北朝鮮/民は、飢え死にするか、脱出を試みて死ぬか、買い占めに走るか・・・/季節的に脱北は困難

2011-12-22 | 国際

〈来栖の独白2011/12/22 Thu.〉
 どのような状況に出くわしても、真っ先に困窮し、死に追いやられるのはいつも、底辺で暮らすことを余儀なくされている民草である。これは、どの国にあっても同じだ。その日の食糧にすら事欠く民に、金正日・総書記の死に皆で打ち揃って号泣する余裕はないだろう。北朝鮮では、「泣く」パフォーマンスまで強制されるという。・・・胸が痛くなる。
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北朝鮮はすぐに崩壊はしない 中国政府の動向がカギを握る
Diamond online 2011年12月20日 ――宮塚利雄・山梨学院大学教授に聞く
 金正日・北朝鮮総書記が12月17日午前8:30、心筋梗塞により移動中の電車内で亡くなった。核問題や拉致問題、脱北者など多くの問題を孕む北朝鮮の今後の体制はどうなるのか。朝鮮近代経済史を専門とする宮塚利雄・山梨学院大学教授に展望を伺った。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 片田江康男)
■中国のお墨付きを得ている金正恩を体制の中心に据える
―― 金正日(キム・ジョンイル)総書記の死去により、北朝鮮の国や指導体制はどうなると見るか。
 まず、北朝鮮がすぐに崩壊することはないだろう。理由としては、中国と韓国は国のトップが変わるからだ。自分の国の指導者が変わるタイミングで、隣の国で大きな変化があっては困る。だから、なるべく混乱を抑えるように行動するはずだ。
 特に北朝鮮の最大の支援国である中国は、なるべく北朝鮮で混乱が起こらないように行動している。国境警備を強化しており、脱北者をなるべく出さないようにしている。悶着を起こすな、というのが今の中国の姿勢だ。
 とりあえず、金正恩(キム・ジョンウン)を中心に置いて、軍と党が支えていく体制をとるだろう。中国も金正恩を認めているし、トップになることを望んでいる。
 ただし、それがいつまで続くか分からない。軍と党がいつまでも仲良くしているとは思えないからだ。一時的な体制だと考えるべきだ。
―― 一時的な体制とはどういうことか。その後はどうなると見ているのか。
 金正恩はまだ28歳で国を統治する能力はない。「父親あっての正恩」だった。国内では「青年大将」なんて言われているが、実際にはそんなこと誰も思っていない。
■避けられない軍と党の権力闘争
 では、だれが統治することになるのか。それは分からない。金正恩が軍と党の利害調整などできるわけもなく、権力闘争が活発化するだろう。党のトップは金正日の妹の夫である張成沢(チャン・ソンテク)、軍部のトップは李英浩(イ・ヨンホ)だ。ひとまず、彼らは金正日の死去という緊急事態を乗り切るために協力するだろうが、すぐに権力闘争を始めるだろう。
 加えて軍の内部でも権力闘争がある。長老達が権力を握っているが、中堅の冷や飯を食わされている者も多く、不満がたまっていると言われている。
 私は、結局、軍が権力を握ると見ている。クーデターは起こらないだろう。
――混乱は周辺諸国にどのような影響を与えるか
 日本には直接的な影響はない。軍が暴発するということもないだろう。中国が監視しているし、何しろガソリンがない。
 人民が一斉に逃げ出して、日本海を渡って日本に逃げてくることも考えにくい。これから冬にかけて海は大荒れだからだ。
 もっとも気にしなくてはならないのが、中国の動きだ。もし、北朝鮮内部の権力闘争がエスカレートし、収拾がつかないと判断して介入すれば、それを見た韓国も介入することになるだろう。当然、米国も動き出すだろう。そうなれば、混乱は北朝鮮という一国の問題だけでは片付かなくなる。
 中国軍や韓国軍は、北朝鮮の状況によって、どのような軍事行動をとるか決まっている。中国と韓国のどちらが先に動くかに注目したい。
――核の問題や拉致の問題はどうなるのか。
 もはや、核問題や拉致問題の話をしている場合ではない。六ヵ国協議や拉致問題がすぐに進展を見せることはないだろう。もっとも、北朝鮮にとっては、六ヵ国協議が開かれないことは好都合だ。
 拉致問題がもし進展を見せるとしたら、北朝鮮の体制が固まり、しかもその体制が中国の言うことをよく聞く体制になってからだろう。そうなれば、日本は中国に拉致問題解決の協力を取り付けることができるかもしれない。そのような条件が揃い、粘り強く交渉すれば、もしかしたら解決への道が開けるかもしれない。
■食料不足にインフラ寸断 なす術がない北朝鮮人民
――北朝鮮人民はどうなるのか。大量の難民が周辺諸国に押し寄せることはないのか。
 先にも述べたように、季節的に脱北することは困難になっている。中国との国境は警備が強化されている。韓国との国境である38度線は地雷原だ。
 人民は、飢え死にするか、脱出を試みて死ぬか、買い占めに走るか、それくらいしかない。ますます厳しい状況に追い込まれる。
 11月末に私も北朝鮮に行ったが、雪が降っていてものすごく寒かった。零下20度くらいまで気温は下がっていた。零下20度では、普通二重ガラスにしないと家の中でも寒くて仕方がないはずだ。しかし、人民はガラスどころかビニールを張った家に住んでいる。
 冬でインフラもダメ。道路が雪で塞がれており、バスは動かなくなる。鉄道も動かなくなるだろう。さらに慢性的な電力不足だ。平壌中心部は電力はあるが、ちょっと離れればしょっちゅう停電が起こる状態だ。
 その上、食べ物も不足している。買い占めるにしても、一部の人民しかできない。今は米の値段も高騰している。1キログラム4000ウォン(ヤミレートでは1米ドル5000ウォン)と言われている。平均的な労働者の月給は3000ウォン程度。普通の人は買えない。社会の混乱には拍車がかかるのは確実だ。
 人道的な観点から、例えば中国が北朝鮮情勢の収拾のために動けば、繰り返しになるが、韓国も介入し、もっと事態は悪化する。
――人民が蜂起することはないのか。
 それはない。移動手段と伝達手段、食料不足では人民はなす術がない。恐怖政治をますます強め、人民への監視の目も厳しくなる。軍や党、人民を含めてますます疑心暗鬼になっていく。
――金正日はどのような指導者だったのか。功績は何か。
 彼に功績などない。強制収容所を存続させ、人民を飢えさせ、「強盛大国の大門を開く」という出来もしないスローガンを打ち立て、結局できなかった。肯定的に評価できる点は一つもない。かれは優秀な指導者でもなんでもない。ただ、酒池肉林を楽しんでいただけだ。
 厳しい寒さと農作物が取れない、一年でもっとも大変な時期に亡くなった。人民が窮地に追い込まれる。

*みやつか・としお
 山梨学院大学経営情報学部経営情報学科教授。朝鮮近代経済史が専門。檀国大学校大学院博士課程修了。著書に『北朝鮮の暮らし』(小学館,2003年)『がんばるぞ北朝鮮』(小学館,2004年)『北朝鮮驚愕の教科書』(文藝春秋,2007年。宮塚寿美子との共著)など。


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