老いるこの国 見つめる 2024.02.04

2024-02-04 | 文化 思索 社会

 老いるこの国 見つめる 

 2024.02.04 Sun.  中日新聞
  社会部長 青柳知敏

 新しい年が始まった1月1日の朝刊に、「老い」を寿ぐためにーという見出しの記事を掲載しました。今年1年、誰にでも訪れる老いとは何かを掘り下げ、人生100年時代の黄昏時と向かい合う連載「誰(た)そ彼(かれ)のとき」を近く始めるとお伝えしました。

 その朝刊をお届けした日の夕方、石川県能登地方で大きな地震が発生し、たくさんの命が奪われました。発生から1カ月が過ぎた今も安否が分からない方がいます。寒さの中で不自由な避難生活を余儀なくされている方もいます。

 能登で取材を続ける記者の原稿と写真には、多くのお年寄りの姿が記録されています。悲しみを胸に抱いて生きる人と、励まし支える人たちが被災と戦っている今、人生の黄昏時をテーマにしたれんさいを読者に届けていいのだろうか。元日に「近く」とお伝えした掲載が遅れた理由は、私たちの迷いにありました。ただ、取材チームは自問しながら足を止めず、地震後に読んでいただく連載のテーマを深める議論を重ねました。

 能登半島地震は被害の大きさだけでなく、過疎、孤立集落、超高齢化などの実態も浮き彫りにしました。それは奥能登に限らず、多くの地域で潜在化している課題です。「老い」が人生の黄昏であるならば、戦後80年が近づく日本も日差しが陰り始めている。見えているようで見過ごされてきた令和の社会のきしみを、能登の地震は突きつけているのではないでしょうか。

 「誰そ彼のとき」は本日、第1部「ある夫婦」を開始します。人生における老いはもちろんですが、成長と発展が過去に遠ざかり、夕刻を迎えたこの国の黄昏にも、取材の筆を向けていきます。

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)


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