . . . 本文を読む
ひょっこり現れた、
あれは・・・道祖神というものではないだろうか。
20センチぐらいの小さいおじいさん。
思わず笑ってしまう。
神さま、というのは、
ある役割をもったものだと思っている。
人が、生きていくため、納得するため、希望をもつため、
いろいろな理由のために、
目に見えるもの、見えないものに関わらず、
何らかの役割を持たせ、信仰の対象にしたものだと思っている . . . 本文を読む
病室のベッドに横たわっている。
目を開けると、
白い着物に黒い羽織をふんわりとまとった『寿命』が、
空から降りてきたように、宙に浮いている。
両手を広げながら、
こちらに向かってくる。
ちょっと笑ってしまうのが、
真っ白なお面の真ん中に
縦書きで『寿命』と書いてあるのだ。
ああ、と思う。
そうなのか、と思う。
『寿命』は、こんなにも優しいものな . . . 本文を読む
一つの鍵で、一つの情報が開かれる。
いったい何を読んでいるのか、何を見ているのか、何を聞いているのか。
今の段階で(科学的にという意味だが)、はっきりと説明することはできないだろう。
でも、
ウイルスだって電子顕微鏡が登場して存在を確認できたわけだし、
人間の目には見えない紫外線や赤外線も、
今では機械を通して、こんなふうに見えますよ~と知ることができる。
病気になっ . . . 本文を読む
退院してから、1年半が過ぎた。
この間、一度、症状の悪化により、
再び死と手を結ぶかに思えたけれど、
そうはならなかった。
ひとまず、インナーガイドと名付けた正体不明の光について、
ぼんやりと、言葉が見つかり始めたころだった。
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退院後、仕事を再開した当初から、
光はその中身を開き始めた。
そこには恐 . . . 本文を読む
皮膚感覚は、とても繊細だ。
特に指先の鋭敏さには、心底驚かされる。
昨日と同じ水仕事をしていても、
気温や空気の乾燥度などの変化を感知し、脳へ伝えてくれる。
台風が通り過ぎた昨日、
急に空気が乾燥し始めた。
いつものように洗い物をしようと水に手をつけたが、
ふと、ゴム手袋をはこうと思い立つ。
その後、慌てるにまかせて2回目以降はゴム手袋をせずに。
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一つのことを、もうずっと考えている。
どれだけ考えても、答えが分からないので、
気が付くと10年も20年も考え続けている。
そういうものが幾つもある。
病気によって死を常に身近に感じるようになったことで、
それらの問いの幾つかには、
私なりの答えが、少しずつ姿を現した。
もちろん、この先、変わることもあるだろう。
それでいい。
その変化を常に携えながら、
どこま . . . 本文を読む