米国:死刑執行失敗、各地に波紋

2009-10-27 | 死刑/重刑(国際)
米国:死刑執行失敗、各地に波紋 オハイオ州で薬物注射、2時間で18回
 【ニューヨーク小倉孝保】米中西部オハイオ州で先月、薬物注射による死刑執行が失敗し、死刑囚が生きながらえるという事態が起きた。連邦高裁の勧告などを受け、州当局は近く予定されていた他の3件の死刑執行をあわせて当面延期することを決めた。抜本的対策を講じるまでオハイオ州での執行再開は難しく、今後、他州の執行にも影響が出る可能性が指摘されている。
 問題となったのは、14歳の少女をレイプし殺害したとして84年に死刑判決を受けたロメル・ブルーム死刑囚(53)に対する執行。先月15日午後1時過ぎ、薬物を注射しようとしたところ静脈に入らず、その後も2時間にわたって計18回も注射針が刺されたが失敗。結局、州最高裁の判断で執行が停止された。
 11月30日に執行に関する弁論が開かれるが、弁護側は同死刑囚の精神的負担は大きいとして、もう執行を行わないよう申し立てた。ティモシー・スウィーニー弁護士は「人間の尊厳を踏みにじり、人権に反したオハイオ州の死刑は破綻(はたん)している」と語っている。
 この失敗により連邦高裁は今月5日、8日に予定されていたローレンス・レイノルズ死刑囚(43)の執行を延期するようオハイオ州知事に勧告。連邦高裁は、同州の刑務所に関し、州薬物注射規則の順守に疑問があり、注射実行者の適性にも問題があるため、と説明した。
 これを受けオハイオ州のストリックランド知事は5日、レイノルズ死刑囚と11月10日に予定されていたダリル・ドゥール死刑囚(46)の2件の執行についてそれぞれ、「来年3月9日」、「来年4月20日」まで実施しないと発表。その後、連邦裁判所が12月8日に予定されていたケネス・ビロス死刑囚(51)の執行も延期するよう命じた。州知事は「州矯正局が調査を進める。適切な執行手続きを取れると信じている」とし、執行再開までに手続き規則を刷新する考えを示した。
 ◇残酷で異常な処罰、憲法で禁止
 米国の死刑は、「残酷で異常な処罰」を禁じた憲法に反しないよう、銃殺、絞首刑などから薬物注射に移行してきた。現在は、死刑を規定している全35州が薬物注射を採用している(一部は電気椅子との選択可能)。
 しかし一昨年、ケンタッキー州の死刑囚2人が、薬物注射は痛みを伴う可能性があり憲法違反だと執行停止を求めて提訴。連邦最高裁が審理開始を発表したため各州が死刑執行を一時停止した。結局、最高裁が合憲と判断したため執行が再開された経緯がある。
 死刑を監視する非政府組織「死刑情報センター」(本部・ワシントン)のリチャード・ディーター所長は「ブルーム死刑囚の執行失敗は残虐な刑を禁じた憲法に反し、再度の執行はできないはず」と分析。「オハイオ州は新たな措置をとる必要がある。他州もほぼ同じ方法で執行しているため、問題はオハイオ州だけにとどまらない」と語り、他州へ波紋が広がることを予測している。
毎日新聞 2009年10月26日 東京朝刊

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。