
中日新聞2017.4.5 Wed
少年と罪
木曽川・長良川連続リンチ殺人事件 6 議論尽くし全員極刑
画像;連続リンチ殺人事件の控訴審で、裁判長を務めた川原誠さん。「一点の曇りもないように」と審理に臨んだという=岐阜県内で
うつむいたり、天井を見上げたり。落ち着きなく法廷に入ってきた3人の様子を、名古屋高裁の裁判長だった川原誠さん(76)は覚えている。
2005年10月14日、木曽川・長良川リンチ殺人事件(1994年)の控訴審判決。約4時間がかりで判決理由を先に読んだ後、発生時18~19歳の3人=現在41~42歳=に、前に出るよう促した。
「原判決を破棄する。3人を、死刑に処する」
その4年余前。川原さんは1審・名古屋地裁の判決を新聞で読み、引っ掛かりを覚えた、と話す。Aに死刑を言い渡す一方、BとCを無期懲役としていた。
「それぞれの役割と量刑の差。その説明が十分なされているのだろうか」
ただ、川原さんによると、後に控訴審を担当することになった当初、そんな疑問は口にしなかった。2人の陪審裁判官に予断を与えず、自分も含めて白紙で望むと決めた。自宅に運んだ資料は、軽トラック1台分。12畳の書斎は足の踏み場がなくなった。
ベテランばかり3人の裁判官が、まず1年かけ記録を読み込む。続いて合議が始まった。名古屋城天守閣が目の前にそびえる高裁9階。机が3つ並ぶ裁判官室。わずかな疑問も残さぬよう議論は連日、深夜まで続いた。川原さんがソファで朝を迎えた日もあった。
03年5月に始まった控訴審は、2年半に及んだ。元少年らの言い分は、犯行時の言動をめぐって互いに食い違っていた。被告人質問を重ね、できるだけ多く、発言機会を与えることにしたという。
「それぞれが弁解したいことをぶつけ合えば、真実が浮かび上がる」。長い経験で得た信念があった。やがて、3人の役割に刑を分けるほどの差はない、と心証を固めていった。
1審判決は、少年事件としての特性に言及し、「未成熟な少年たちが、必ずしも統率されていない集団を形成したことによる、場当たり的な犯行」などと指摘。無期懲役とした2人については、更生する可能性に触れていた。
法廷の元少年らが反省を深めているのは、川原さんも感じていたという。一方で思う。「人間は腐ったリンゴじゃない。少年だろうと成人だろうと、立ち直る可能性なら誰にでもある」
わずか11日間で、落ち度のない若者4人の命を奪った。その行為や結果と比べたとき、反省や更生の可能性があるからといって、極刑を避けるのは考えられなかった、と語る。
素案をまとめてから約1ヶ月で20回以上、手直しした判決文。「犯行当時、少年だったことや、生い立ちなどをいかに考慮しても、死刑の選択はやむを得ない」と締めくくった。
38年間の裁判官人生に定年で幕を閉じたのは、言い渡しの翌月だった。それから5年余り後の11年3月、最高裁は元少年らの上告を棄却し、川原さんが3人に下した死刑判決が確定した。
川原さんは、法廷を離れた今も消えないもどかしさがある。「こんな悲惨な事件は、避けられたはず・・・」。少年犯罪を食い止める社会の力が、弱まった気がしてならないという。
=終わり
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し。なお、本シリーズ【少年と罪】の「1」~「5」は、省略(来栖)
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◇ 木曽川長良川リンチ殺人事件
◇ 凶悪犯罪とは何か1~4 【1】3元少年に死刑判決が出た木曽川・長良川事件高裁判決『2006 年報・死刑廃止』
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