脱原発 ドイツ/①~②原発と核兵器は同じ技術 戦争状態と同じ トイレのないマンション

2012-03-27 | 政治

メルケルを敗北させた「3.11」の衝撃  脱原発!ドイツの成算なき挑戦【1】
2012年 3月26日(月)プレジデント編集部 渡邉 崇=文
 2011年、日本で発生した「3.11」を見て、4日後には約半分の原発を停止し、4カ月後には「脱原発」を決定したドイツ。なぜこのような決断を行ったのか。ドイツのエネルギー最前線を報告する。
 「3.11」で発生した福島第一原発事故は、日本から遠く離れたドイツでもただちにマスメディアを通じて報じられた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、原発の爆発の瞬間、テレビに釘付けになった。旧東ドイツの大学で理論物理学を学び、その専門家でもあるメルケルにとって、日本の福島で発生した大惨事は他人事ではなかったのだ。
 彼女の決定は素早かった。事故発生から4日後には、古い原発7基の停止と、全原発の安全調査を命じたのだ。
 その2週間後、南ドイツのバーデン・ヴュルテンブルグ州の選挙では歴史的な変化が起きる。脱原発を旗印に掲げるリベラル系の「緑の党」が第二党に躍進し、第三党となった中道左派の社会民主党(以下、SPD)と連立政権を組んで過半数を獲得。ここに史上初となる緑の党出身の州首相が誕生したのだ。
 同州の州都シュツットガルトには、ダイムラー、ポルシェ、ボッシュなど世界的な企業が本社を構えていて、メルケルが党首を務める中道右派のキリスト教民主同盟(以下CDU)が58年間、地元の政権を担ってきた。いわば、保守的な地盤でのリベラル政権の突然の誕生だった。“政治的に敏感な動きを見せる”(地元ジャーナリスト)と称されるメルケルの政治運営にも大きな影響を与えたようで、メルケルも「福島原発の大事故を巡る議論が敗因として大きい」と述べている。
 その後、4月早々に、メルケルは有識者による「安全なエネルギー供給」のための倫理委員会を設置させた。そこで、メルケルはドイツ16州の知事とエネルギー政策の転換について協議するなど、ここで再生可能エネルギーに転換する意思を固めた。同委員会は「遅くても2022年までに原子力発電所を停止する」と提言し、メルケルも同意したのだ。
 6月初旬には「脱原発」関連法案が閣議決定され、連邦議会でエネルギー法案の審議が開始された。そして6月30日には左右、与野党を問わない圧倒的な賛成で「脱原発関連法案」が可決されたのだ。7月8日には、連邦参議院の決議を経て、8月31日に同法案が執行され、ここに「脱原発」が確定した。「3.11」から連邦参議院の決議まで、ほぼ4カ月のスピード確定だった。
※すべて雑誌掲載当時 プレジデント 2012年3月5日号
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原子力発電の使用は常に戦争状態と同じ  脱原発!ドイツの成算なき挑戦【2】
2012年 3月27日(火)プレジデント編集部 渡邉 崇=文
 では、「脱原発」の決定に対して、「原発推進派」だった人々の反応はどうだろうか。脱原発後、反対派の動きもまた活発となると思いきや、「100%原発回帰はない」という意見で一致していた。
 「脱原発は政治のトップダウンで決まりました。従います」(ドイツの経団連、ドイツ産業連盟〈BDI〉の幹部)。
 官界、政界の要人も同様の反応で、「ほぼ全政党が一致して、決断したこと。その決定に従うのは当然です」(連邦経済技術省のヨッヘン・ホーマン事務次官)。
 「脱原発の議論が、激しく世論を二分したのは事実ですが、一度決まったことに従うのは当然です。私は右派のCDU(もともと原発推進派)の議員ですが、我々の党は4年前から、原子力発電所を新しく建設しないと決めていました」(連邦環境・自然保護・原子力安全省のウルズラ・ハイネン-エッサー政務次官)。
 日本のように反対派と推進派が脱原発について激しく意見を対立させ、その後も負けたほうが反対活動を続けることを想定していたので、拍子抜けの感じさえした。それどころか、一部の平和運動・自然保護団体には、22年までの脱原発ではまだ不十分だという声もある。
 「原発使用後に出る“核のゴミ”の問題が残っています。原発はトイレのないマンションのようなもので、使用済み核燃料の保管場所は、依然として大きな問題です。廃止を前倒しすることは可能です」(ボン反原子力の会、スヴェン・ブリーガー氏)
 では、脱原発にいたる歴史的な経緯はどうなのだろうか。連邦外務省のステファン・バントル課長が説明してくれた。
 「脱原発の動きは、昔からありました。今回の決定は、突然決まったのではなく、10年以上前から決まっていたことです」
 ドイツでは、1960年代から75年頃にかけて、核エネルギーへの反対運動が強くあった。しかしながら、ドイツが核エネルギーの恐怖を如実に感じたのは、86年に発生した旧ソ連のチェルノブイリ原発事故だった。チェルノブイリで発生した高濃度の放射能に汚染された物質が、1000キロ以上離れたドイツにまで到達したのだ。「ホットスポットとなった南ドイツでは、大変な影響を受けました」(バントル氏)。
 福島の原発事故でも話題を呼んだ「ホットスポット」が25年前のドイツでも確認されていたのだ。ドイツ人は伝統的に森を愛する国民で、ホットスポットが見つかった南ドイツでは、キノコや猪などの捕獲が禁止された。それだけでなく、今回の福島のケースのように、南ドイツの住民に対してセシウムに注意すべきとか、幼児に水道水をそのまま与えては駄目だなどと1年以上、「注意点」が報道された経緯がある。
 このように、チェルノブイリの恐怖だけでなく、経済的な損失と“心の痛み”が長年にわたりドイツ国民の“原発アレルギー”を増幅させたのは、間違いない。
 今回の「脱原発」決定は、マイナーな政党だった「緑の党」がメジャーなものに変貌する過程と大きく関係している。
 チェルノブイリ原発の事故後、もともと脱原発を掲げてきた「緑の党」が徐々に存在感を増していく。さらに90年代後半には勢力を拡大し、中道左派のSPDと緑の党の間で連立政権が誕生するまでに至った。そして02年には、当時のシュレーダー首相がついに、緑の党が念願としていた「22年の脱原発」を決定したのだ。しかし、この10年前に起こった「脱原発」の歴史的な決定も、10年に一度見直しが行われている。
 「経済状況の悪化などで産業界からの意向で、22年以降も原発の稼働を延長することに変更されましたが、福島の原発事故で、時計の針が元に戻ったのです」(バントル氏)
 ドイツでは津波や地震の心配はなく、今回の福島原発事故で発生したような津波でほぼすべての電源系統が不能になることは想定されにくい。しかし日本の原発事故の状況から、「すべてのことを事前に予測するのは難しい」「専門家が十分予測したことでも間違う」と多くの国民が感じたためだろうと、バントル氏は分析する。
 また同省のマリオ・クレプス氏は、脱原発への経緯を別の角度から指摘する。
 「原発事故が一度起こると、放射能で汚染された物質が国境を越えて他国にまで及ぶため、その影響は計り知れません。使用済み核燃料の処理方法も決定的な解決策がない状況で、放射能汚染の影響は何百年と続きます。我々は、子孫に対して責任を負う必要があると考えています」
 ドイツ人には、原発=核と捉える人が少なからずいるのも事実だ。89年のベルリンの壁崩壊まで、ドイツは西ドイツと東ドイツに分断され、中距離核ミサイルが装備されるなど冷戦構造の最前線に立たされてきたからだ。
 「原子力発電と核兵器は同じ技術でできています。だから原子力発電を使用しているのは、常に戦争状態と同じなのです」 (ブリーガー氏)
 このように核の存在と恐怖が身近なものとして、原発へのマイナスの感情が長年市民の中に蓄積していったのだ。
※すべて雑誌掲載当時 プレジデント 2012年3月5日号
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脱原発 ドイツ/③電力アウトバーンの建設/「発送電分離」現状は/「エネルギー盟主国」に変貌するか 2012-03-29 | 地震/原発 
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原発の「ごみ」行き場なく/「核半島」六ヶ所村再処理工場/東通原発/大間原発/核燃料 中間貯蔵施設2011-04-28 | 地震/原発
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映画「100,000年後の安全」地下500㍍ 核のごみ隠すオンカロ/原発から出た放射性廃棄物を10万年後まで保管2011-06-01 | 地震/原発 
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核燃サイクル撤退提言 「川下」から原発再考 民主の勉強会--会長・馬淵議員に聞く 2012-02-26 | 地震/原発 
 「川下」から原発再考 民主の勉強会 核燃サイクル撤退提言--会長・馬淵議員に聞く
中日新聞 《 核 心 2012/02/26.Sun.
 政府が今夏をめどに是非を判断する原発の核燃料サイクル。与党、民主党の中堅、若手議員ら約七十人でつくる「原子力バックエンド問題勉強会」が核燃サイクルの撤退を盛り込んだ提言をまとめ、今後の議論に一石を投じている。会長を務める馬淵澄夫元国土交通相にその狙いなどを聞いた。以下は一問一答。(聞き手=社会部・寺本政司、中崎裕)
----原発問題にバックエンドから取り組むのはなぜか
馬淵:原発の是非を議論するとき、これまでエネルギー需要という「川上」から入っていた。経済産業省の総合資源エネルギー調査会でやっている最適な電源多様化の議論も結局は原発、火力、水力、再生可能エネルギーの組み合わせを決めるだけで、原発は簡単にゼロとならない。逆に使用済み核燃料を減らすという「川下」からの視点なら話は違ってくる。原発は「トイレなきマンション」と言われ、廃棄物をどうするかが最大の問題だったわけだから、発想の転換がないと「脱原発依存」なんてやれっこない。
----核燃サイクル撤退を主張している
馬淵:使用済み核燃料の再処理は何十年もやってきていまだ完成していない。関係者はいろいろ言い訳するが、これはもうフィクション(絵空事)だったと言わざるを得ない。それがあたかもできるかのようにして、全国で五十四基もの商業用原発が動いてきた。このフィクションを前提にしているから原発はなくならないし、「再稼働せよ」なんて話が出てくる。
 再処理で燃料を再利用するというのが、その過程で余分な核物質が出てくる。この量がいったいどれくらいで、どう処分するのか見当すらつかない。六ヶ所村再処理工場(青森県)や高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)を動かせば、建物が放射能で汚染される。膨大な放射性廃棄物が出て、廃炉が大変になる。今、止めればその手間と費用が省ける。
----使用済み核燃料をどうするのか
馬淵:とりあえず三十年~五十年の単位で中間貯蔵するのが現実的。問題の先送りといわれるかもしれないけれど、放射性廃棄物の最終処分は十万年かかるのだから、立ち止まってじっくり考えるべきだ。米国だってネバダ州の最終処分を白紙に戻した。貯蔵施設の設置場所は住民の受益と負担の公平性を確保しながら、国が主導的に進めるのが得策だと思う。
----提言後、「原発ムラ」の巻き返しはないか
馬淵:特に経産省は凄まじい。これまで経済性一本やりで推してきたが、最近は安全保障と絡めてくる。詳しくは言えないが、例えば、現在行っている米韓原子力協定の改定交渉。米国には韓国が再処理工場を持てば、北朝鮮を刺激するので思いとどまらせたい、と考えるかもしれない。そこで、日本が再処理を引き受ければ、東アジアの安定につながるとの理屈で、六ヶ所村の再処理工場が正当化されてしまう。外交上の秘密となれば、国民の知らないところで議論が進んでしまう。
----もんじゅも廃炉を条件に五年運転する案が浮上している
馬淵:五年ほどで、ある程度の実験データを得られるということでしょう。でも、いったん認めたらずっと続けることになる。現実に廃炉だ、と決めたとき、どういう撤退戦略を描くのか、運営する日本原子力研究開発機構に示してもらう。
----提言をどう具体化するのか
馬淵:議員提案による現行法の改正や新法成立を考えていく。夏までが勝負で、法案の骨子作りも進めている。積み上げてきたものをスパッと変えるのは、政治しかできない。
原発のバックエンド
 原発の建設や運転、核燃料の加工などをフロントエンドと呼ぶのに対し、使用済み核燃料や放射性廃棄物の処理、廃炉作業などを指す言葉。日本は使用済み核燃料再処理して、プルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を高速増殖炉などで燃やす核燃料サイクルを推進してきた。しかし、欧米の主要先進国は高コストを理由に核燃サイクルから相次いで撤退。使用済み核燃料再処理せず地中に埋める直接処分を採用する国が多い。高濃度の放射性物質のため管理、保管は十万年かかるとされ、日本を含め各国とも処分場探しに苦労している。
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イランも米国も、まだ全面対決を望んでいない/核の一線を越える覚悟がイラン自身にあるのかどうか2012-01-24 | 国際
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核兵器に転用可能なプルトニウム/原発保有国の多くは本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようで2012-01-24 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
原発保有国の語られざる本音/多くの国は本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり2011-05-10 | 政治〈国防/安全保障/領土〉
 知らないのは日本人だけ? 世界の原発保有国の語られざる本音
JB PRESS 2011.05.10(Tue)川島博之〈東京大学大学院農学生命科学研究科准教授〉
 4月の最終週に、ドバイ経由でエチオピアに出張した。出張ではホテルのロビーなどで外国人と何気ない会話を交わすことも多いのだが、今回出会った人々は、私が日本人と分かると、異口同音に「FUKUSHIMA」について聞いてきた。世界の人々が原発事故に関心を寄せているのだ。福島は広島、長崎と共に、広く世界に知られた地名になってしまった。
 日本はこれからも原子力発電を続けるべきであろうか。それとも、原発は取り止めるべきなのだろうか。
 報道各社による直近の世論調査では、賛否はほぼ拮抗している。多くの人が、地震が多い日本で原子力発電を行うことはリスクが伴うが、便利な生活を送るためには仕方がないと考えているのだろう。
 現在は、原発から漏れている放射性物質の封じ込めや津波で破壊された町の復興に関心が集まっているが、一段落つけば、これから原発とどう付き合うか、真剣に議論しなければならなくなる。
 その議論を行う前に、世界の原発事情についてよく知っておくべきだ。フランスが原発大国であることを知っている人は多いと思うが、その他の国の事情については、よく知られていないと思う。
 筆者の専門はシステム分析だが、システム分析ではデータを揃えて広い視野から先入観を持たずに現実を直視することが第一歩となる。そこで本稿ではIEA(国際エネルギー機関)のデータを基に、世界の原発事情について考えてみたい。そこからは原発の意外な一面が見えてくる。
*原発を所有する国の意外な顔ぶれ
 原発は最先端の科学技術を利用したものであるから、先進国にあると思っている人が多いと思う。しかし、調べて見るとどうもそうとは言い切れない。
 現在、31カ国が原発を所有している。原発による発電量が最も多い国は米国であり、その発電量は石油換算(TOE)で年に2億1800万トンにもなる(2008年)。
 それにフランスの1億1500万トン、日本の6730万トン、ロシアの4280万トン、韓国の3930万トン、ドイツの3870万トン、カナダの2450万トンが続く。日本は世界第3位だが、韓国も第5位につけており、ドイツを上回っている。
 その他を見ると、意外にも旧共産圏に多い。チェルノブイリを抱えるウクライナは今でも原発保有国だ。石油換算で2340万トンもの発電を行っている。その他でも、チェコが694万トン、スロバキアが440万トン、ブルガリが413万トン、ハンガリーが388万トン、ルーマニアが293万トン、リトアニアが262万トン、スロベニアが164万トン、アルメニアが64万トンとなっている。
 旧共産圏以外では、中国が1780万トン、台湾が1060万トン、インドが383万トン、ブラジルが364万トン、南アフリカが339万トン、メキシコが256万トン、アルゼンチンが191万トン、パキスタンが42万トンである。
 その他では、環境問題に関心が深いとされるスウェーデンが意外にも1670万トンと原発大国になっている。また、スペインが1540万トン、イギリスが1370万トン、ベルギーが1190万トン、スイスが725万トン、フィンランドが598万トン、オランダが109万トンとなっている。
 原発を保有している国はここに示したものが全てであり、先進国でもオーストリア、オーストラリア、デンマーク、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガルは原発を所有していない。
 ここまで見てくると、一概に原発は先進国の持ち物と言うことができないことが分かろう。
*多くの国は本音で核兵器を持ちたがっている
 東欧諸国は旧共産圏時代に建設し、今でもそれを保有している。しかし、台湾やインド、ブラジル、南アフリカ、パキスタンになぜ原発があるのだろうか。韓国の発電量がなぜドイツよりも多いのであろうか。また、G7の一員でありながら、なぜイタリアには原発がないのか。
 原発の有無は、その国の科学技術力や経済力だけでは決められない。
 ある国が原発を所有する理由を明確に知ることは難しい。その国の人に聞いても、明確な答えは返ってこないと思う。しかし、原発を持っている国名を列記すると、その理由がおぼろげながら見えてくる。原発は国家の安全保障政策に関係している。
 原子力による発電は原子力の平和利用であるが、ウランを燃焼させることにより生じるプルトニウムは原子爆弾の原料になる。また、原発を製造しそれを維持する技術は、原爆を製造する技術につながる。原発を持っている国は、何かの際に短時間で原爆を作ることができるのである。
 北朝鮮が原爆の所有にこだわり、それを手にした結果、米国に対して強い立場で交渉できる。この事実は広く知られている。そのために、イランも原爆を欲しがっている。
 米国が主導する世界では、世界の警察官である国連の常任理事国以外は核兵器を所有してはいけないことになっている。それ以外の国が原爆を持つことは、警察官以外が拳銃を持つようなものであり、厳しく制限されている。
 しかし、各国の利害が複雑にぶつかり合う世界では、金正日が米国に強気に出ることができるように、核兵器を持っていることは外交上で有利に働くと考えられている。
 多くの国は、本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり、原発保有国のリストと発電量を見ていると、その思いの強さが伝わってくる。
*フランスが原発大国でイギリスの原発が小規模な理由
 日本では、フランスが原発大国であることはよく報じられるが、その理由が語られることはない。フランスが原発に舵を切ったのは、地球環境問題がやかましく言われるようになった1990年代以前のことである。フランスはCO2を排出しない発電方法として原発を選んだわけではないのである。
 それには、西側にいながら米国と一線を画したいと考えるドゴール以来の外交方針が関連していると考えるべきであろう。同様の思いは、国防に関心が深いスウェーデンやスイスにも共通する。また、フィンランドは常にソ連の脅威にさらされてきた。
 そう考えると、西側の中でもイギリスの原発発電量がスウェーデンよりも少なく、フランスの約1割に過ぎないことがよく理解できよう。イギリスの外交方針が米国と大きく異なることは多くない。原子力の力を誇示して、ことさらに米国と一線を画す必要はないのである。
 韓国に原発が多いことも理解できる。米国が作り出す安全保障体制の中で原爆を持つことは許されないが、北朝鮮が持っている以上、何かの際に原爆を作りたいと考えている。
 その思いは台湾も同じである。旧共産圏に属する小国が、多少のリスクに目をつぶって原発を保持し続ける理由もそこにある。東西の谷間に埋もれるなかで、少しでもその存在感を誇示したいと思っているのだ。
*「絶対安全」とは言えない原発の所有を国民にどう説明するか
 このような力の外交の一助として原発を位置づけるという考え方は、多くの国で国民にそれなりの理解を得ているようだ。だから、フランスや韓国や台湾、ましてパキスタンで反原発のデモが繰り返されることはない。
 しかし、日本、ドイツ、イタリアではそのような考え方は国民のコンセンサスとはなり難い。言うまでもなく、この3国は第2次世界大戦の敗戦国であり、多くの国民は力による外交を毛嫌いしている。そのために、原発の所持を安全保障の観点から国民に説明することが難しくなっている。
 この3国では原発所持の理由を、経済性や絶対安全であるとする観点から説明することになる。しかし、それだけでは、使用済み燃料の最終処理に多額の費用を要し、また、福島の事故で明らかになったように、絶対安全とは言えない原発の所有を国民に説明することはできない。
 イタリアはチェルノブイリ原発事故の後に国民投票を行い、原発を廃止した。また、ドイツも緑の党などが強く反対するために、福島の事故を受けて、原発の保有が大きな岐路に立たされている。
 ここに述べたことを文書などで裏付けることは難しい。しかし、原発の保有国リストや発電量を見ていると、自然な形で、ここに述べたようなことが見えてくる。世界から見れば、日本の原子力政策も潜在核保有力の誇示に見えていることであろう。
 これまで、日本における原発に関する議論は、意識的かどうかは分からないが、本稿に述べた視点を無視してきた。
 しかし、原発の経済性と安全性の議論だけでは、なぜ、原発を持たなければならないのかを十分に議論することはできない。福島の事故を受けて、今後のエネルギー政策を考える際には、ぜひ、タブーを取り除いて議論すべきであろう。
 戦後66年が経過しようとしている。少子高齢化も進行している。そろそろ、老成した議論を始めてもよいのではないであろうか。 *強調(太字・着色)、リンクは来栖


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