隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

闇を抱えた人は覚悟の上で!~「幸せ最高ありがとうマジで!」

2008年11月09日 15時10分58秒 | ライブリポート(演劇など)
幸せ最高ありがとうマジで! 」 (2008年11月3日、パルコ劇場)

作・演出 本谷有希子
出  演 永作博美/近藤公園/前田亜季/吉本菜穂子/広岡由里子/梶原善


★観客ウォッチング
 注目の本谷有希子作品、初体験!
 エキセントリックでイタイ女性を描いたら(そればかりではないんだろうけど)、右に出る者はいない、と彼女の作品のファンの女性が言っていたけど。
 まず驚いたのが、20代、30代の男性の観客が多かったこと。これは本谷作品というより、「永作博美効果」ですか? かも。
 芝居を観に行っておもしろいのは、客層の観察。こまつ座(井上ひさし)では高年齢層が元気(とくに女性)。阿佐ヶ谷スパイダースをはじめとする長塚作品ではやっぱり若い女性(男性ももちろんだけど)。そして、カトケンワールド(加藤健一さんです)は中年の男女を中心に幅広く。前衛作品だと演劇志望的雰囲気を醸し出す若者、そして一般的にはやはり全年齢的に圧倒的に女性が多い! (意味のない分析ですが)。
 今回は若い男性が多かったなあ。あとで思ったんだけど、永作博美演じる女性ヒロインを、あの男性群はどう消化したんでしょうか。


★タブーもすべて、明るく明るく
 幕が開くと、セットは古い新聞店の店先。看板もはがれて、どことなく下降線をたどっている感じの店。そこで朝刊の配達を終えた一家+従業員が片づけをしているんだけど、動きが怠惰、もう元気がない。そんな雰囲気がステージから客席に流れてくる。そのうえ登場人物は最初の10分近く?、まったく会話がない。つまり音がないままに芝居が進行していく。
 ああ、なんだか疲れた人たちなのね~、いやひょっとしたら私たちってみんな、こんなふうに日常を送っているのかもね、などと気分がど~んと沈んでくる。
 それでもテンション低めなりに平穏を保っていた新聞店に、永作博美演じる自称「明るい人格障害」の明里が爆弾を携えて乱入する。あ、爆弾はたとえ、ね。
 「理由なき絶望」を抱える彼女は、新聞店の息子や従業員の山里(実は店主の愛人)を責めていじって攪乱して、その自己主張を観客である私たちに示す。
 「絶望する理由など何もないのに、この絶望感は何?」と苛立つ一方で、山里らの抱える心の闇を「そんなもので私と同類視するな!」と怒りを沸騰させる。
 その勝手な論理は、でもある意味、めっぽうわかりやすくて単純明快。ブラックユーモアを越えた過激さにもちょっと笑ってしまったり。
 店主の妻、美十理は違う意味で怖い人物。みんな許すと言いながら、抱えた怒りが実は静かに燃えている?と思わせる。
 機関銃のように耳に飛び込んでくる言葉の、単語の攻撃をかいくぐりながらどうにか明里の思考に追いつきつつ、それに触発されたのか、家族の個々の闇があからさまになっていく。
 けれど、夕刊が届けられると、新聞店の人たちはまるで違うスイッチが入ったかのように(というより個々のモードがリセットされたかのように、と形容すべきか)、日常のモードに戻っていく。こんなにあからさまに異常な真実が明らかになっても、夕刊を届ける準備をする、という行為で5人は一致し無言で作業を開始する。もう明里の狂気に、いえ明里の存在さえ見えないかのように。
 圧倒的な存在感と理不尽のない交ぜで彼らを嵐の中に呼び込み、誕生日の祝いの歌に「マジで最高!」と叫び、火をつけようとして失敗し…、そんな明里はどういうふうにこの場をしめていくのか、「人格、解除!」はその先の何を暗示するのか。
 うーん、やたら想像したり、できなかったり、そんな幕切れで、突き放されました!

★女優陣、魅力的だ
 永作博美の機関銃セリフ、かわいらしさがすでに危険という雰囲気、オーラ、すべて怖いくらいに魅力的でした。同行した若い男の子、「永作さん、痩せすぎ?」といったいましたが(笑)。
 冷静だけどこれゆえに怖さが強調される美十理を演じた広岡由里子のプチ狂気と、明里に翻弄されながらときおり妙に冷静な顔をのぞかせる山里を演じた吉本菜穂子のはじけぶりが、ものすごく魅力的だった。あれはなんだろう。


 ちっとも深刻っぽい雰囲気はないんだけど、現実の社会でこういう「絶望」を抱えている人っているよなあ(自分も含めて、ね)というようなグレイな部分を無遠慮にえぐりだす言葉の数々。笑いながらちょっとキツイなと思う人ばかりだったりして。最後の近親相姦疑惑はちょっとよけいだったんじゃない?という意見もありましたが。
 ま、鈍感な人はいいんだけどね。
 あっけらかんとしていられる状況で観たら、もう笑える! 自分の闇が見えてる人は、ちょっと覚悟の上でご観覧を、なんてね。

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