「後見人」の高額請求に「強制力」はなかった  成年後見人制度の知られざる闇② 2017.7.29

2017-07-29 | Life 死と隣合わせ

2017/7/29 現代ビジネス
裁判所が選ぶのに…「後見人」の高額請求に「強制力」はなかった! 成年後見人制度の知られざる闇 第2回
 長谷川 学 ジャーナリスト
 認知症の父母に裁判所がつけた後見人は、見も知らぬ弁護士や行政書士。彼らは自分が後見している父母にろくに会いもせず、裁判所のお墨付きがあるからと、高齢者の口座から毎年報酬を引き落としていく。その額、年間数十万円……。だが、その引き落としには、法的強制力はなかった!? 隠れた社会問題に迫る連続レポート第2回(第1回はこちら)。
*「母のために何もしていないのに…」
 「家庭裁判所が母の成年後見人に選任した弁護士は、後見人に就任してから3ヵ月もたって、初めて老人ホームに入っている母と会いました。娘の私が、何度も『母と会ってください』と電話で頼んで、ようやくやってきたのです。
 ところが施設に来はしたものの、母と会ったのはたったの1分だけ。母の部屋をちらっと覗いた程度で、『忙しいから』と帰ってしまった。
 その他で弁護士がやっていることと言えば、母の通帳を管理しているだけです。そして、母のためになることは何もしていないのに、毎年多額の報酬を母の銀行口座から引き出しているんです」
 2年前、見も知らぬ弁護士を、認知症の母親の後見人につけられた女性の話だ。
 そもそも女性は、自分が認知症の母親の後見人になるつもりで、家裁に成年後見制度の利用を申し立てた。だが家裁は、女性がまったく知らない弁護士を、母親の後見人に選任した。
 成年後見の在り方を記した民法858条には、後見人の責務として、認知症高齢者の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮しなければならないと定めている。これは「身上監護義務」と呼ばれ、成年後見制度の根幹をなしている。
 ところが現実には、この弁護士のような専門職が後見人につくと、世話をする相手の認知症高齢者とほとんど会わず、生活の質の向上にも何の関心も示さないことが珍しくない。彼らがやることといえば、通帳管理と、年1回の家裁への後見状況の報告書作りだけだ。後者の作業にしても、実働には1時間もかからない。
 これでは冒頭の女性のように「母のために何もしていないのに、なぜ多額の報酬を」などと家族が不満を持つのも当然だ。だが全国の家裁は、こうした家族の不満を承知のうえで、年を追うごとに弁護士や司法書士といった「専門職」の後見人を増やしている。
*裁判所の責任逃れ? 主流になった専門職後見人
 実際、成年後見制度がスタートした2000年には、後見人の9割は家族などの「親族後見人」が占めていた。ところが現在は「専門職後見人」が全体の7割を占めている。
 なぜ、そんなことになったのか。背景には、親族後見人による不祥事が多発したことがある。制度発足当初、家裁は親族を後見人に選任していた。だが、親族による横領事件が頻発し、選任した家裁の監督責任が問われた。
 すると、「羹に懲りてなますを吹く」の喩え通り、成年後見制度の仕組みを作った最高裁家庭局とその管轄下にある全国の家庭裁判所は一斉に、親族後見人ではなく第三者の専門職を後見人につける方向に舵を切ったのだ。
 だが、専門職後見人がつくようになって不祥事がなくなったかといえば、実はそうではない。公平性を期待された専門職も、横領事件を頻繁に引き起こしている。
 たとえば、2015年10月には認知症男性の後見人をつとめていた弁護士が、男性の口座から1830万円を横領し、名古屋地検特捜部に逮捕されている。この年、弁護士らによる横領は、過去最悪の37件に達した。
 それでも最高裁と家裁が専門職を後見制度の柱にする方向を変えないのは、同じ不祥事でも専門職後見人が起こしたものならば、本来は家裁が負うべき監督責任を、弁護士会や司法書士会といった職能団体に丸投げし、回避できるからではないかという指摘もある。
*基本報酬だけで年数十万円に
 では、原則無償のボランティアである親族後見人に対し、弁護士や司法書士らの専門職後見人の報酬はいくらぐらいなのか。
 2013年、東京家裁立川支部のウェブページに、報酬の目安が掲載された(元PDFはこちら)。

   

 これによると報酬は基本報酬と付加報酬(ボーナス)で構成される。
 基本報酬は、毎月支払われるもので、金額は認知症の人の流動資産の額に比例し、1000万円以下だと月額2万円(年24万円)、1000万円~5000万円が月額3万~4万円(年36万~48万円)、5000万円以上が月額5万~6万円(年60万~72万円)だ。
 ボーナス額については、具体的な額が書かれていない。だが一般的には、認知症の人の自宅を売却した際には100万円程度、遺産分割協議の報酬では、たとえば4000万円の遺産分割で80万円程度などとされ、第1回で取り上げた「後見制度支援信託」(後見信託)の設定報酬もボーナス扱いとなり、15万~30万円とされている。
 たいした労力をかけずに、これほどの報酬を得られるのだから、専門職にとって成年後見制度は「おいしいビジネス」と言えるだろう。
 専門職後見人らが報酬を得る際に行う作業も、次のような簡単なものだ。
 後見人は、年に1回、家庭裁判所に業務報告を行う。この報告は「被後見人の所在」「健康状態」「財産状況」をチェック式で報告する程度で、30分もあれば書けてしまう。この業務報告にあわせて、後見人は「報酬をください」という申し立てをする。
 申し立てを受けた家裁は、1週間程度で「報酬の審判」を下す。家裁が発行する審判書は1枚の紙きれで、直近1年間の報酬額を「『○○万円』とする」とだけ記載されており、根拠などの説明はない。
*支払いに「強制力」はなかった!
 だが、ここで驚くべき事実がある。多くの人は「裁判所が下した審判書なのだから、認知症の高齢者や家族は、後見人がその金額を財産から取っていくのを黙って見ているしかないのだろう」と思うだろう。
 ところが、家裁が下した「審判所」は、何も後見人が被後見人の財産から取ることに法的強制力を持たせるものではない(強制執行の根拠にならない)のだ。
 つまり、この報酬金額の審判は、被後見人の財産から無理やり報酬を取っていってよいというお墨付きにはならない。
 実際、東京弁護士会発行の月刊誌『LIBRA』2014年7月号の「成年後見実務の運用と諸問題」という特集企画の中で、東京家裁の小西洋判事らは「報酬付与の審判は後見人に報酬請求若しくは報酬を受け取る地位を付与・形成する審判と解され、特定の義務者(被後見人)に金銭の支払を命じるものではな」いとしている。

  
 LIBRA『LIBRA』2014年7月号より。色枠で囲んだのが当該部分(枠は編集部)
 司法統計をもとにこうした報酬を推計すると、実に2000億円を超えるというから恐ろしい。
 元東京大学医学系研究科特任助教で、成年後見制度に詳しい一般社団法人「後見の杜」代表の宮内康二氏は、こう指摘する。
 「後見報酬の審判が確定債権にならないことは、専門家の間では常識です。同様に後見監督人(注・連載第1回で取り上げた「監督人」)に払う義務もありません。
 しかし、その事実を国民に知らせない業界体質がある。ようやく最近になって、この事実に気付いた被後見人や遺族たちが、いま返金を求める裁判を起こす準備をしています」
 ほとんど何もしていない後見人に対して「あの報酬は不服だから、返してくれ」と言えるものならば言いたい、という遺族や被後見人たちは少なくないだろう。
 認知症高齢者やその家族が立ち上がろうとしている状況下で、政府はどう対応しているのか。実は、専門職後見人への傾斜をさらに強める姿勢を見せているのだ。
 昨年5月、安倍政権は「成年後見制度利用促進法」を施行した。これにともなって、成年後見制度に関する政策の審議などを行うために内閣府に設置された「促進委員会」には、弁護士や司法書士、社会福祉士の職能団体の幹部がそろってメンバーに入っている。
 上がり始めた市民の声と、逆行する司法・行政の姿勢。法廷闘争の行方はまだわからないが、まずは私たち自身が、いま水面下で「おかしな事態」が起こっているという事実を知ることが大切だろう。

 ◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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