証拠の「選別」冤罪産む 1966年の旧清水市一家4人強盗殺人事件

2024-03-21 | 死刑/重刑/生命犯

袴田さん再審開始1年 証拠の「選別」冤罪産む

 2024年3月21日(木曜日) 中日新聞

 
第8回再審公判の当日、ドライブへ出発する袴田巌さん=2月14日、浜松市中央区で

第8回再審公判の当日、ドライブへ出発する袴田巌さん=2月14日、浜松市中央区で

 1966年の旧清水市一家4人強盗殺人事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審が、静岡地裁で続いている。再審の扉が開いて1年。弁護側は、検察側が死刑確定後に新たに開示した物証などを基に無罪主張を展開している。日本の検察は、有罪の立証に有利な証拠を選んで裁判所に提出しており、専門家はこの姿勢が冤罪(えんざい)を生む一因と説明する。(足立優人) 

◆写真

 「このカラー写真だけで、(発見された)衣類が、犯行時の着衣でないことがはっきりしている」。昨年12月にあった再審の第4回公判後、弁護団の小川秀世事務局長は力を込めた。
 「カラー写真」に写っているのは、ブリーフやステテコなど5点の衣類。事件から1年2か月後、袴田さんの勤務先のみそタンクで見つかった。大量の血痕があったことなどから、確定判決は犯行時の着衣で、袴田さんがタンクに隠したと認定した。ただ、長期間みそ漬けの状態だったはずなのに、衣類の生地は白いまま。血痕の赤みそは鮮やかだった。このため弁護側は、捏造証拠と主張する。

 無罪主張の根拠は他にもある。袴田さんの取り調べ時の録音テープだ。警察、検察が執拗に自白を迫る様子がわかり、小川弁護士は「(袴田さんが)犯人に仕立て上げられたことを示す証拠」と強調する。

 写真と録音テープは、死刑確定から約30年たった2010年9月以降に、検察側が開示した証拠約600点の一部だ。第2次再審請求で裁判所の勧告などに応じて提出した。

◆最良

 裁判所は、捜査機関が集めた証拠すべてを審理しているわけではない。検察は有罪の立証に役立つ証拠を裁判所に出している。無罪の可能性をうかがわせる証拠があっても、提出義務はない。

 九州大学院の田淵浩二教授(刑事訴訟法)によると、検察の姿勢は「最良証拠主義」と呼ばれる。ただ、英国発祥のこの考え方の本来の意味は「真実にたどり着くためのより良い証拠を選ぶ」で、田淵教授は「日本の検察官にとっての『最良』とは有罪立証に必要な証拠のこと。都合の悪いものは隠せる」と指摘する。

 実際、元検察官の市川寛弁護士は「警察が作成した調書で容疑者に有利な内容が含まれる場合、証拠には使わなかった」と明かす。警察が検察に証拠を隠すケースもあったという。

◆共有

 布川事件(1967年)や東京電力女性社員殺害事件(97年)など、確定判決後に開示された証拠をきっかけに再審が始まり、被告が無罪となったケースは複数ある。日本弁護士連合会は、検察がすべての証拠を開示する制度を設けるよう国に要請。2004年と16年の刑事訴訟法改正により、弁護側が求めた場合、検察側には証拠リストの提出を義務付け、一定の証拠を弁護側が請求できるようになった。ただ、適用は一部の裁判に限られ、再審は対象外になっている。

 田淵教授によると、米国の一部では、被告側が検察側のすべての証拠を閲覧できる制度があり、「公務で集めた証拠は共有するべきだ。それが本来の最良証拠主義につながる」と指摘。一方、市川弁護士は「弁護側が求めた証拠の開示に対し、検察側が答えることを義務化する仕組みが必要だ」と提案した。

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)


* オウム死刑囚 刑執行 「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」 命よりも大切なものがある 〈来栖の独白〉 


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