■安倍首相の会見で手を挙げつづけても、質問できるまで7年3カ月かかる
・安倍官邸と記者クラブの「一問一答ルール」
「首相会見の主導権は、完全に官邸側=権力者側に握られている」
PRESIDENT 2020/06/11
https://president.jp/articles/-/36011?page=1
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・なぜか窓口はすべて「官邸報道室」
首相会見の主催者は内閣記者会である。
しかし、事前登録者リストへの登録申請はもちろん、毎回の会見への参加申込も、窓口はすべて「官邸報道室」になっている。
内閣記者会は会見の主催者でありながら、姿を見せない。
記者会見に誰が参加するか、誰が質問するかも、すべて官邸報道室にお任せになっている。
これでは「権力側と共犯関係にある」と言われても無理はない。
現在、首相会見の司会進行を担当しているのは長谷川榮一内閣広報官だ。
質問は「一問一答」だから、首相が曖昧な答えをしても「更問(さらとい・追加質問)」ができない。
だから首相の「言いっぱなし」を許すことになる。
これでは記者会見ではなく、単なる記者発表だ。
内閣記者会は主催者でありながら、それを許したままである。
インターネット上で、「記者クラブは厳しい質問をしない」という評価を目にすることも少なくない。
しかし、私は現場にいる者として、この点は明確に否定しておきたい。
内閣記者会の記者も、厳しい質問をしている。
しかし、それでも十分な答えを引き出せているとは言えない。
それは、内閣記者会が主催者でありながら、官邸側が主張する「一問一答ルール」を認めてしまっているからだ。
・安倍官邸と記者クラブの「一問一答ルール」
会見の主催者であるならば、なぜ「追加質問」を認める運用にしないのだろうか。
質問者を指名する内閣広報官になぜ、「公平な会見運用」を強く求めないのだろうか。
内閣広報官の進行に不満があるならば、主催者である内閣記者会が主導権を握り、厳しい質問をする記者をどんどん指名してもよいはずだ。
しかし、内閣記者会はそれをしない。
これでは国民から「軸足をどこに置いているのかわからない」と言われても仕方がない。
現在、首相会見の主導権は、完全に官邸側=権力者側に握られている。
「いやいや、そんなことはない。官僚は公平に記者会見を運用している」
そんな主張をする人もいるかもしれない。
しかし、私は次の事実を提示したい。
2015年9月25日に行われた安倍首相記者会見では、世にも奇妙なことが起きている。
この日の会見終了予定時刻が迫る中、最後の質問をしようと手を挙げていたのは、ほとんどが「記者クラブ以外」の記者だった。
しかし、長谷川榮一内閣広報官は「記者クラブ以外の記者」の挙手が目に入っていたにもかかわらず、そのすべてを“黙殺”した。
驚くのはここからだ。
なんと! 長谷川榮一広報官は、1ミリも手を挙げていない内閣記者会所属の記者(NHKの原記者)を指名したのである。
突然指名された記者は「えっ!? 私?」と困惑の色を浮かべながらも、事前に用意していたと思われる質問を読み上げた。
それを受けた安倍首相は、想定問答にあったと思われる回答を淡々と読み上げて会見は終了した。
・7年3カ月も無視され続けたフリー記者
これでもまだ不十分だという人もいるかもしれない。
それでは次の事実はどうだろうか。
首相会見が「内閣記者会以外の記者」にも一部オープン化されたのは、2010年3月26日の鳩山由紀夫首相会見が最初である。
私もこの時から首相会見に参加し始めた。
この鳩山会見では、フリーランスの上杉隆記者が指名された(上杉記者は「謝辞」を述べるだけで質問はしなかった)。
続く菅直人政権、野田佳彦政権では、私を含む複数のフリーランス記者が質問者として指名された。
しかし、2012年12月26日に第2次安倍政権が発足してからというもの、フリーランスの記者は長きにわたって質問者として指名されることがなくなった。
いくら会見に出席して手を挙げても当ててもらえない。
その期間は、なんと7年3カ月近く続いていた。
先に述べたように、記者クラブの幹事社は事前に質問内容を官邸側に通告している。
それ以外の記者については定かではないため、記者会見が「完全な出来レース」と言い切ることはできない。
とはいえ、今年3月19日に丸山穂高衆議院議員が提出した質問主意書(※1) に対して、政府は3月31日に次のような答弁書(※2)を返している。
「記者会見において正確な情報発信を行うため、普段から記者の関心を政府職員が聞くなど、政府として可能な範囲の情報収集は行っている」
つまり、内閣記者会の記者がする質問に対しては、あらかじめ想定問答を準備していると考えていい。
一方で、私のようなフリーランスの記者の多くは質問の事前通告をしていない。
関心についての聞き取り調査も行われていない。
これらの事実から、容易に想像できることがある。
質問者を指名する内閣広報官に「そもそも最初からフリーランスに当てる気がなかった」という疑惑だ。
もし、そうでなければ、7年3カ月もの長きにわたって、「フリーランスの記者が全く当たらない」という異常事態が続くことは考えにくいだろう。
(中略)
・江川紹子記者「まだ聞きたいことがあります」の衝撃
私はこの首相会見をネットで見ていた。
そして、冒頭発言後の「演出」にも、ある種の「嫌らしさ」を感じていた。
首相の冒頭発言が終わると同時に、演台の両脇に設置されたプロンプターの板が下げられたからだ。
これを見ると「質疑応答はガチンコで行われる」という印象を抱く演出だ。
しかし、現場の記者は知っている。
プロンプターが下がっても、首相の演台には小型のモニターが埋め込まれている。
首相の手元には想定問答が書かれているファイルもある。
だから幹事社からの質問に回答する際、首相は何度も演台のファイルに目を落とす。
会見時間が35分を越えたところで、長谷川榮一内閣広報官は次のように述べて会見を打ち切ろうとした。
「予定しておりました時間を経過いたしましたので、以上をもちまして記者会見を終わらせていただきます」
異変が起きたのはこのときだ。
この日の会見に参加していたフリーランスの江川紹子記者が、「まだ聞きたいことがあります」と声を上げたのだ。
この様子はNHKの中継でも流れている。
しかし、安倍首相は江川氏の問いかけに答えることなく会見場を後にした。
次の予定が入っていないのに会見を打ち切り、私邸に帰ってしまったことも後から判明した。
・オープンな記者会見を求める声の高まり
江川氏がこの顛末をTwitterに書き込むと、すぐに大きな反響が寄せられた。
これを受けてインターネット上では「安倍首相にオープンな記者会見」を求める署名活動も始まった(※4)。
この署名への賛同者は見る見るうちに増え、6月3日現在、4万3000人を超えようとしている。
官邸はSNSやインターネット上の反応にも敏感だ。
そのため、ここで首相会見の運用が大きく変わることになった。
新型コロナウイルスに関する記者会見は、2月29日の会見以降、3月14日、3月28日、4月7日、4月17日、5月4日、5月14日、5月25日の計7回開かれている。
フリーランスの記者は安倍政権下の7年2カ月以上、一度も質問者として指名されてこなかった。
しかし、2月末に江川氏が声を上げてからは、毎回、必ず一人はフリーランスの記者が指名されるようになったのだ。
私も4月17日の記者会見で、安倍政権下で初めて質問する機会を得た。
私はたった一度の質問機会を手にするまでに、7年3カ月以上もかかった。
もっとも残念なことは、その機会が会見の主催者たる内閣記者会の主導によってもたらされたものではなかったことだ。
・記者クラブが「国民共通の敵」になる日
私は質問者として指名された場合に備え、2つの質問を用意していた。
一つは自分の専門分野である「選挙」に関する質問。
もう一つは「記者クラブ問題」に関する質問だ。
いつものように、私は質問の事前通告はしていない。
また、万が一長谷川榮一内閣広報官に指名された場合にも、「一問一答のルール」を盾に阻まれないよう、続けざまに2つの要素をまるで「一問」であるかのように質問することを決めていた。
私の記者会見での質疑応答は、官邸ホームページに記録が残っている(※5)。
本稿のテーマに沿って、ここでは選挙に関する質疑は省略する。
私が「記者クラブ問題」について行った質問要旨は次の通りだ。
「総理は常々、国民に丁寧な説明をすると発言しているが、首相会見は参加する記者が限定され、質問の数も限られている。このような記者会見を可能にする現在の記者クラブ制度について、どう考えているか。今後、よりオープンな記者会見を開く考えがあるか」
私の質問を聞く間、安倍首相は時折、笑みを浮かべていた。
そして、記者クラブに関する問いにはこう答えた。
「記者クラブの在り方というのは、これは正に私が申し上げることではないかもしれません。それはまた、正に時代の流れの中において、今までのメディアが全てカバーしているのかと言えば、そうではない時代になり始めましたよね。ですから、その中でどう考えるかということについては、正に皆様方に議論をしていただきたいなと思います。ただ、自民党政権の中において、こうした形で御質問を頂いたのは初めてのことだろうと思います。こうした形で、できる限り皆さんの機会も確保していきたい」
・私自身も首相会見の共犯者になった
安倍首相が答え終わった時、私は追加質問をするために声を上げた。
「日本記者クラブでの会見に応じる考えはあるか」と問いかけたのだ。
安倍首相は就任以来、日本記者クラブが呼びかける記者会見に応じていない。
日本記者クラブの会見にフリーランスの記者は出席できないが、それでも官邸での会見よりは多様な記者が出席できる。
せめてその記者会見に応じるかどうか、言質を取ろうと思ったのだ。
しかし、私の質問は長谷川榮一内閣広報官によって遮られた。
「すみません。後の、他の皆さんが御質問を希望されているので、他の方に譲りたいと思います」
首相の言質を取れなかったことで、私自身も首相会見の共犯者になった。
「こうした形で、できる限りみなさんの機会も確保していきたい」という、首相の「言いっぱなし」を許してしまったからである。
それでもまだ、私は記者側が巻き返せる希望がわずかにあると考える。
「会見の主催者は内閣記者会」という「建前」は、いまも温存されているからだ。
内閣記者会のみなさんには、よく考えてほしい。今、世間のメディア不信や記者クラブ批判がやまない理由がどこにあるのかを。
私は世間に「記者クラブ廃止論」があることを十分承知している。
記者クラブ問題に関する安倍首相の回答があった後も、記者クラブが行動していないことも知っている。
正直なところ、「情けない」と思っている。
それでもなお、私自身は「記者クラブ廃止論」に与することを躊躇している。
なぜなら、理想のゴールは「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」ですでに示されているからだ。
・求められる記者クラブの変革
一番の問題は、内閣記者会が理想に近づくための行動を起こさないことだ。
このままでは、私もまもなく「記者クラブ廃止論」を唱えることになるだろう。
記者同士の対立で得をするのは、一体誰なのか。記者であればわかるはずだ。
今はまだ、形だけとはいえ「主催権」が残っている。
すでに徳俵に足がかかった状態だが、まだ間に合うかもしれない。
しかし、内閣記者会が行動せず、多くの人が「記者クラブは権力側と共犯関係にある」と認識した時、記者クラブメディアは死を迎える。
このまま権力の広報機関として「同化」する道を選べば、記者クラブは「国民共通の敵」となるからだ。
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安倍首相の会見で手を挙げつづけても、質問できるまで7年3カ月かかる
PRESIDENT 2020/06/11
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