ボルトン解任はトランプにしては賢明だった 2019/9/11

2019-09-11 | 国際

ボルトン解任はトランプにしては賢明だった
 Trump makes a smart decision, for once
 2019年9月11日(水)18時51分
 フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

<トランプは軍事パレードや好戦的なツイートが好きな割に戦争は望んでいない。おかげで史上最悪の国家安全保障担当補佐官をクビにすることができた。ボルトンはもう戻ってこないだろう>
 やった!ジョン・ボルトンは去った!  ドナルド・トランプ大統領もたまには賢明な決定を下すものだ。9月10日、彼はジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任したことをツイートで発表した。「ボルトンの提案の多くに私は反対だった。政権の他のメンバーも反対だった」――トランプのツイートのなかで有数の傑作だ。
 それでも、多くの疑問が残る。そもそもトランプはなぜボルトンを起用したのか。ボルトンの意見ははっきりわかっていたはずだ。コメンテーターとしてFOXニュースに出演していたときボルトンは、北朝鮮に対する先制攻撃を求め、イランの宗教指導者を追い出し、アメリカが署名したすべての国際条約を廃止しろと唱えていた。トランプはそれをすべて知っていた。だから18カ月前にボルトンが国家安全保障担当補佐官に指名されたとき、私はコラムのリードで「今こそ非常ボタンを押す時だ」と書いたのだ。
 ボルトンは、イラン核合意からの離脱とロシアとのINF条約の廃止をトランプに促すという点で、重大な(負の)役割を果たした。しかしトランプは、派手な軍事パレードや巨額の国防予算や好戦的なツイートをこよなく愛する割に、戦争そのものはそれほど望んでいない(だからといって戦争に巻き込まれない方法を知っているわけでもないが)。
 だから、国務次官や国連大使を務めていたころでさえ、常に自分の意見を声高に披露していたボルトンが、国家安全保障担当という要職にふさわしい人物でないことは明らかだった。

■モンゴル派遣は左遷の象徴
   となると、その仕事には誰が適任だろうか?トランプは世界で何を、どのようにやりたいのか?トランプにはそれがわからない――こうした疑問を深く考えたことがないことは明らかだ。トランプが自分は何をやりたいのか認識するのは、自分が任命した人物にうんざりしたときだ。それが、短期間に多くの閣僚を任命しては解任してきた理由のひとつだ。
 ボルトンは7月上旬にモンゴルに派遣されたが、そのころから解任は時間の問題とみられていた。同じ時期、トランプは長女イバンカを含むチームを率いてG20サミット出席のために日本に飛び、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線沿いの非武装地帯(DMZ)で金正恩朝鮮労働党委員長と板門店で米朝首脳会談を行っていたのだから。
 旧ソ連のニキータ・フルシチョフ首相は1957年以来、ロシア政府からスターリン主義者の残党を排除する作戦の一環として、スターリンの片腕だったビャチェスラフ・モロトフを駐モンゴル大使に左遷した。政敵や扱いにくい部下をモンゴルに送ることは、政治生命を奪うことを意味していた。
 ボルトン解任の兆候が誰の目にも明らかに他のなったのは8月末、タリバンとの和平交渉についてホワイトハウスで協議したときのことだ。
 ボルトンは、タリバンとの交渉にあたっているアフガニスタン和平担当特別代表ザルメイ・ハリルザドに、タリバンとの和平合意草案のコピーを渡すよう求めたが、ハリルザドはこれを拒否。和平そのものに反対していたボルトンに、コピーを渡すことはできないと言った。  トランプは10日朝のツイートで、「昨夜ジョン・ボルトンに、もうホワイトハウスには必要ないと伝えた」と発表した。その12分後、ボルトンは解任を否定するツイートをした。「昨夜、私は辞任を申し出た。トランプ大統領は『そのことは明日話をしよう』と言った」

■ボルトンは辞任したのか? それとも解任されたのか?
 テレビのリアリティ番組「アプレンティス」で作り上げたイメージとは裏腹に、トランプは人を解雇するときに生じる軋轢を嫌っている。だが実際に人が辞めるという場面になると、トランプは先に手を出そうとするので、彼が主導権を握っているようにみえるのだ。
 好例がある。昨年12月20日、当時国防長官だったジェームズ・マティスは抗議の辞任を表明する書簡をトランプに送った。そのなかで、次のNATO会議後の2月末で辞任する意思をトランプに伝えた。トランプはすぐに返事を書き、10日のうちに荷物を片付けるよう命じた。

■安全保障問題担当は4人目
   今回の解任劇がどうなるにせよ、ボルトンは今後、トランプにとってありがたくない暴露本を書きかねない存在だ。トランプの取り巻きグループにはいたものの、ボルトンは不満たっぷりで、側近としての忠誠心もない。
 トランプはツイートで、来週にはボルトンの後任を指名すると発表(このポストの任命は上院の承認を必要としない)。トランプ政権の国家安全保障問題担当補佐官はこれで(代行も含め)4人目になる。
 1人目のマイケル・フリン中将は、ロシア疑惑についてマイク・ペンス副大統領にうそをつき、FBIの捜査に対しても嘘の供述をしたため、就任から数日で解任された(そして今は実刑判決が下るかもしれない)。2人目のハーバート・マクマスター中将が解任された主な理由は、トランプにうっとうしいと嫌われたからだ。
 ボルトンは最低の国家安全保障担当補佐官だった。いかなる尺度をもってしても、おそらく史上最悪だろう。彼のように自分のイデオロギーしか頭にない安全保障担当は2人といまい。トランプがボルトンと意見が合わなかったのも責められない。ボルトンは、国家安全保障会議(NSC)をないがしろにして骨抜きにした。NSCは、米政府内にあって省庁の垣根を超えて外交課題について議論し、大統領に助言を行うべき組織。しかしボルトンは誰の意見も聞かずに自分だけの考えを大統領に具申した。NSCはほとんど開かれず、一部の幹部だけが自分の意見を通した。
 専門家のアドバイスや政権内のコンセンサスを嫌うトランプは当初、ボルトンらの独断専行を許したばかりか奨励しさえした。ボルトンも、トランプの右腕でいられるうちは満足だった。だが、それも長くは続かなかった。そしてモンゴルに送られた。ボルトンは、古巣のネオコン・シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)に戻るのかもしれないが、二度と出てくることはできないだろう。
 (翻訳:栗原紀子)

    ◎上記事は[NewsweekJapan]からの転載・引用です


 ボルトン米補佐官解任 トランプ氏、強硬主張に不満 
   中日新聞 2019年9月11日 夕刊
 【ワシントン=金杉貴雄】トランプ米大統領は十日、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を解任したとツイッターで発表した。ボルトン氏が対外政策で強硬路線を主張し続けていたことに不満があったという。最強硬派のボルトン氏が去ることで、対北朝鮮やイランなどの安全保障政策が変化するか注目される。
 トランプ氏はツイッターで、「私は彼の提案の多くに反対し、政権の他の人も同じだった」と説明し、ボルトン氏が孤立していたと強調。来週後任を任命するとしており、クッパーマン副補佐官が当面代行を務める。
 米メディアによると、後任としてビーガン北朝鮮担当特別代表やマグレガー元米陸軍大佐らの名前が挙がっている。後任が任命されれば、国家安全保障問題担当の大統領補佐官はトランプ政権発足後二年半余りで四人目となり、短期間で交代を繰り返す異例の事態となっている。
 ボルトン氏は前任のマクマスター氏の更迭で昨年四月に就任。北朝鮮やイラン、ベネズエラなどに対する強硬路線をけん引し、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンとの和平協議にも批判的だった。最近では北朝鮮やイランなどとの対話に意欲をみせるトランプ氏が、意見の相違にいら立ちを募らせていたという。
 今月下旬には米ニューヨークで国連総会が開かれ、トランプ氏をはじめ各国首脳や代表が出席するため、米国と北朝鮮やイランとの交渉が進むか関心が高まる。ポンペオ国務長官は十日の記者会見で、ボルトン氏との対立について「何度も意見の不一致があった」と認める一方、ボルトン氏が解任されても「外交政策が変わると考えるべきではない」とも強調した。
 ボルトン氏は、ブッシュ(子)政権で国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)や国連大使を歴任。二〇〇三年のイラク戦争開戦を主導するなど、米国と対立する国には武力行使も辞さない姿勢を示してきた。

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です


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