胃ろう(胃瘻)導入 日本老年医学会が指針試案 患者の「益」見極め 「撤退」も

2012-01-27 | Life 死と隣合わせ

胃瘻導入 日本老年医学会が指針試案 患者の「益」見極め「撤退」も
中日新聞2012/01/24Tue.国立長寿医療研究センター鳥羽研二病院長に聞く
 高齢者への胃ろうの是非が社会の関心を集める中、日本老年医学会の作業部会は、胃ろうなどの人工栄養の導入の判断について、医療・介護職向けの指針試案を作成した。本人の生き方、価値観をできる限り尊重して合意を得るという「意思決定の道筋」を示している。広く意見を集め、近く最終的な指針を発表する予定だ。同学会の理事で、まとめ役の1人、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の鳥羽研二病院長に思いを聞いた。〈編集委員・安藤明夫〉
ーー日本老年医学会が指針策定に乗り出した経緯は。
 私たちは2001年に、人の老化や死と向かい合う老人医療は、生命倫理を重視した全人医療であるべきだという「立場表明」をしました。当時は、胃ろうなどの人工栄養は、まだ盛んではなかったのですが、今や日本は米国をしのぐ「胃ろう大国」。設置している高齢者は40万人以上ともいわれます。社会の関心が高まり、臨床現場の迷い・悩み・も多い中、時代の変遷に応じて、踏み込める部分は踏み込もうと考えました。厚生労働省の委託事業として、実情を調査し、試案をまとめました。
ーー実情調査で、どんな問題が浮き彫りになりましたか。
 胃ろう以外の選択肢が示されず、医師に云われるまま承認せざるを得ない場合が多いです。十分に理解しないまま承諾し、後になって悔やんでいる家族がたくさんいます。その一方で、胃ろうで延命できたことを感謝している家族がいることも忘れてはいけません。
ーー試案では、患者本人、家族とのコミュニケーションの大切さや、「真に本人の益になる道を見極めること」を強調し、中途での「撤退」という選択肢も示していますね。
 本人の益を見極めるのは、難しい問題です。認知症の終末期だと、本人が事前に「延命治療はしないでくれ」と希望していても、症状の進行とともに「痛い、苦しい」と訴えるようになるし、家族は何かしてあげたくなります。ただ、胃ろうを設置して2年、3年後の平均像は、一般に寝たきりで、感情も失われ、寝返りさえ打てない状態になって生かされている。「胃ろうアパート」と呼ばれるビジネスも広がっています。そんな現状を考えると、ある時期に、家族との合意の上で「撤退」の判断をしてもいいと思うのです。
ーー胃ろうを取り外す行為に法的な問題はないのでしょうか?
 試案策定に携わった法律家は「胃ろうにするかしないかを最初に決めるのも、継続するかどうかを途中で決めるのも法律的にはまったく同じ」という見解でした。ただ、医療現場では撤退に対する不安が強いですから、法曹界も見解を出していただけるとありがたいです。
ーー導入の判断をする際、「何もしない」という選択肢に、医療者や家族のためらいは?
 「何もしない」と言っても、苦痛を取り除く水分補給など必要なケアはもちろん行います。終末期で、食べられない状態になったら、必要最小限の水などの補給にとどめ、死に至る最期の道筋は自然なものにしていくということです。
 ただ、どの時点で終末期なのか、専門医以外には判断が難しい場合もあります。また、胃ろうを設置した後、丁寧なリハビリを続けることによって再び食べられるようになる場合もあります。今後は継続的なケアについても光を当てていくべきです。
 試案は、いただいた意見を基に文言を整理し、老年社会学会、老年看護学会を含む日本老年学会の合同委員会の承認を得て、指針を発表します。
■本人や家族の思いを尊重
 日本老年医学会の作業部会は、老年医学、死世学、看護学などの研究者で構成。指針試案は、人工栄養の導入について▽医療・介護における意思決定プロセス▽いのちについてどう考えるか▽意思決定プロセスにおける留意点ーの3つについて考えを述べている。
 意思決定のプロセスは「患者本人・家族とのコミュニケーションを通して、共に納得できる合意形成を目指す」として、医療側の都合を優先しないように戒める。本人の判断能力が損なわれている場合も、できる限り気持ちを尊重し、家族の思いや事情を考慮するように定めている。
 「いのち」についての方は、個別の価値観の違いを踏まえた上で▽死に至る最期の段階は、医療の介入を最小限にする▽延命がQOL(生活の質)の向上につながらない場合は、本人ができるだけ楽に過ごせることを目指すーが基本姿勢。
 留意点としては「延命治療をしない」という選択肢を含めて、公平に比較検討すること、「本人の人生にとっての益」を継続的に評価し、撤退(中止ないし減量)を検討すること、などを挙げている。
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高齢者への胃瘻(ろう)/日本老年医学会「適切な意思決定過程を経れば法的にも責任は問われない」・・・2012-01-25 | 死と隣合わせ/life/臓器移植
 高齢者への胃ろう 問題点は.
 高齢者への胃ろうの使い方が論議を呼んでいますね。何が問題なんですか。
「苦痛では」疑問の声も
 胃ろうは、口から食べられなくなった患者に対し、おなかに開けた穴から胃に管をつなぎ、人工的に栄養や水分を流し込む方法。内視鏡を用いた手術で短時間で作れる。米国で1979年に開発され、日本では90年代から普及、着ける人が増えている。
 人工栄養補給には他に、鼻から通した管で胃に栄養剤を送る方法や点滴もあるが、鼻から管を入れるより患者の苦痛が少ない上、点滴に比べ、腸を活動させるので免疫機能の維持につながるといった利点があると言われる。
 一定期間の栄養補給に用い、回復したら再び口から食べるのが理想的な使い方だ。ところが、手術や管理が簡単なこともあり、日本では回復が見込めない高齢者にも用いられるようになった。急増した背景には、〈1〉肺炎などの治療後、食べられないままより、栄養が取れる方が退院させやすい〈2〉口から食べさせるより介護の手間がかからない――など、医療・介護施設などの事情も指摘される。
 口から食事を再開できなくても、一定期間、本人の意識が保たれ、ある程度満足できる生活が送れるなら、有意義とされる。だが、衰弱し意識のない高齢者が延命される例も目立ち始めた。このため、介護現場などから、「本人は苦痛なのでは」といった疑問の声が上がるようになった。
 終末期医療に関しては、厚生労働省が、医師の独断でなく、医療・ケアチームが患者や家族と話し合って判断すべき、との指針を作っている。だが、「延命手段を中止したら、罪に問われないか」などと心配する関係者も多い。
 これを踏まえ、日本老年医学会の作業部会は昨年末、新たな指針案を発表した。関係者が十分話し合った結果なら、胃ろうなどを着けるのを控えたり、中止したりできるとし、「適切な意思決定過程を経れば、法的にも責任は問われない」との考え方を示した。
 より長く生きるのか、生活の質を重視するのか。早い時期から、身近な人と話し合っておきたい。(高橋圭史)
(2012年1月24日 読売新聞)
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「胃ろう」延命治療 始められてもやめられないアンバランス2011-12-18 | 死と隣合わせ/life/臓器移植 
「胃ろう」延命治療 始められてもやめられないアンバランス
NEWポストセブン2011.12.18 16:00
 2006年3月、富山・射水市民病院で末期がん患者など7人の呼吸器を外し延命治療を中止していたことが報道された。2008年7月、元外科部長ら2人が殺人容疑で書類送検されたが、2009年12月、富山地裁は一連の医療行為をみて呼吸器を外した行為が死期を早めたとはいえないと判断、不起訴処分(嫌疑不十分)とした。この「延命治療」のひとつである「胃ろう」の是非について女医の宋美玄さんと医療ジャーナリストの熊田梨恵さんが語り合った。
 * * *
熊田:タブーになると、正面から議論できないから悩む人も出てくると思います。胃ろうなら、「本当によかったのかな」と思いながら誰にもいえなくて悶々としていたり、介護に疲れ果ててしまって介護殺人が起こったり…。生きることや死ぬことへの無関心が、こういう問題を引き起こしていると感じます。だから安易な胃ろうも増えているのではないかと。
宋:普段考えてないと、いざそういう事態になったときに慌てるというのはありますわ。でも、ほとんどのかたが大体そうやと思うんです。健康なときに病気になったときのこととか、死ぬときのことなんてあまり考えない。
 でも知識として知っておかないと、いざ追い込まれたときの対応に違いが出てくると思います。胃ろうも「いまの状態が本人にも家族にも幸せだとは思えないから注入をやめたい」と思っても、やめたら医師が罪に問われる可能性があるので、そうはいかない。追い込まれて初めて、そういう現実を知るかたが多いと思います。
熊田:治療は、始めることはできますけど、やめることができないんですよね。そこが日本は凄くアンバランスだと思います。胃ろうを始めることはスムーズにできても、やめようと思ったら殺人罪に問われるかもしれないなんて。
 始めた治療をやめられない結果、人として尊厳のある状態とは残念ながらいえない形で生きているかたもおられます。認知症末期で本人は意識もなく寝たきりなのに、胃ろうで生かされていたりとか…。いまの日本は尊厳ある状態での「生」をまっとうできなくて、その結果尊厳死ができない状態がある気がします。
※女性セブン2012年1月1日号
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終末期の人工栄養補給、中止可能に…学会指針案2011-12-05 | 死と隣合わせ/life/臓器移植 
 終末期の人工栄養補給、中止可能に…学会指針案
 2011年12月5日(月)01:29
 高齢者の終末期における胃ろうなどの人工的水分・栄養補給は、延命が期待できても、本人の生き方や価値観に沿わない場合は控えたり、中止したりできるとする医療・介護従事者向けの指針案が4日、東京大学(東京・文京区)で開かれた日本老年医学会のシンポジウムで発表された。
 近年、口で食べられない高齢者に胃に管で栄養を送る胃ろうが普及し、認知症末期の寝たきり患者でも何年も生きられる例が増えた反面、そのような延命が必ずしも本人のためになっていないとの声が介護現場を中心に増えている。
 そこで、同学会内の作業部会(代表・甲斐一郎東大教授)が試案を作成した。広く意見を募って修正し、来年夏までには同学会の指針としてまとめるという。(読売新聞)


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