成功する人は群れの中で消耗しないーひとりぼっちの時間(ソロタイム)のススメ
2018年05月16日 公開
名越康文(精神科医)
「心の中の他人」の声に疲弊する現代人
対人関係のストレスの多くは、実は、現実の人間関係というよりは、「心の中の他人の声」からもたらされるものだと、僕は考えています。
「あの人は私のことをどう思っているんだろう?」
「これくらい頑張らないと、認めてくれないかも」
「たぶん、私の気持ちはわかってもらえないだろうな……」
私たちはいつも、無意識のうちに、他人がどう思うか、他人からどういうリアクションが返ってくるのかということに、心を砕いています。そこで起きているのが「心の中の他人」との会話です。
なぜ、私たちは、心の中の他人の声によって振り回されてしまうのでしょう? なぜ、他人からの評価や視線を、気にせずにはいられないのでしょう?
それはおそらく、私たちが何らかの「群れ」の一員として、生きているからです。
会社員でも主婦でも子どもでも、アップルの創業者である故スティーヴ・ジョブズや日本のプロ野球と米国の大リーグで伝説的な活躍を続けるイチローのような成功者であっても、なんらかの「群れ」の中に所属し、そのなかで生きているという点においては、私たちと大きな違いはありません。
会社や家族、国や地域はもちろんのこと、男女、若者、老人といった社会の中での属性も、群れの一種です。あるいは、私たち日本人にとっては「世間」という名の群れも、それらに負けないぐらい、大きな力を持っているでしょう。
群れの中で過ごしていると、さまざまな「声」が、あなたに囁きかけてきます。家族からの期待、仕事の責任、社会の常識……こうしたものすべてが、「心の中の他人」です。
心の中の他人は四六時中、私たちに「こうあるべき」「こうすべき」「これはやってはいけない」といったプレッシャーをかけてきます。群れの中で過ごす時間(=ソーシャルタイム)の間、私たちはこうした「心の中の他人の声」から自由になることはできません。
「群れ」はその中で生きる人間に、さまざまな常識や価値観、あるいは慣習を要求します。
働くこと、恋をすること、子どもを育てること、家族を愛すること……こうした私たちの行動には、多かれ少なかれ、群れの価値観が大きな影響を及ぼしています。
……ああ、皆さんはそれらの行動を、自分の意志で選んでいる、と考えておられるかもしれません。でもね、実際には、私たちの行動の多くは、皆さんが所属する群れの価値観や習慣によって、無意識のうちに大きな影響を受けているんです。
女性が女性らしい服装をするのも、男性が強くあろうとするのも、みなさんが所属する群れの習慣に従ったものです。
働くこと、挨拶をすること、電車で席を譲ること、行列にきちんと並ぶこと、ゴミをポイ捨てせずにゴミ箱にいれること……私たちの日常のなんでもない行動は、個人の自由な意志というよりは、群れのルールに従って行われています。
こうした「群れのルール」は決して明文化されることなく、「心の中の声」という形をとることで、私たちの行動を無意識のうちに縛っているのです。
群れの中の時間、ソーシャルタイムの中で、現代人は「心の中の他人の声」に疲弊しています。でも、だからといってそう簡単に群れから離れて生きていくこともできない。
そんな現代人に必要なことはなにか。それは、一時的であっても、群れから離れ、「他人の声」に翻弄されないひとりぼっちの時間=ソロタイムを過ごすことだと私は考えます。
群れの中の時間=ソーシャルタイムのなかで疲弊している現代人に必要なのは、「ひとりぼっちの時間=ソロタイム」だというのが、私の考えです。
え? 「私は友達も少なくて、孤独で、いつもひとりぼっちなんですけど」って?
よく考えてみてください。あなたは確かに今、一人で過ごしているかもしれない。でも、あなたの心の中は、本当に「ひとりぼっち」でしょうか? あなたの心の中には、今、この瞬間も、たくさんの<他人>が棲みつき、あなたに声をかけてはいないでしょうか?
あなたが孤独で、寂しくて、辛い思いをしているのは、心の中の他人が四六時中、あなたに「こうあるべき」「こうすべき」「これはやってはいけない」と行った群れのルールや価値観を押し付けているからではないでしょうか?
私たちはかなり明確に意識しないと、群れの時間、すなわちソーシャルタイムに、人生のほとんどの時間を費やしてしまっています。簡単にいえば、私たちは人生のほとんどの時間を、身近な人間関係を維持するためだけに、浪費してしまいがちである、ということです。
緑の豊かな公園を散歩する、小さな喫茶店で歴史小説を読む、静かなお寺の境内で瞑想する……。
ソロタイムを過ごすための具体的な方法については、『ソロタイムひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』で詳しく紹介しているので、ここでは省略します。
ここでみなさんにお伝えしておきたいことは、ひとりぼっちの時間=ソロタイムを過ごすことがなければ、私たちは「群れのなかで生きる自分」の姿を、客観的に見つめ直すことができない、ということです。
会社や家族、友人や恋人、あるいは国や社会……。自分がどのような「群れ」のなかで生きているのか、その「群れ」の常識や慣習が、自分にどんな影響を及ぼしているか、自分の人生をどのように、どの程度縛っているのか。
私たちは、ソロタイムを過ごすことによって初めて、自分を縛っている「群れ」の姿を認識することができます。そして、人生に与えられた限られた時間に「ひとりぼっち」で向き合うことで初めて、自分のなすべきことが何なのかということを、明確に掴み取ることができるのです。
※本記事は、名越康文著『SOLO TIME (ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』 (夜間飛行) より一部を抜粋編集したものです。
◎上記事は[PHP Biz Online]からの転載・引用です
...........