アメリカを侵す中国 その3 共産主義と統一戦線の歴史 2018/10/26 「古森義久の内外透視」

2018-10-27 | 国際/中国/アジア

.国際
 投稿日:2018/10/26
アメリカを侵す中国 その3 共産主義と統一戦線の歴史
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)「古森義久の内外透視 」
【まとめ】
・ベトナム戦争での勝者、ベトナム共産勢力は統一戦線方式の戦略 を使い大成功を得た。
・中国共産党はこの方式の闘争をアメリカなどに仕かけ始めた。
・統戦部は全世界で6千万ともみられる在外中国人の動員を強化 、世界に影響力広げていく。

 この統一戦線という闘争方式は実は世界の共産主義運動のなかでも長い歴史がある。当初はソ連共産党の同名の機関がその威をふるった。
 中国でも統一戦線は共産党が主敵との闘争のために、本来、共産主義には同調しない勢力までを共産党側に取り込み、連合組織を結成しようとする活動に努めてきた。その活動のプロセスでは自分たちが共産主義勢力であることを隠すという偽装も頻繁だった。とにかく自陣営の力を強め、広めて共産党や共産主義に本当に反対する勢力をからめ手から切り崩していくという戦略だった。
 私はベトナム戦争での勝者となったベトナム共産勢力がこの統一戦線方式の戦略を使い大成功を得た経緯を目撃していた。ベトナム戦争は共産主義を信奉する共産党が最初から最後まで主導した闘争だった。民族独立とともに共産主義革命をも一貫して目指していた。
 だが共産主義勢力は戦いの過程では共産主義というイデオロギーを隠し、外部に向かっては民族独立だけを唯一の闘争目標に掲げた。そして共産主義には本来、同調しない勢力までを「民族解放戦線」という名の連合組織体へ引き込んだ。つまりは統一戦線だった。主敵はフランスやアメリカに支援された非共産主義の政権であり、米仏両国でもあった。
 だが世界の多く、とくに日本の識者やメディアのほとんどはこの共産勢力の闘争を共産主義とは結びつけず、イデオロギー色のない民族解放の戦いだと受け止めていた。
 ところがいざ戦争が一九七五年四月に共産主義側の完全勝利に終わってみると、その勝者が「この闘争は実はマルクス・レーニン主義に基づく共産主義の革命だった」と宣言した。そして共産主義に同調しない、それまでの自陣営の勢力や集団はすべて排していったのだ。私はベトナム戦争の最終段階からその後の共産主義統治の前進を現地で報道して、こうした展開を観察した。
 ちなみに現在の日本共産党も党綱領でこの統一戦線を政権を握るための手段として明記している。主敵を倒すため、勝利を得るためには共産党が拠って立つ共産主義を脇において、あるいは隠して、非共産勢力とも幅広く手を組むという発想だといえよう。
 中国共産党はいまやこの方式の闘争をアメリカなどの諸外国に対して仕かけ始めたというのだ。特定の外国の政策や世論を中国側に有利に変えるために、その国内部での幅広い勢力を統一し、姿勢を変えさせ、中国に有利な方向へと影響力の拡大を図る戦略である。
 主敵を倒すためには本来は思想や利害が合わない諸勢力とも手を組むという中国共産党の伝統的な闘争方式を習主席自身が開始した。いまのワシントンではこうした認識と懸念とがあちこちで表明されているのである。
 そのアメリカ側の警戒の具体的な実例を紹介しよう。国政レベルでは議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が8月24日、「中国の海外での統一戦線工作」と題する報告書を発表した。この調査委員会は上下両院の超党派議員を中心に中国や米中関係に詳しい専門家が委員となって、米中関係の安全保障や経済の状況を調べ、議会や政府に政策勧告をすることを任務とする権威ある機関である。
 その調査委員会が公表した39ページの同報告書は「(統一戦線の)背景とアメリカにとっての意味」という副題がつけられたように、最大焦点を中国の統戦部による対米工作にしぼっていた。同報告書が中国の最近のアメリカに対する統一戦線工作の全体について以下の趣旨を述べていた。

・習近平主席は2017年10月の中国共産党第19次全国代表大会で統戦部を対外戦略の推進の重要組織とするようにした方針を明らかにし、共産党政治局の直結組織として重視することを宣言した。とくにアメリカ国内での反中国、反共産主義の勢力を切り崩すことをその重要使命とした。
・中国共産党中央は統戦部のこの強化のために同部への新追加要員として約4万人の人材を投入した。同時に統戦部は全世界で6千万ともみられる在外中国人の動員を強化することを決めた。いわゆる華僑の総動員である。
・統戦部はさらに対外工作にあたっては中国人民政治協商会議、中国国際友好連絡会、中国学生学者連合会、孔子学院などという中国政府の他の組織とも緊密な連携を組んでいくことが決められた。
・統戦部はアメリカなど工作の対象国で中国共産党という実態を最大限に隠して、相手国の広範で多様な組織と手を結び、影響力を広げていく。とくに中国共産党の政策に強く反対することは危険だとか政治的に不適切だとする声を広げて、中国批判を抑えていく。

(その4に続く。その1その2
 *この連載記事は月刊雑誌「WILL」2018年11月号に掲載された古森義久氏の「米国の怒り 中国を叩き潰せ!」という論文を一部、書き換え、書き加えた報告です。5回に分けて掲載します。

 ◎上記事は[Japan In-depth]からの転載・引用です
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