「池井戸潤」が企業間競争の代理競走である企業スポーツ(社会人野球)にスポットを当てた長編作品『ルーズヴェルト・ゲーム』を読みました。
『花咲舞が黙ってない』、『かばん屋の相続』に続き「池井戸潤」作品です。
-----story-------------
◆待望の連続ドラマ化!
◆TBS日曜劇場で2014年4月スタート
◆『ROOSEVELT GAME』(ルーズヴェルト・ゲーム)原作(主演:「唐沢寿明」)
大手ライバル企業に攻勢をかけられ、業績不振にあえぐ青島製作所。
リストラが始まり、歴史ある野球部の存続を疑問視する声が上がる。
かつての名門チームも、今やエース不在で崩壊寸前。
廃部にすればコストは浮くが――社長が、選手が、監督が、技術者が、それぞれの人生とプライドをかけて挑む「奇跡の大逆転(ルーズヴェルト・ゲーム)」とは。
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2009年(平成21年)4月から2010年(平成22年)2月にかけて、学芸通信社の配信により『熊本日日新聞』を皮切りに全国の地方紙に連載され、2014年(平成26年)4月27日から6月22日までTBS系でテレビドラマ化された作品です、、、
タイトルの『ルーズヴェルト・ゲーム』は「点を取られたら取り返し、8対7で決着する試合」を意味し、野球を愛した第32代アメリカ合衆国大統領の「フランクリン・ルーズベルト」が1937年1月に、ニューヨーク・タイムズの記者に宛てた野球記者協会から招待されたディナーを欠席することを詫びた手紙の末尾に記された「一番おもしろいゲームスコアは、8対7だ」という言葉に由来するそうです… 珍しく、放映当時のテレビドラマを欠かさず観た作品なので、期待して読みました。
■プロローグ
■第一章 監督人事
■第二章 聖域なきリストラ
■第三章 ベースボールの神様
■第四章 エキシビションゲーム
■第五章 野球部長の憂鬱
■第六章 六月の死闘
■第七章 ゴシップ記事
■第八章 株主総会
■最終章 ルーズヴェルト・ゲーム
■エピローグ
■解説 ―いちばんおもしろい試合、いちばんおもしろい作家 村上貴史
中堅電子部品メーカーの青島製作所は世界的な不況とライバル企業であるミツワ電器の攻勢を受け、経営は青息吐息の状態であった… そのような青島製作所の苦境の象徴が、青島製作所の野球部であった、、、
社会人野球の強豪チームとして名をはせたかつての栄光は既に失われ、ライバルのミツワ電器野球部の後塵を拝し、対外試合ではほとんど勝ちをおさめられない状態まで野球部は落ちぶれていたのである… さらに野球部監督の「村野三郎」が主力二選手を引き抜いて、ライバルのミツワ電器野球部に寝返るという事件まで起こり、青島製作所の役員会では野球部廃止の声まであがる始末であった。
野球部部長をつとめる、「三上文夫総務部長」は野球部存続のために奔走する一方、知人の日本野球連盟の理事に後任監督の推薦を依頼する… やがて、その理事から後任監督として、かつて新設高校で野球部監督をつとめていた「大道雅臣」が推薦される、、、
「大道」は監督に就任するや、大胆な選手の入れ替えやポジションの変更をおこなう… 「大道」のやり方にベテラン選手たちは不満の声をあげるが、「大道」は膨大なデータを駆使して理路整然と反論し、選手たちを心服させる。
しかし、「大道」の野球部再建はいきなり挫折を味わうこととなる… 投手の「萬田智彦」が肘を故障し、野球部を退部し、青島製作所も退職することになってしまったのである、、、
後任の投手を探す大道の目にとまったのが、製造部の契約社員「沖原和也」だった… 「沖原」は製造部と野球部のエキシビションゲームに代理投手として登板し、見事な豪速球を披露したからである。
しかし、「沖原」には高校時代、将来を嘱望されながら、先輩部員にいびられ続け、母親までも侮辱されたことに腹をたてて先輩部員を殴ったという事情があったにもかかわらず、責任を一身に負わされて野球部から放逐されたという暗い過去があった。
一方、青島製作所の「細川充社長」は大口取引先のジャパニクス社から大幅な生産調整と単価切り下げを通告され、窮地に陥っていた… さらにそんな「細川」の苦境を見透かすようにジャパニクス社社長の「諸田清文」はミツワ電器の「坂東昌彦社長」とともに、青島製作所とミツワ電器の合併を勧めてくる、、、
規模の大きいミツワ電器と合併すれば、当座の苦境は乗り越えられるが、合併後、青島製作所のほとんどの社員は新会社からリストラされるのは間違いない… 苦悩の末に「細川」がたどり着いた結論とは?そして、青島製作所野球部は再建されるのか?
野球部と会社の二つの闘いが多面的に描かれて絶妙なバランスで配合されていて面白かったですねぇ… 何度も胸が熱くなり、鳥肌が立つほど感動しましたね。
野球部は、廃部の危機に晒されるというプレッシャーの下で公式戦を闘わなくてはならないのですが、監督とエースと四番を失った状態からのチーム再建や、新監督の方針によるレギュラーの入れ替えによる部内の確執、選手生命を絶つようなケガ、マスコミを悪用した卑劣な個人攻撃を経て、グランドでの勝負へ至りますし、、、
会社は、大口顧客の生産調整に起因する売り上げの減少、ともに真剣に仕事に取り組むが故の営業部門と開発部門の確執、そしてライバル企業ミツワ電器との闘いや、企業存続のための暗闘… 野球部のドラマと会社のドラマが不可分である点が、この作品の魅力でもあるんでしょうね。
そんな苦境を乗り越えて、会社関係者のひとり一人やチームが結束していく姿が胸を撃ちますね… 爽快な読後感がありました、、、
テレビドラマも面白かったけど、原作も良かったな… 肘の故障で自らチームと会社を去ることを決意した「萬田智彦」に監督の「大道」がかけた最後の言葉、
「お前の人生だから、どう生きるかはお前が考えて決めろ。
だが、これだけはいわせてくれ。
野球をやめたことを終点にするな、通過点にしろ。
いままでの経験は、必ずこれから先の人生でも生きてくる。
人生に無駄な経験なんかない。
そう信じて生きていけ」
心にぐっときたし、忘れられない言葉でした。
以下は主な登場人物です。
《青島製作所役員》
「細川 充(ほそかわ みつる)」
社長。
アメリカで経営学を修めた後、外資系のコンサルタント会社で経営戦略コンサルタントをつとめていたが、青島からヘッドハンティングされ、青島製作所の営業部長に就任。
イメージセンサーを会社の主力商品に据えることで大幅な増益を実現し、その功績で青島から後継社長に推される。
自身も青島製作所の保守的な体質を改革したいという思いがあり、社長就任を受諾する。
社長就任直後は順調に営業成績を伸ばしていたが、世界的な金融不況に巻き込まれて、売上は低迷するようになる。
当初はミツワ電器の攻勢に苦しめられていたが、ミツワ電器から合併話をもちかけられたことで、ミツワ電器の弱点と自社の優位性に気が付く。
その後、新型イメージセンサーの開発で会社再建に成功。
合理主義者であり、人間的な感情を軽視する傾向にあったが、青島や社員たちの触れあいの中で次第に人間の結びつきの重要性に気が付き、広い視野を持つようになっていく。
「青島 毅(あおしま たけし)」
会長。
青島製作所の創設者で、会社を現在の規模まで拡大させたカリスマ経営者。
無類の野球好きで若い頃は自ら野球部部長もつとめていた。
青島製作所以外の世界を知っており、他社と客観的に比較できるという理由で細川を後継社長に抜擢した。
社長を退いた後も隠然とした発言力を社内で有しており、細川の相談にものっている。
「笹井 小太郎(ささい こたろう)」
専務。
青島製作所の番頭格で、古参社員からの信頼も厚い。
もともとは自動車のセールスマンだったが、病気のために辞職を余儀なくされ、独学で簿記を学んでいた時に青島に経理係として拾われ、それ以来、青島に忠誠を尽くす。
野球部の存在を無駄と考え、役員会ではたびたび野球部廃止を主張した。
坂東から青島製作所とミツワ電器が合併したあかつきには、新会社の社長にすると言われたが、「自分は青島製作所の社風が気に入っているし、私は青島製作所のことしかわからないから」という理由で合併に反対した。
「三上 文夫(みかみ ふみお)」
総務部長兼野球部部長。
野球に詳しくないが、青島から野球部部長に任命されてからは野球部存続のために奔走し、野球部員の世話を親身になっておこなった。
誠実な人柄だがそれゆえにリストラの責任者として社員のくびを切らなければならないことに苦悩する。
そして社員一人ひとりの人生がかかっているという理由で製造部から送られてきたリストラ候補者名簿を精査し、中間管理職の個人的な感情だけではない、客観的な理由に基づくリストラを実行しようとする。
「朝比奈 誠(あさひな まこと)」
製造部長。
細川より笹井を評価している。
野球部のことを快く思っておらず、野球部員に対してつらくあたる。
リストラ候補者の名簿作成を副部長に丸投げし、下からの報告を鵜呑みにするなど社員の実態把握への関心が薄い。
「豊岡 太一(とよおか たいち)」
営業部長。
役員会では、宣伝効果を理由に野球部存続を主張。
取引先から無理難題をふっかけられ、常に苦悩している。
後にミツワ電器の隠された弱点を発見し、青島製作所再建に一役買う。
「神山 謙一(かみやま けんいち)」
技術開発部長。
かつてリコール騒ぎを起こしたことがトラウマとなっており、以来、開発スケジュールを頑なに遵守するようになる。
そのため、東洋カメラの新型商品発売の前倒しに間に合わないと細川などから不満を言われたが意に介さなかった。
しかし、実際には不眠不休で開発を続けており、新型イメージセンサーの開発を東洋カメラの新型商品発売に間に合わせた。
《青島製作所野球部》
「大道 雅臣(だいどう まさおみ)」
監督。
若い頃は野球選手を志していたが自分にその才能がないことに気が付き、大学ではスポーツ科学を専攻。
その後、大学講師となり、独自の野球理論を編み出す。自分の理論を実践するため、新設高校の野球部監督に就任し、数年で甲子園出場を実現した。
しかし、彼の理論を理解しない保護者と保護者に屈した学校によって学校を追われ、青島製作所野球部監督に転ずる。
全試合のデータをもとに各選手の特性やチームの特徴をとらえ、選手やチームの資質にあった戦法で勝利を得ようとする。
青島製作所野球部を都市対抗野球大会東京地区予選で優勝させた後、青島製作所野球部解散に伴い、他の選手と共にキド・エステート野球部に移籍し、監督に就任。
「古賀 哲(こが てつ)」
マネージャー。
かつては野球部の選手だったが試合中の大怪我で選手生命を絶たれ、たまたま空席となっていたマネージャーとして野球部に残る。
マスコミに顔が広く、沖原を中傷する記事がゴシップ紙に掲載されたときは、沖原の悪評が広まらないようマスコミに根回しした。
情に厚い男であり、萬田の不幸に心から同情し、沖原の理不尽な過去を知ったときは怒りを露わにした。
「井坂 耕作(いさか こうさく)」
キャプテン兼捕手。
古賀の良き相談相手であり、古賀とともに野球部を支える。
捕手として打者の読みを外す配球は完璧だが、野球以外のことには頭が働かず、古賀に解説してもらうことが多い。
「猿田 洋之助(さるた ようのすけ)」
投手。他の選手が一目置くベテラン選手。
大幅な選手入れ替えをおこなった大道に真っ先に食ってかかるが、大道の理路整然とした反論を聞いて以来、大道を監督として認める。
リーダーシップを発揮することはないが、マスコミに沖原の悪評をばらまいたり、沖原に面と向かって嫌味を言って沖原を苦しめる村野と如月の汚いやり方には激怒し、率先して沖原を励まそうとした。
「萬田 智彦(まんだ ともひこ)」
投手。
プロ野球選手を目指して青島製作所野球部に入部し、大道監督の下でレギュラーメンバーとなったが、肘を故障する。
大道からは野球部に残ってリハビリに専念するよう言われたが、恋人と相談した結果、野球部からの退部と青島製作所からの退職を申し出る。
退任挨拶で従業員に野球部への支持を訴え、多くの人々の心を動かした。
「沖原 和也(おきはら かずや)」
投手。
高校時代は将来を嘱望された選手だったが、その才能に嫉妬した如月や先輩部員から執拗にいじめられ、さらに母親を侮辱されたことで怒りを爆発させ、如月を殴る。
その後、如月の親と懇意であった野球部監督によっていじめの事実をもみ消され、責任を一身に背負わされて野球部から放逐された。
高校卒業後、青島製作所の契約社員となり、母親に仕送りをしながら地道に生活していたが、製造部と野球部のエキシビションゲームで製造部チームの代理投手として登板し、豪速球を披露する。
大道や古賀など野球部員の説得で野球部に入部し、再び野球の道を志す。
「北大路 犬彦(きたおおじ いぬひこ)」
一番打者。
補欠時代に代打として試合に出場した時に如月に罵倒される。
大道監督の下で「出塁率が高い」という理由で一番打者に抜擢される。
都市対抗野球大会東京地区予選決勝戦で如月にリベンジを果たす。
《ミツワ電器》
「坂東 昌彦(ばんどう まさひこ)」
社長。
売れ筋の他社の商品を真似て、さらに安いコストで生産するという方法で事業を拡大する。
自社の商品開発能力の不足を痛感し、さらに東洋カメラに納入するイメージセンサーの開発で青島製作所と競合することを恐れ、青島製作所との合併で、競合相手を取り除き、商品開発能力も手に入れようと画策する。
諸田と組み、青島製作所に圧力をかけ続けていたが、青島製作所が合併を拒否し、さらに青島製作所が予想より早く新型イメージセンサーを開発させたことでイメージセンサー部門への新規参入に失敗。
諸田からも切り捨てられた。
「村野 三郎(むらの さぶろう)」
野球部監督。
常に勢いのある方につく日和見主義者。
青島製作所野球部の監督だったが、自分を推薦してくれた日本野球連盟の理事に何のあいさつもないまま、主力二選手を引き抜いてミツワ電器に寝返り、野球部監督に就任する。
青島製作所野球部の実力を侮り、油断したため、都市対抗野球大会東京地区予選決勝で青島製作所に敗退。
さらにミツワ電器の業績悪化に伴い、野球部も廃止されて、失職。
キド・エステート野球部新設の噂を聞き、城戸に自分を売り込みに行くも、一蹴された。
「如月 一磨(きさらぎ かずま)」
野球部投手。
高校時代は沖原の一年先輩で、沖原を執拗にいじめぬき、沖原に殴られる。
自分の親が野球部監督と親しかったため、沖原に全責任を負わせて、沖原を野球部から放逐し、自らはミツワ電器野球部のエース投手におさまっていた。
陰険かつ卑劣な性格で、沖原が再び野球の世界に戻ってきたことを知ると、村野と共にマスコミに沖原の悪評をばらまいた。
プライドが高く、得意の投球を打たれると途端に動揺する。
ミツワ電器野球部廃部後はドラフト下位でプロ野球球団の二軍にかろうじて潜り込む。
《その他》
「諸田 清文(もろた きよふみ)」
ジャパニクス社社長。経団連副会長。
坂東と組み、青島製作所とミツワ電器の合併を側面から支援するが、必ずしも坂東の味方というわけではなく、坂東に対して傍観者的な態度をとることもある。
青島製作所が新型イメージセンサーの開発に成功し、さらにスマートフォン対応の小型イメージセンサーを完成させてジャパニクス社に売り込むと、坂東を切り捨てた。
「長門 一行(ながと かずゆき)」
青島製作所梱包課課長。
野球部が強豪だった頃は応援指導部のリーダーをつとめた。野球部が勝てなくなった後も度々試合の観戦に訪れ、野次をとばしている。
萬田が退職のあいさつで野球部への支援を訴えると心を動かされ、応援団を創設して、自ら団長となる。
「竹原 研吾(たけはら けんご)」
青島製作所の大株主の一人。
株の信用取引に失敗し、多額の現金を必要としている。
坂東から「青島製作所がミツワ電器と経営統合すれば、青島製作所を株式上場させるので、株主には巨額のキャピタルゲインが手にはいる」と甘言を弄されて、欲に目が眩み、他の大株主に呼びかけて株式総会の開催を要求し、ミツワ電器との経営統合を主張する。
しかし、竹原の提案は大株主の城戸の支持を得られず否決された。
株主総会後、竹原の苦境を察した青島から株式の買い取りを持ちかけられる。
「城戸 志眞(きど しま)」
キド・エステートの女社長。
青島製作所の大株主でもある。
亡き夫から不動産業を引き継いだ後、事業を拡大させ、ホテル経営にも進出する。独特の経営観を持って経営に携わっている。
青島製作所の株主総会に出席し、ミツワ電器との経営統合案に賛同せず、否決に追い込む。都市対抗野球大会東京地区予選決勝戦を青島に招待されて観戦して以来、野球の魅力に取りつかれ、キド・エステート野球部を創設し、青島製作所野球部の大道監督と選手たちを受け入れる。
『花咲舞が黙ってない』、『かばん屋の相続』に続き「池井戸潤」作品です。
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◆待望の連続ドラマ化!
◆TBS日曜劇場で2014年4月スタート
◆『ROOSEVELT GAME』(ルーズヴェルト・ゲーム)原作(主演:「唐沢寿明」)
大手ライバル企業に攻勢をかけられ、業績不振にあえぐ青島製作所。
リストラが始まり、歴史ある野球部の存続を疑問視する声が上がる。
かつての名門チームも、今やエース不在で崩壊寸前。
廃部にすればコストは浮くが――社長が、選手が、監督が、技術者が、それぞれの人生とプライドをかけて挑む「奇跡の大逆転(ルーズヴェルト・ゲーム)」とは。
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2009年(平成21年)4月から2010年(平成22年)2月にかけて、学芸通信社の配信により『熊本日日新聞』を皮切りに全国の地方紙に連載され、2014年(平成26年)4月27日から6月22日までTBS系でテレビドラマ化された作品です、、、
タイトルの『ルーズヴェルト・ゲーム』は「点を取られたら取り返し、8対7で決着する試合」を意味し、野球を愛した第32代アメリカ合衆国大統領の「フランクリン・ルーズベルト」が1937年1月に、ニューヨーク・タイムズの記者に宛てた野球記者協会から招待されたディナーを欠席することを詫びた手紙の末尾に記された「一番おもしろいゲームスコアは、8対7だ」という言葉に由来するそうです… 珍しく、放映当時のテレビドラマを欠かさず観た作品なので、期待して読みました。
■プロローグ
■第一章 監督人事
■第二章 聖域なきリストラ
■第三章 ベースボールの神様
■第四章 エキシビションゲーム
■第五章 野球部長の憂鬱
■第六章 六月の死闘
■第七章 ゴシップ記事
■第八章 株主総会
■最終章 ルーズヴェルト・ゲーム
■エピローグ
■解説 ―いちばんおもしろい試合、いちばんおもしろい作家 村上貴史
中堅電子部品メーカーの青島製作所は世界的な不況とライバル企業であるミツワ電器の攻勢を受け、経営は青息吐息の状態であった… そのような青島製作所の苦境の象徴が、青島製作所の野球部であった、、、
社会人野球の強豪チームとして名をはせたかつての栄光は既に失われ、ライバルのミツワ電器野球部の後塵を拝し、対外試合ではほとんど勝ちをおさめられない状態まで野球部は落ちぶれていたのである… さらに野球部監督の「村野三郎」が主力二選手を引き抜いて、ライバルのミツワ電器野球部に寝返るという事件まで起こり、青島製作所の役員会では野球部廃止の声まであがる始末であった。
野球部部長をつとめる、「三上文夫総務部長」は野球部存続のために奔走する一方、知人の日本野球連盟の理事に後任監督の推薦を依頼する… やがて、その理事から後任監督として、かつて新設高校で野球部監督をつとめていた「大道雅臣」が推薦される、、、
「大道」は監督に就任するや、大胆な選手の入れ替えやポジションの変更をおこなう… 「大道」のやり方にベテラン選手たちは不満の声をあげるが、「大道」は膨大なデータを駆使して理路整然と反論し、選手たちを心服させる。
しかし、「大道」の野球部再建はいきなり挫折を味わうこととなる… 投手の「萬田智彦」が肘を故障し、野球部を退部し、青島製作所も退職することになってしまったのである、、、
後任の投手を探す大道の目にとまったのが、製造部の契約社員「沖原和也」だった… 「沖原」は製造部と野球部のエキシビションゲームに代理投手として登板し、見事な豪速球を披露したからである。
しかし、「沖原」には高校時代、将来を嘱望されながら、先輩部員にいびられ続け、母親までも侮辱されたことに腹をたてて先輩部員を殴ったという事情があったにもかかわらず、責任を一身に負わされて野球部から放逐されたという暗い過去があった。
一方、青島製作所の「細川充社長」は大口取引先のジャパニクス社から大幅な生産調整と単価切り下げを通告され、窮地に陥っていた… さらにそんな「細川」の苦境を見透かすようにジャパニクス社社長の「諸田清文」はミツワ電器の「坂東昌彦社長」とともに、青島製作所とミツワ電器の合併を勧めてくる、、、
規模の大きいミツワ電器と合併すれば、当座の苦境は乗り越えられるが、合併後、青島製作所のほとんどの社員は新会社からリストラされるのは間違いない… 苦悩の末に「細川」がたどり着いた結論とは?そして、青島製作所野球部は再建されるのか?
野球部と会社の二つの闘いが多面的に描かれて絶妙なバランスで配合されていて面白かったですねぇ… 何度も胸が熱くなり、鳥肌が立つほど感動しましたね。
野球部は、廃部の危機に晒されるというプレッシャーの下で公式戦を闘わなくてはならないのですが、監督とエースと四番を失った状態からのチーム再建や、新監督の方針によるレギュラーの入れ替えによる部内の確執、選手生命を絶つようなケガ、マスコミを悪用した卑劣な個人攻撃を経て、グランドでの勝負へ至りますし、、、
会社は、大口顧客の生産調整に起因する売り上げの減少、ともに真剣に仕事に取り組むが故の営業部門と開発部門の確執、そしてライバル企業ミツワ電器との闘いや、企業存続のための暗闘… 野球部のドラマと会社のドラマが不可分である点が、この作品の魅力でもあるんでしょうね。
そんな苦境を乗り越えて、会社関係者のひとり一人やチームが結束していく姿が胸を撃ちますね… 爽快な読後感がありました、、、
テレビドラマも面白かったけど、原作も良かったな… 肘の故障で自らチームと会社を去ることを決意した「萬田智彦」に監督の「大道」がかけた最後の言葉、
「お前の人生だから、どう生きるかはお前が考えて決めろ。
だが、これだけはいわせてくれ。
野球をやめたことを終点にするな、通過点にしろ。
いままでの経験は、必ずこれから先の人生でも生きてくる。
人生に無駄な経験なんかない。
そう信じて生きていけ」
心にぐっときたし、忘れられない言葉でした。
以下は主な登場人物です。
《青島製作所役員》
「細川 充(ほそかわ みつる)」
社長。
アメリカで経営学を修めた後、外資系のコンサルタント会社で経営戦略コンサルタントをつとめていたが、青島からヘッドハンティングされ、青島製作所の営業部長に就任。
イメージセンサーを会社の主力商品に据えることで大幅な増益を実現し、その功績で青島から後継社長に推される。
自身も青島製作所の保守的な体質を改革したいという思いがあり、社長就任を受諾する。
社長就任直後は順調に営業成績を伸ばしていたが、世界的な金融不況に巻き込まれて、売上は低迷するようになる。
当初はミツワ電器の攻勢に苦しめられていたが、ミツワ電器から合併話をもちかけられたことで、ミツワ電器の弱点と自社の優位性に気が付く。
その後、新型イメージセンサーの開発で会社再建に成功。
合理主義者であり、人間的な感情を軽視する傾向にあったが、青島や社員たちの触れあいの中で次第に人間の結びつきの重要性に気が付き、広い視野を持つようになっていく。
「青島 毅(あおしま たけし)」
会長。
青島製作所の創設者で、会社を現在の規模まで拡大させたカリスマ経営者。
無類の野球好きで若い頃は自ら野球部部長もつとめていた。
青島製作所以外の世界を知っており、他社と客観的に比較できるという理由で細川を後継社長に抜擢した。
社長を退いた後も隠然とした発言力を社内で有しており、細川の相談にものっている。
「笹井 小太郎(ささい こたろう)」
専務。
青島製作所の番頭格で、古参社員からの信頼も厚い。
もともとは自動車のセールスマンだったが、病気のために辞職を余儀なくされ、独学で簿記を学んでいた時に青島に経理係として拾われ、それ以来、青島に忠誠を尽くす。
野球部の存在を無駄と考え、役員会ではたびたび野球部廃止を主張した。
坂東から青島製作所とミツワ電器が合併したあかつきには、新会社の社長にすると言われたが、「自分は青島製作所の社風が気に入っているし、私は青島製作所のことしかわからないから」という理由で合併に反対した。
「三上 文夫(みかみ ふみお)」
総務部長兼野球部部長。
野球に詳しくないが、青島から野球部部長に任命されてからは野球部存続のために奔走し、野球部員の世話を親身になっておこなった。
誠実な人柄だがそれゆえにリストラの責任者として社員のくびを切らなければならないことに苦悩する。
そして社員一人ひとりの人生がかかっているという理由で製造部から送られてきたリストラ候補者名簿を精査し、中間管理職の個人的な感情だけではない、客観的な理由に基づくリストラを実行しようとする。
「朝比奈 誠(あさひな まこと)」
製造部長。
細川より笹井を評価している。
野球部のことを快く思っておらず、野球部員に対してつらくあたる。
リストラ候補者の名簿作成を副部長に丸投げし、下からの報告を鵜呑みにするなど社員の実態把握への関心が薄い。
「豊岡 太一(とよおか たいち)」
営業部長。
役員会では、宣伝効果を理由に野球部存続を主張。
取引先から無理難題をふっかけられ、常に苦悩している。
後にミツワ電器の隠された弱点を発見し、青島製作所再建に一役買う。
「神山 謙一(かみやま けんいち)」
技術開発部長。
かつてリコール騒ぎを起こしたことがトラウマとなっており、以来、開発スケジュールを頑なに遵守するようになる。
そのため、東洋カメラの新型商品発売の前倒しに間に合わないと細川などから不満を言われたが意に介さなかった。
しかし、実際には不眠不休で開発を続けており、新型イメージセンサーの開発を東洋カメラの新型商品発売に間に合わせた。
《青島製作所野球部》
「大道 雅臣(だいどう まさおみ)」
監督。
若い頃は野球選手を志していたが自分にその才能がないことに気が付き、大学ではスポーツ科学を専攻。
その後、大学講師となり、独自の野球理論を編み出す。自分の理論を実践するため、新設高校の野球部監督に就任し、数年で甲子園出場を実現した。
しかし、彼の理論を理解しない保護者と保護者に屈した学校によって学校を追われ、青島製作所野球部監督に転ずる。
全試合のデータをもとに各選手の特性やチームの特徴をとらえ、選手やチームの資質にあった戦法で勝利を得ようとする。
青島製作所野球部を都市対抗野球大会東京地区予選で優勝させた後、青島製作所野球部解散に伴い、他の選手と共にキド・エステート野球部に移籍し、監督に就任。
「古賀 哲(こが てつ)」
マネージャー。
かつては野球部の選手だったが試合中の大怪我で選手生命を絶たれ、たまたま空席となっていたマネージャーとして野球部に残る。
マスコミに顔が広く、沖原を中傷する記事がゴシップ紙に掲載されたときは、沖原の悪評が広まらないようマスコミに根回しした。
情に厚い男であり、萬田の不幸に心から同情し、沖原の理不尽な過去を知ったときは怒りを露わにした。
「井坂 耕作(いさか こうさく)」
キャプテン兼捕手。
古賀の良き相談相手であり、古賀とともに野球部を支える。
捕手として打者の読みを外す配球は完璧だが、野球以外のことには頭が働かず、古賀に解説してもらうことが多い。
「猿田 洋之助(さるた ようのすけ)」
投手。他の選手が一目置くベテラン選手。
大幅な選手入れ替えをおこなった大道に真っ先に食ってかかるが、大道の理路整然とした反論を聞いて以来、大道を監督として認める。
リーダーシップを発揮することはないが、マスコミに沖原の悪評をばらまいたり、沖原に面と向かって嫌味を言って沖原を苦しめる村野と如月の汚いやり方には激怒し、率先して沖原を励まそうとした。
「萬田 智彦(まんだ ともひこ)」
投手。
プロ野球選手を目指して青島製作所野球部に入部し、大道監督の下でレギュラーメンバーとなったが、肘を故障する。
大道からは野球部に残ってリハビリに専念するよう言われたが、恋人と相談した結果、野球部からの退部と青島製作所からの退職を申し出る。
退任挨拶で従業員に野球部への支持を訴え、多くの人々の心を動かした。
「沖原 和也(おきはら かずや)」
投手。
高校時代は将来を嘱望された選手だったが、その才能に嫉妬した如月や先輩部員から執拗にいじめられ、さらに母親を侮辱されたことで怒りを爆発させ、如月を殴る。
その後、如月の親と懇意であった野球部監督によっていじめの事実をもみ消され、責任を一身に背負わされて野球部から放逐された。
高校卒業後、青島製作所の契約社員となり、母親に仕送りをしながら地道に生活していたが、製造部と野球部のエキシビションゲームで製造部チームの代理投手として登板し、豪速球を披露する。
大道や古賀など野球部員の説得で野球部に入部し、再び野球の道を志す。
「北大路 犬彦(きたおおじ いぬひこ)」
一番打者。
補欠時代に代打として試合に出場した時に如月に罵倒される。
大道監督の下で「出塁率が高い」という理由で一番打者に抜擢される。
都市対抗野球大会東京地区予選決勝戦で如月にリベンジを果たす。
《ミツワ電器》
「坂東 昌彦(ばんどう まさひこ)」
社長。
売れ筋の他社の商品を真似て、さらに安いコストで生産するという方法で事業を拡大する。
自社の商品開発能力の不足を痛感し、さらに東洋カメラに納入するイメージセンサーの開発で青島製作所と競合することを恐れ、青島製作所との合併で、競合相手を取り除き、商品開発能力も手に入れようと画策する。
諸田と組み、青島製作所に圧力をかけ続けていたが、青島製作所が合併を拒否し、さらに青島製作所が予想より早く新型イメージセンサーを開発させたことでイメージセンサー部門への新規参入に失敗。
諸田からも切り捨てられた。
「村野 三郎(むらの さぶろう)」
野球部監督。
常に勢いのある方につく日和見主義者。
青島製作所野球部の監督だったが、自分を推薦してくれた日本野球連盟の理事に何のあいさつもないまま、主力二選手を引き抜いてミツワ電器に寝返り、野球部監督に就任する。
青島製作所野球部の実力を侮り、油断したため、都市対抗野球大会東京地区予選決勝で青島製作所に敗退。
さらにミツワ電器の業績悪化に伴い、野球部も廃止されて、失職。
キド・エステート野球部新設の噂を聞き、城戸に自分を売り込みに行くも、一蹴された。
「如月 一磨(きさらぎ かずま)」
野球部投手。
高校時代は沖原の一年先輩で、沖原を執拗にいじめぬき、沖原に殴られる。
自分の親が野球部監督と親しかったため、沖原に全責任を負わせて、沖原を野球部から放逐し、自らはミツワ電器野球部のエース投手におさまっていた。
陰険かつ卑劣な性格で、沖原が再び野球の世界に戻ってきたことを知ると、村野と共にマスコミに沖原の悪評をばらまいた。
プライドが高く、得意の投球を打たれると途端に動揺する。
ミツワ電器野球部廃部後はドラフト下位でプロ野球球団の二軍にかろうじて潜り込む。
《その他》
「諸田 清文(もろた きよふみ)」
ジャパニクス社社長。経団連副会長。
坂東と組み、青島製作所とミツワ電器の合併を側面から支援するが、必ずしも坂東の味方というわけではなく、坂東に対して傍観者的な態度をとることもある。
青島製作所が新型イメージセンサーの開発に成功し、さらにスマートフォン対応の小型イメージセンサーを完成させてジャパニクス社に売り込むと、坂東を切り捨てた。
「長門 一行(ながと かずゆき)」
青島製作所梱包課課長。
野球部が強豪だった頃は応援指導部のリーダーをつとめた。野球部が勝てなくなった後も度々試合の観戦に訪れ、野次をとばしている。
萬田が退職のあいさつで野球部への支援を訴えると心を動かされ、応援団を創設して、自ら団長となる。
「竹原 研吾(たけはら けんご)」
青島製作所の大株主の一人。
株の信用取引に失敗し、多額の現金を必要としている。
坂東から「青島製作所がミツワ電器と経営統合すれば、青島製作所を株式上場させるので、株主には巨額のキャピタルゲインが手にはいる」と甘言を弄されて、欲に目が眩み、他の大株主に呼びかけて株式総会の開催を要求し、ミツワ電器との経営統合を主張する。
しかし、竹原の提案は大株主の城戸の支持を得られず否決された。
株主総会後、竹原の苦境を察した青島から株式の買い取りを持ちかけられる。
「城戸 志眞(きど しま)」
キド・エステートの女社長。
青島製作所の大株主でもある。
亡き夫から不動産業を引き継いだ後、事業を拡大させ、ホテル経営にも進出する。独特の経営観を持って経営に携わっている。
青島製作所の株主総会に出席し、ミツワ電器との経営統合案に賛同せず、否決に追い込む。都市対抗野球大会東京地区予選決勝戦を青島に招待されて観戦して以来、野球の魅力に取りつかれ、キド・エステート野球部を創設し、青島製作所野球部の大道監督と選手たちを受け入れる。
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