「夫婦別姓」「LGBT法」「皇位継承」…自民党の左傾化を憂いていた安倍元首相 八木秀次
安倍晋三元首相三回忌
3年前(2021年)の春、安倍晋三元首相は「自民党の左傾化」を憂えていた。安倍氏が首相の座を退く(20年9月)と、党内に「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」が設立された(21年3月)。野党出身議員の仕掛けで左翼活動家が出入りしているとの話もあった。70人ほどが集い、「岸田文雄」の名前もあった。
対抗して、別姓導入に慎重な「婚姻前の氏の通称使用拡大・周知を促進する議員連盟」が同年4月に立ち上がった。安倍氏は電話を掛けまくり、会合に議員本人出席で120人集めた。
安倍氏は、岸田氏にも電話し、「名前を貸してくれと言われた。もう(早期実現議連には)出ない」との返事があったという。
通称使用議連の会合では、ジャーナリストの櫻井よしこ氏が「自民党の左傾化を叱る」と発言した後、私が夫婦別姓の何が問題かを指摘した。
すべては安倍氏の仕掛けだった。その後、党内の別姓推進の動きは収束したが、今年6月、経団連が政府に別姓推進の提言を提出したことで息を吹き返した。
通称使用議連の会合の事前打ち合わせをしていた3年前、朝日新聞からの情報で、LGBT理解増進法の与野党協議の内容が判明し、安倍氏に伝えた。
安倍氏は「その内容では(LGBT法案は)通せない」とし、法案の内容が分かると先頭に立って成立阻止に動き始めた。何でも「差別」とする、人権擁護法案の再来と捉えたようだ。
保守派の大物議員は頼りにならず、城内実衆院議員ら派閥横断の安倍シンパの若手・中堅議員が反対の論陣を張った。
会期末の時間切れで法案提出が見送られたが、1年後、埼玉県で自民党県議団がLGBT条例を成立させた。安倍氏の憂慮は深まった。LGBT問題は亡くなるまで念頭を離れなかったろう。
安倍氏が亡くなって1年もたたない昨年6月、国会でLGBT理解増進法は制定された。
「皇位の男系継承の意義」については、小泉純一郎内閣の官房長官就任直後に、私から説明させてもらった。最初は関心が低かったが、すぐに理解し、安倍氏のライフワークの一つとなった。
第1次安倍政権で、小泉内閣時の有識者会議報告書を白紙に戻し、民主党の野田佳彦内閣時の女性宮家構想には、『文藝春秋』で異を唱えた。
第2次安倍政権では、「男系継承の重み」を強調した。菅義偉内閣で設置した有識者会議が岸田内閣で報告書を出し、旧宮家の皇籍復帰案を示すに至った。安倍氏なくして、現在の流れはない。
安倍氏亡き後、立憲民主党が「女性宮家創設」の検討を言い出した。自民党内でも石破茂元幹事長が24年6月18日、BSフジの番組で、「女系を完璧に否定していいのか」と、「女系天皇」の検討に含みを持たせる発言をしている。
安倍氏は生前、国際情勢の激変を踏まえ、今年9月の自民党総裁選に出る心づもりだった。安倍氏不在のなか、左傾化した総裁を誕生させれば、ますます「国民の信」を失うことは確実だ。