【法廷から】1審死刑、2審無期懲役の千葉大生殺害事件 「どちらの命が重いのか」 極刑望む遺族、舞台は最高裁へ
産経ニュース2013.10.26 07:00
裁判員の下した死刑という結論は、なぜ覆されたのか-。千葉県松戸市で平成21年、千葉大4年の荻野友花里さん=当時(21)=を殺害したなどとして強盗殺人罪などに問われた無職、竪山辰美被告(52)への死刑判決が控訴審で破棄された。検察側と弁護側双方が、判決を不服として上告。裁判員の死刑判断の適否を問う舞台は、最高裁に移された。「娘より犯人の命の方が重いのか」。荻野さんの両親は、極刑を求めて上告審の行方を見守る。
*命日に上告
「今日は4年前、友花里が竪山に殺されて燃やされた日です。昨日、高検から上告という知らせを受けて、友花里の日に上告していただいて、大変うれしく思っております。今回の裁判については全然、納得がいきませんでした」
上告を受けて22日に会見した荻野さんの父、卓(たかし)さん(64)は、報道陣を前に、苦しい胸の内を語った。東京高検が上告した21日は荻野さんが亡くなったとされる日。弁護側が上告した22日は、竪山被告が現場に戻って室内に放火した日だ。
今月8日、東京高裁が言い渡した判決は、卓さんと妻、美奈子さん(61)にとっては信じられないものだった。
「主文、原判決を破棄する。被告人を無期懲役に処する」
高裁の村瀬均裁判長が読み上げた主文の意味するところは「被告に科すべき刑は、死刑ではなく無期懲役」。1審千葉地裁の裁判員裁判が出した判決を覆すというものだった。
「私も主人も、頭が真っ白になりました」と美奈子さん。卓さんも「え?! あんだけ何日もかかって死刑(判決)をもらったのに、と思った」と振り返る。
1、2審判決によると、竪山被告は21年10月20日夜ごろから21日未明にかけて、松戸市のマンションの荻野さん宅に侵入。包丁で脅して現金などを奪った上、胸を刺して殺害。翌22日には、証拠隠滅のため現場に戻り、室内に放火するなどした。
竪山被告は、強盗致傷などの罪で懲役7年の判決を受けて服役。21年9月1日に満期出所し、わずか約1カ月半後の犯行だった。
*「裁判で無念晴らして」
裁判員裁判によって行われた1審では、荻野さんが殺害された、いわゆる「松戸事件」の前後に、竪山被告が強盗致傷や強盗強姦を繰り返していたことなどを重視。「松戸事件」以外の犯行でも刃物を使用しており、場合によっては他の事件でも被害者の生命身体に重篤な危害が及ぶ危険性があった、として「死刑をもって臨むのが相当」と結論づけた。
これに対して、2審が死刑回避の理由として挙げたのが「先例」だ。
「殺害された被害者が1人で、殺害行為に計画性がない場合には死刑は選択されないという先例の傾向がある」と指摘。先例とは異なる結論を採るにあたって「合理的かつ説得力のある理由を示したものとは言い難い」と判断した。
「死刑以上の判決をずっと訴えてきたので、死刑は当たり前だと思っていた」という卓さん。無期懲役と結論づけた2審判決に、憤りをぶつけた。
「友花里の無念さを晴らすために頑張ってきたつもりです。選ばれた裁判員さんが、何日もかかって決めたことを無視するかのように、覆すというのは、どうしても納得がいかない」
21年10月23日、千葉県警松戸署からの連絡で、平穏な生活は大きく変わった。兵庫県の実家を離れて千葉県で暮らす友花里さんの死を伝える内容だった。あれから4年。ようやく得た死刑判決も、高裁でのわずか1度の審理で覆されてしまった。
「被害者の命と犯人の命、どちらが重たいんでしょうか」と訴える美奈子さんもまた「死刑以上の重い罪があれば、そのような罪にしてほしい」と求める。
美奈子さんは、「友花里は『お母さん、私の命、こんなもんとは違うでしょ。お父さんとお母さん、頑張ってよ』って言っていると思います」と話す。
卓さんと美奈子さんは、最高裁でも審理に立ち会えるよう、被害者参加を求めている。
「私らの無念を晴らしてくれるのは、裁判だと思っています」と卓さん。美奈子さんも「最高裁で、死刑の判決がきっちりと出されることを願っています」と話した。
◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 裁判員裁判の「死刑判決」破棄/遺族は「納得できない」と怒るが、高裁 村瀬均裁判長の無期判決は「相当」だ 2013-10-24 | 被害者参加/裁判員裁判/強制起訴
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 裁判員裁判の死刑破棄2件 / 裁判員法=「国民の常識を裁判に反映させる」とは書いていない 2013-10-22 | 被害者参加/裁判員裁判/強制起訴
裁判員裁判の死刑破棄2件、遺族ら失望 「民意の法廷 なぜ否定」
産経ニュース2013.10.22 13:48
東京高裁で今年6月と10月、裁判員裁判が言い渡した1審の死刑判決を破棄し、無期懲役に減刑する判決が言い渡された。2つの判決を下したのは同じ裁判長で、過去の判例を重視するなどして減刑の判断を下した。「民意を取り入れて変わったはずの司法が、市民も加わった判断をなぜ否定するのか」-。遺族らの失望は深い。
「なぜ刑を軽くするのか…」。平成21年、千葉県松戸市で竪山辰美被告(52)によって殺害された荻野友花里さん=当時(21)、千葉大4年=の父、卓(たかし)さん(64)と母、美奈子さん(60)は、兵庫県稲美町の自宅で苦悶(くもん)の表情を浮かべた。
竪山被告は友花里さん宅に侵入し、現金やキャッシュカードを奪った後に殺害、翌日に放火した。
千葉地裁での裁判員裁判には卓さんや美奈子さんも被害者参加。殺害された被害者が1人の場合、過去には死刑にならないケースも少なくないが、判決は「犯行は冷酷で更生可能性は乏しい」として、検察の求刑通り死刑を言い渡した。
一方、高裁の審理はわずか1回。村瀬均裁判長は今月8日、死刑破棄の判決を言い渡した。死刑回避の条件となる「被告が更生する可能性」には触れず、殺害された被害者が1人という点を重視した。美奈子さんは「被害者や遺族に、とても『冷たい』裁判だと思いました」。
東京高検は、友花里さんの命日にあたる21日、判決を不服として最高裁に上告した。美奈子さんは「市民が加わった裁判員裁判が出した死刑判決の重みを、最高裁は正しく判断してほしい」と話している。
「被告は父も含めて3人もの命を奪ったのに、意味がわからない」
21年11月、南青山のマンションで、金を奪おうとした伊能和夫被告(62)に殺害された五十嵐信次さん=当時(74)=の長男、邦宏さん(47)は悔しそうに話した。
伊能被告は昭和63年に妻を殺害し、自宅に放火し長女を焼死させたとして殺人罪などに問われ、懲役20年の判決を受けて服役。出所から半年後に、強盗目的で信次さんを殺害した。
1審東京地裁の裁判員裁判は「冷酷非情な犯行で前科を特に重視すべきだ」として死刑を言い渡した。しかし2審で村瀬裁判長は「前科を重視しすぎだ」として死刑を破棄し、無期懲役を言い渡した。伊能被告も最高裁に上告された。
犯罪被害者支援弁護士フォーラムの事務局長、高橋正人弁護士は「裁判員裁判が、先例と違う判断をするのは当然。高裁の裁判官が『先例と異なる』として1審判決を破棄するのは、裁判員裁判の制度を否定することになる」としている。
◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します *リンクは来栖
.............
〈来栖の独白2013/10/22 Tue. 〉
多くのリスク、問題を抱えながら拙速に発足した裁判員裁判。市民感覚を判決に反映させるものと考え違いをしている人が多い。とりわけ被害者遺族にあっては、そうだろう。が、裁判員制度のどこにも「市民感覚を反映」といった趣旨は謳われていない。遺族は何としても被告人に死刑判決をと求めるが、如何なものか。経験や資格、学識等が選任の根拠とされず(必ずしもそれらを有していなくとも)無作為に選ばれた者が死刑判決を下すのこそ、危うい限りだ。国は、裁判員裁判をどうしてもやってみたいなら、民事裁判から手がけてみればよかった。いきなり死刑事件というのは、まことに危険だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 【裁判員制度のウソ、ムリ、拙速】 大久保太郎(元東京高裁部統括判事) 『文藝春秋』2007年11月号 2008-02-14 | 被害者参加/裁判員裁判/強制起訴
.............