梅原猛著作集10『法然の哀しみ』 〈来栖の独白 2019.8.18〉スマホを操りながらも・・・

2019-08-18 | 本/演劇…など

〈来栖の独白 2019.8.18 Sun〉
 ここひと月ほど、『法然の哀しみ』を再読している。20年も前に読んだものだが、多くの示唆に富み、再び知る、学ぶという感じである。網羅されている仏教の言葉も好きだ。20年ほども前、他にも梅原猛氏の著作を好んで読んだものだった。歳月を経て再び手に取ったけれど、梅原猛さんの書かれたものの深さ。「教えられる」ことは、楽しいことだ。
 ところで、今はスマホの時代。例えば長距離バスに乗るにも、夫君はスマホで席を予約し、乗る際に運転手にスマホを見せるのだそうな。----運転手さんはスマホにも対応できなくてはいけない----「チケットレス乗車」とか。ラインとか、スマホは便利なことはこの上ないが、使いながらも「なんだかなぁ」という思いが私によぎる。
 昨年だったか、【高校国語に選択科目「論理国語」登場で物議 「授業から文学が消える」はどこまで本当なのか】というニュースがあった。実学が重視され、文学作品が軽視されるという。
 文学や伝統芸能は、日本人のアイデンティティだ。便利さや国際化ばかりを重視していて、日本文化はどうなるのか。私は不安でならない。能楽堂へ足を運ぶたびに、類(たぐい)稀な日本の文化に満足し、誇らしく思う。しかし今、謡曲の詞章が容易く理解できる日本人がどのくらいいるのだろう。装束についても然り。
 『法然の哀しみ』を読みながら、ついついスマホと比較してしまう…。

阿刀田高の苦言 高校国語改革「違和感を覚えるのは私だけでしょうか」 『文藝春秋』2019年1月号
中3に英語テスト 19年度実施 「祖国とは国語だ」シオラン 「無機的な、からっぽな、経済大国」三島由紀夫
「祖国とは国語だ」…ルーマニア出身の思想家シオランの言葉である。 2006-04-14  
韓国 “知の崩壊”が進んでいる ハングル至上主義で漢字を忘れた韓国人は「大韓民國」が書けない 2013-07-27 

---------------------------------------- 
『法然の哀しみ』
 抜粋書き写し(漢数字を算用数字にしています=来栖)
p138~
 かくして法然は叡空の弟子となり、叡空から、最澄―円仁―源信―良忍―叡空と伝わる「大乗菩薩戒」を受けた。こうして法然は叡空のもとで僧になったわけであるが、その直後に悲劇は起きた。「別伝記」には「然る間に、慈父は敵に打たれ畢(おわ)んぬと云う。上人はこの由を聞きて、師に暇(いとま)を乞ひて遁世せむとするに」とある。やはり父の予言はあたったのである。「別伝記」によれば、父殺害事件が起こったのは法然の登山の後であるが、それはいつであろうか。私は、それは法然が叡山に登山した久安三(1147)年の春以降まもなくの頃ではないかと思う。なぜなら、彼は久安4年16歳のとき以後、3人の師匠について天台教学を学び、3年間で天台60巻を学び終わったというのである。そして黒谷の叡空の経蔵に蟄居して『一切経』を読破するという、いわば隠遁の読書人になったのは法然18歳の頃である。父殺害を、どうしても法然が天台教学を学ぶ以前におかなくてはならないが、とすれば、それは久安3年、法然が叡山に登った年の暮れということになる。
p139~
 この事件は、「大乗戒」を受けて正式な僧になったばかりの法然の心に大きな衝撃を与えたにちがいない。父も母も殺されたとすれば、もうこの世に自分が頼るべき人はいない。そのうえ父や母を殺した犯人もわからない。(略)それはたぶん権力ある人間で、時国と敵対しているものであろうが、殺された時国側にも十分責任があるのである。だれもこの時国殺害に異議をとなえることができない。これが現実の世界であった。


梅原猛著作集10 法然の哀しみ

編/梅原 猛

  梅原猛著作集10 法然の哀しみ

定価本体4300円+税
発売日2000/9/26
判型/頁4-6/726頁
ISBN4096771104

〈 書籍の内容 〉
 法然の心に秘められた謎を探り、平等思想の原点に迫る書き下ろしの作品  浄土宗の祖法然は知恵第一、一生不犯の聖人といわれるが、彼が救おうとした人々は、学もなく戒も守れない庶民、悪を犯さずには生きられない凡夫、仏教によって救われがたい女人たちであった。法然はなぜ専修念仏という新しい仏教を立て、末法の世に信仰の光をあてようとしたのか。法然には、人生の深い哀しみが隠されていたからである。少年時代に負った心の疵とは何か。法然の心に秘められた謎を探り、その思想と人間像に迫る。
 構想十年、知の巨人梅原猛がついに完成させた書き下ろし千三百枚の二十世紀最後の記念作品。
 今、人間法然の平等思想の原点とその現代的意義が明らかになり、これからの生き方が示唆される。

 ◎上記事は[小学館]からの転載・引用です


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。