ユダヤ人の子どもを人体実験 ドイツの収容所
2022年10月4日 中日新聞夕刊
「考え続けることの大切さを伝えたい」と話す東志津さん
第二次世界大戦末期、ドイツ第二の都市ハンブルク郊外の強制収容所で、人体実験の末に殺された二十人のユダヤ人の子どもたちがいた−。この史実と向き合い続ける人たちを描いたドキュメンタリー映画「北のともしび」が八日から、名古屋市中村区のシネマスコーレで劇場公開される。監督の東志津さん(47)=東京都台東区=は「これからを生きる子どもや若者たちに見てもらいたい」と願う。
ノイエンガンメ強制収容所は一九三八年、ナチス支配下のドイツに設置された。ここに四四年十一月、アウシュビッツ収容所からユダヤ人の子ども二十人が移送された。結核菌の人体実験に集められた五〜十二歳の男の子十人と女の子十人。衰弱した子どもたちは、ドイツ敗戦が迫る四五年四月、証拠隠滅のために殺された。
人知れず命を奪われた彼らの存在は七〇年代末ごろまで広く知られることはなかった。東さんがこの史実を知ったのは二〇一〇年、在外研修員としてパリに滞在していた時。「本で読み、いてもたってもいられなくなって」ハンブルクへ。
「パリでは人種や文化、宗教などの違いによる不平等を目の当たりにし、私自身もアジア人として身の置き所のないような感覚だった。迫害されたユダヤ人の子どもと自分は一緒かもしれないと、その命の顛末を放っておけないと思った」
ノイエンガンメ収容所は現在、記念館として追悼と学びの場に変わった。東さんは「悲劇は本当だった」とショックを受ける一方、不思議な感覚を持った。
熱心に展示を見学する来館者、丁寧に維持され追悼の意が感じられる施設、美しい自然に囲まれた穏やかな気配。「70年以上前に死んでいった子どもたちが大切にされ、今を生きる人たちと出会う奇跡のような場だと感じた」。悲劇的な史実から希望を見いだす映画が作れるのではないか。そう考え、14年から19年までの間、数回にわたり現地取材と撮影を重ねた。
映画では、命日である4月20日に、地域の若者が犠牲者一人一人の名前を読み上げる追悼式や、欧州各国の若者が議論し考えるプログラムなど、今を生きる若者がこの史実と真摯に向き合う様子が描き出される。「子どもたちの死が、記念館に集う人たちにさまざまなことを考えさせることに、希望を感じられた」
東さんは、中国残留婦人を描いた「花の夢」(07年)、日本だけでなく朝鮮半島やオランダの被爆者たちの晩年を描き出した「美しいひと」(14年)と、前2作でも自らカメラを回し、歴史に埋もれた個人の戦争の記憶を伝えてきた。「異質なものへの恐れやあざけりといった気持ちが戦争を引き起こす。違いをどう乗り越えていくかがますます大切になる。自分の中の「人間性」を手放さずにいたい、という思いが伝われば」
上映は10月21日まで。自主上映も募っている。問い合わせはS・Aプロダクション=070(8373)7456=へ。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用、書き写し(=来栖)
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* ユダヤ人はなぜ、ナチス・ドイツの標的にされたのか アウシュビッツで身代わりとなったコルベ神父 「PHP online 衆知」