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『かばん屋の相続』 池井戸潤

2018年02月15日 19時57分00秒 | ■読書
「池井戸潤」が銀行に勤める男たちの悲哀を描いた短篇集『かばん屋の相続』を読みました。


花咲舞が黙ってないに続き「池井戸潤」作品です。

-----story-------------
文春文庫オリジナル! 
銀行に勤める男たちの悲哀を描く短篇集

池上信用金庫に勤める「小倉太郎」
その取引先「松田かばん」の社長が急逝した。
残された二人の兄弟。
会社を手伝っていた次男に生前、「相続を放棄しろ」と語り、遺言には会社の株全てを大手銀行に勤めていた長男に譲ると書かれていた。
乗り込んできた長男と対峙する「小倉太郎」
父の想いはどこに?
表題作他五編収録。
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2005年(平成17年)から2008年(平成19年)にかけて雑誌『オール讀物』に掲載された作品を収録した短篇集です。

 ■十年目のクリスマス(原題:非常出口)
 ■セールストーク
 ■手形の行方(原題:手形)
 ■芥のごとく
 ■妻の元カレ
 ■かばん屋の相続
 ■解説 村上貴史



『十年目のクリスマス』は、10年前に火災事故で倒産した上室電機の社長「上室彦一」を見かけた銀行員「永島慎司」が、極めて羽振りが良さそうな「上室」の姿を見て、一文無しで露頭に迷ったはずの「上室」に、この10年間で何が起こったのかを調査する物語、、、

10年前に経営危機を迎えた上室電機に融資するか見送るかを巡る「永島」の葛藤や、経営者として従業員や家族への責任を持つ「上室」の必死の思い… そして、当時の状況からは全く想像のできなかった、現在の「上室」の姿を重層的に描きながら、上室電機倒産の影に隠された「上室」の資金繰りの秘密が暴かれていきます。

「会社を経営するんだったら常に出口を用意しておくことが必要」という「上室」の言葉は、実行を伴った言葉だったんですね… 厳密には不正会計なんでしょうが、これも生き残るための術として許されることなのかな、、、

「上室」と、その家族のことが巧く描かれているので、不正と知りつつも、納得してしまうエンディングでした。


『セールストーク』は、京浜銀行羽田支店に5千万円の融資を断られた小島印刷の社長「小島守男」は、どこからも資金を調達できないだろうと思われたが、月末に突然5千万円が振り込まれ、残高不足が快勝された… 融資を担当している「江藤尚人」と融資課長の「北村由紀彦」が疑問に思い、その理由を調査する物語、、、

「小島」は、ある個人から資金を調達したと言い、それを知るための情報として修正した決算書の付属明細書を手渡す… 付属明細書に記載された雑費の支出先がヒントとなり、思わぬ方法で京浜銀行羽田支店から小島印刷に融資資金が流れていたことが判明する。

狡い人間が、真っ当な考えを持つ銀行員にしてやられる展開が痛快な作品でした。


『手形の行方』は、ミュージシャン志望で銀行員はデビューまでの腰掛という不遜な態度を取りつつ、時折、大口の融資案件を獲得してくる関東第一銀行の若手銀行員の「堀田」が1,000万円の手形を紛失したという事件を巡る物語、、、

彼を監督する立場の融資課長「伊丹」は、不貞腐れたような態度を取り続ける「堀田」とともに、手形の発見に尽力する一方で、手形を渡したタバタ機械や手形の振出人との調整にも奮闘する… 「伊丹」は、やがてこの事件の真相を探り出すが、その真相は、この紛失事件に関与した人々の胸の内を照射し、そして「伊丹」には見えていなかった実像を見せることに。

手形を紛失した場合の対処方法は勉強になりましたが… 何とも言えず、後味の悪い結末でしたね、、、

愛憎が生んだ私怨を、こんな方法で晴らそうとするなんて… 結果的に「堀田」は被害者だったのかもしれませんが自業自得だし、真犯人にも全く同情できなかったですね。


『芥のごとく』は、入行二年目の「山田一」が融資課に異動して担当した土屋鉄商の業績を立て直そうと奮闘する物語、、、

豪傑女社長「土屋」に気に入られた山田は、業績の悪い土屋鉄商を何とか立て直そうと頑張るが、その思いとは裏腹に会社の経営は厳しい状況に… 多くの中小企業が資金繰りに苦しんでいることをしみじみと感じさせられる作品でした。

その厳しい状況を運営している必死の経営者… そしてラストは、、、

厳しい現実を突き付けられ、胸を打つ展開でした… ドラマのように、何事もうまくいくとは限らない、現実を見据えた作品でしたね。


『妻の元カレ』は、銀行員としての将来に悩みつつ、私生活では妻に対する疑念を抱えた「ヒロト」を主人公にした夫婦関係を中心に据えた物語、、、

「ヒロト」は自宅の引き出しから一通の案内状を見つける… それは妻「絵里香」の元カレ「森中」が起業し、代表取締役に就任したことを伝える妻宛てのハガキだった。
このハガキをきっかけにして「ヒロト」「絵里香」に対する不信感を増していく… 大学卒業後、東都銀行銀行に就職して勝ち組だったはずの「ヒロト」は、銀行内では出世コースから外れ、自分は負け組になったと感じ始めており、大学卒業後に正社員としての就職ができず負け組だったはずの「森中」が、経営者として勝ち組になったことも、「ヒロト」の悩みを深くする、、、

オチはないエンディング(その後は読者が想像しろということかな… )でしたが、切実な内容でしたね… 昇格なく横滑りで福岡への異動となった「ヒロト」と、自らの会社が経営破綻した「森中」、結局、どっちが勝ち組なのかな、「絵里香」が人生をともに歩んで行く人として選択された方が勝ち組なのかもしれませんね。


『かばん屋の相続』は、老舗のかばん屋である松田かばんの社長が急逝した後のお家騒動を池上信用金庫に勤める「小倉太郎」の視点から描いた物語、、、

松田かばんの社長「松田義文」が急逝… 「義文」は、会社を手伝っていた次男「均」に対して「相続を放棄しろ」と語り、「義文」の死の一週間前に長男「亮」の弁護士により書かれた遺言状には会社の株全てを大手銀行の白水銀行に勤めていた「亮」に譲ると書かれていた。

父親がなぜ長男「亮」に相続したのかが謎だったのですが、最後まで読んでスッキリ… スカッとする読後が味わえる作品でした、、、

信金の行員と元大手銀行員の対決もなかなかの見物でしたね… 一発逆転の勧善懲悪な物語でした。

どうやら、一澤帆布のお家騒動に騒動に着想を得た作品のようですね。



主人公全員が銀行員ですが、金融ミステリというよりは、その枠組みを活かしつつ、ジャンルを限定せずに愉しめるミステリ短篇集に仕上がっていましたね… 面白かったです。


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