遠藤の実家近くまで津波到達 能登半島地震
中日新聞 2024年1月5日 17時48分
能登はやさしや
中日新聞朝刊 2024.1.13.(土曜日)
被災地とともに 大相撲 遠藤聖大さん
*えんどう・しょうた 1990年生まれ。小学校卒業まで石川県穴水町で過ごす。金沢市立西南部中から金沢学院東高(現金沢学院大付高)に進み日大へ。2013年春場所で幕下10枚目格付け出しでデビュー。最高位は小結。33歳だ。
元気な相撲を取って勇気づけられれば
実家から一歩出れば山が迫り、背後には海、耳を澄ませば波の音が聞こえます。僕は家の中で遊ぶような子どもではなかった。今日は海に行こうとか、今日は山だとか、友達と言い合って遊びました。海と山。「穴水」と言われて思い出す心の風景です。
能登半島地震が発生した元旦は、東京近郊の自宅でゆっくり過ごしていました。午後4時過ぎ、緊急地震速報が鳴り、テレビに目を向けると画面に「能登」の文字。それまでも自信が続いていたので、どきっとした。とっさに祖父に電話した「すぐに逃げて」と。津波が来ても山に逃げれば助かります。登り切ったころを見計らって、もう一度電話し、祖父の「もう大丈夫」という言葉を聞いてほっとしました。後で親族から送られてきた写真で、実家の近くまで津波が迫ってきていたことが分かりました。
少しでも元気づけられたり、皆さんが笑顔になってくれたりするのであれば、いつでも駆けつけたい。でも、余震が続き、支援の態勢も整っていない状況で行っても「それどころじゃない」と迷惑をかけてしまいかねない。その時機は見極めたいと思っています。
ただ、行かないからといって故郷のことを忘れているわけでは絶対にありません。連日、報道が続き、被災者の方の声をテレビで聞く機会も増えている。懐かしい方言とイントネーション。リモコンを片手に、少しでも地元の映像が流れている番組へとチャンネルを変えています。
14日から大相撲の初場所(東京・両国国技館)が始まります。一番良いのは勝って白星を、元気を届けること。ただ、相撲は相手がいることなので、こればかりは確約できません。被災者の方の思いを背負う、と格好つけても、一番大変なのは現地の方々。思いは胸の奥にとどめ、いつものように元気な相撲を取って、勇気づけられるのであればそれが一番良い。結果的に前向きな気持ちになってらえれば、すごくうれしい。そのために僕は頑張らないといけない。
乾燥した関東とは異なり、能登はしっとりとした寒さが肌を刺します。避難生活では冷たい床の上で横にならざるを得ない人もいるのではないでしょうか。高齢の方もいると思います。体の芯から冷える寒さで本当に大変だと心配しています。
実家から見える海には、伝統的なボラ漁に使う「ボラ待ちやぐら」が立っています。上から大群を見張る漁法で、穴水ならではのやぐらです。僕の化粧まわしには、このボラ待ちやぐらをあしらったものがあり、初場所でもそれを着けて土俵入りします。テレビの向こうで喜んでくれる人がきっといると思うから。
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能登半島を大きな地震が襲いました。今も被害の全容が分からぬ大災害。「能登はやさしや 土までも」とうたわれる地に生きる人たちへ、ゆかりの著名人からのメッセージを届けます。
(随時掲載します)
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し