老朽原発 募る不信 稼働40年 美浜2号機延命 焦点/ もろさの指標となる「脆性遷移温度」

2011-08-18 | 政治

老朽原発 募る不信 稼働40年 美浜2号機延命 焦点
核心中日新聞2011年8月18日 3面
 原発の新規建設が難しくなり、古い原発を延長運転させる動きが相次いでいる。関西電力は七月、美浜原発2号機(福井県美浜町)を四十年以上運転できるよう国に申請。東京電力福島第一原発の事故で原発の安全性への不安が高まる中、認められるかどうかが焦点になっている。延命か廃炉か。老朽炉の未来は、今が分岐点だ。(原発問題取材班・佐藤航、榊原智康)
▼新設難航
 「後継機はいつになるか分からない。安全確認できたプラントは有効利用すべきだ」
 美浜2号機は来年7月で運転開始40年を迎える。先月下旬、継続運転について説明するため福井県庁を訪れた関電の豊松秀己副社長は、延長運転に意欲を示した。
 関電は危機の劣化などを調べ、保守管理を徹底すれば安全だと結論。日本原子力発電敦賀原発、美浜原発の各1号機に続いて40年超の認可を経産省原子力安全・保安院に申請した。

 国内の商業炉54基のうち19基が運転開始から30年以上たつ。原発の寿命は40年程度とされてきた。だが、今回の事故で新規立地・建設はますます難しくなり、古い原発に頼らざるを得ないのが現状だ。
▼「運転可能」
 老朽化した炉は大丈夫なのか。国は「工学的に無理のない範囲」として60年まで運転は可能との見解だ。かつては米国の旧基準にならって40年を想定していたが、1996年に方針転換した。
 「30年以降は、10年ごとに老朽化を評価させて安全を確認している。米国も95年には20年の延長を認めている」。保安院の担当者は妥当性を強調する。
 だが、今回の事故の影響もあり、老朽炉への不信感は根強い。福井県は、国が老朽化対策を見直さない限り、美浜2号機の継続を認めない方針。満田誉副知事は「福島第1では最も古い1号機の炉心損傷が早かった」と指摘、「老朽化の影響を検証すべきだ」と主張する。
 電力会社は、炉内に入れた鋼鉄の試験片を定期的に取り出し、もろさの指標となる「脆性遷移温度」を推測している。この温度が高いほど炉が劣化していることを示し、緊急時に炉内を急激に冷やせば、温度変化に炉が耐えられない可能性がある。
 社団法人日本電気協会は、新設炉の脆性遷移温度の基準を93度未満と定めており、九州電力玄海原発1号機は98度と高い。
 福島第一4号機の圧力容器を設計した元技術者の田中三彦氏は一般論として「事故で緊急炉心冷却装置が働けば、今も急激な温度の変化に耐えられるか疑問だ」と警告する。
▼耐性評価
 国は不信感をぬぐうため、欧州のストレステスト(耐性評価)を参考に安全評価を導入。シミュレーション試験で想定を上回る地震や津波などに対する安全性の「余裕度」を調べる。海江田万里経産相は記者会見で「高経年(老朽)化の問題がデータに表れれば、廃炉の方向のステップになる」と述べた。
 安全性は、原発の現在の状態で評価するのがルール。配管の厚みや圧力容器の脆性遷移温度も評価の基礎データになるという。ただ、保安院は「古い配管などは交換しているし、緊急炉心冷却装置が作動して割れるような容器はそもそも安全基準を満たしていない」と説明している。
 古い原発を動かし続けるか、止めるか。30年超の19機の出力は1400万キロワットあり、国内全54基の3割近くを占める。来年7月までに出される美浜2号機延長の判断は、菅直人首相が打ち出した「脱原発依存」の試金石ともなる。
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玄海1号、敦賀1号、美浜1~3号、福島第一1~6号など老朽原発、緊急冷却で原子炉割れ大爆発!?2011-07-10 | 地震/原発

 老朽原発に警鐘「玄海1号 最も危険」
中日新聞 特報 2011/07/09Sat.
緊急冷却で原子炉割れる!?
 原発の原子炉がガラスのコップのように割れてしまったら-。日本の原発ではその危険性が高まっていると警告する科学者がいる。もし、そうなれば、核反応制御不能となって大爆発を起こし、大量の放射性物質が広範囲に拡散する。福島第一原発事故の比ではない大惨事となりかねない。危険度トップは玄海原発1号機だ。(小国智宏)
「日本で1番危険な原子炉は、九州電力玄海原発1号機(佐賀県玄海町)です」。こう断言するのは、井野博満・東大名誉教授(73)=金属材料学=だ。
 玄海原発2号機、3号機は現在、定期検査のため運転停止中。菅直人首相がストレステスト(耐性評価)の実施を突然打ち出し、九州電力の「やらせメール」が発覚したため、地元の岸本秀雄町長は再稼働を了承する方針を撤回した。しかし井野氏は、むしろ運転中の1号機について大きな問題があるというのだ。
 原発は地震や事故など異常が起こると運転が停止し、緊急炉心冷却装置(ECCS)が働いて、原子炉を急速に冷やす仕組みになっている。福島第1では、電源を喪失してこのECCSがうまく作動せず、事故に至った。ところが玄海1号機ではECCSが働いた場合、逆に大きな事故が起きる可能性があるという。
 玄海1号機の運転開始は36年前の1975年で、九州電力の原発の中では最も古い。井野氏は言う。「1号機の原子炉圧力容器の鋼(母材)の壁は老朽化でもろくなっている。急速に冷やした場合、破損する恐れがあるのです」
 井野氏が例えるのは、ガラスのコップだ。熱いガラスのコップに冷たい水を急に入れると、内側と外側の急激な温度変化に耐えられずバリンと割れてしまうことがある。同じような現象が圧力容器にも起こりうるという。
 圧力容器の内壁は、核分裂で発生する中性子線にさらされている。鋼は、中性子線を浴びるほどもろくなる。通常、鋼はある程度の力を加えても変形するだけで割れることはない。しかし、ある温度を下回ると、陶器のように割れてしまう。この温度を脆性遷移温度という。もろくなればなるほどこの温度は上がる。
 井野氏によると、北大西洋を航行中に沈没したタイタニック号は、質の悪い鋼材が使われていて脆性遷移温度は27度だったという。そして氷山に衝突した衝撃で船体は割れてしまった。
 電力会社は、原発の耐用年数を推測するため、この脆性遷移温度を調べている。圧力容器の内壁のさらに内側の位置に圧力容器と同じ材質の試験片を4~6組ほど設置。数年から十数年ごとに取り出して検査する。内壁より炉心に近い位置に設置してあるため、中性子の照射量が大きくなり、劣化が早く進む。紙片を調べ、将来のもろくなった状態を予測するのだ。

予想超す劣化 九電「問題なし」
 玄海1号機の圧力容器の脆性遷移温度はどうなのか。75年の運転開始時はマイナス16度だったのが、76年に35度、80年に37度、93年に56度と徐々に上昇してきた。「ここまでは、ほぼ予想通りでした。衝撃的だったのは昨年10月に九州電力が公表した2009年4月時点の温度です」。何と98度に跳ね上がっていたのだ。
 玄海1号機のような加圧水型軽水炉では、圧力容器内を150気圧、300度以上の高温高圧で運転している。容器に亀裂が入れば、爆発的な破壊に発展し、大量の放射性物質を放出することになる。
 井野氏らは、昨年12月、経済産業省原子力安全・保安院に説明を求めたところ、「驚いたことに、保安院はその時点で何の情報も持っていなかった。九州電力は『報告する義務はない』として知らせていなかったのです」。
 なぜ玄海1号機の数値は急激に上がったのか。井野氏は「鋼の中の銅の含有率が高かった可能性がある」とみる。「原因を調べるために、試験片を大学などに提供し、ミクロ組織の検査を行うべきです。少なくともその結果が分かるまで原子炉は止めるべきです」
 九電が03年に提出した報告書の予測曲線によると玄海1号機の脆性遷移温度は65度程度、誤差を入れても75度前後のはずだった。98度は、修正した予測曲線から大きく外れている。
 九電広報部は「試験片の98度というのは、66年運転した場合の想定温度。容器本体は80度と推定している。60年運転想定では91度。日本電気協会の定めた新設炉の業界基準93度を下回っている」と説明。「安全上問題はない」と説明する。
 しかし、井野氏は「予測曲線からあまりにもはずれている。根本的に見直し安全検査を徹底すべきだ」と訴える。
 玄海1号機と同じ問題を抱える老朽原発は、ほかにもある可能性が高い。井野氏はこの点を強く危惧している。
 「日本の原発は米国に10年以上遅れ営業運転を始めた。1960年代に運転を開始した米国やドイツの原発は、今ではすべて閉鎖されている。このために日本の原発は老朽化の先頭を走っています」
 原発は当初、30~40年の寿命を想定して設計。70年に営業運転を始めた敦賀原発1号機は、2010年には閉鎖になるはずが、そうはなっていない。住民の反対運動などで新規建設が困難になったことや、既存の原発を延命した方が安上がりということなどから、国は寿命を延長する方針を決めたのだ。
 30年を超えた原発について、電力会社は国に老朽化対策の報告書を提出し、高経年化対策検討委員会で審議して認められると、10年ごとに最長60年までの延長が可能になる。
 玄海1号、敦賀1号、美浜1~3号、福島第一1~6号など20基近くの原発が30年以上運転されている。敦賀1号、美浜1号、福島第一1号機は40年を超えての運転が既に認められている。今後は50年、60年を目指す原発が出てくるかもしれない。
 井野氏は「老朽化すれば、故障やトラブルが増え、メンテナンスが大変になるのが普通。無理な運転をすれば傷みもひどくなる」と指摘する。
 玄海1号の98度はワーストで、50度以上の原発は7基。ただ、試験片を10年以上検査していない原発もある。「検査をすれば、玄海1号機と同じように脆性遷移温度が跳ね上がる圧力容器はほかにもある可能性は否定できない」
 井野氏はあらためて警告する。「全国の老朽化した原発を早急に総点検し、予測以上の脆化を示した原子炉はすぐに廃炉にすべきだ」


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