【キブンの時代】(1)~(4)気分が社会を支配している。深く考えることなく、気分のままに行動する

2010-01-05 | 社会

【キブンの時代】第1部(1)考えはどこに 「面白いかどうかで決めるだけ」気分が選挙を制する!
産経新聞 2010/01/01
 千葉県市川市の会社員、松尾一也(32)=仮名=は昨年夏の民主党が圧勝した衆院選で、テレビやインターネットを欠かさずチェックしていた。
 政治への意識は高いと自負している。選挙は欠かさず投票するし、政治家についての話題にもついていける。
 しかし、選挙情報に目を通したのは政権公約(マニフェスト)のチェックより、仲間で盛り上がれる候補者の印象的なフレーズや裏話を探すためだ。「マニフェストへの共感は必要ない。仲間同士の気分が高まるような話題がベスト」(松尾)
 テレビは民主党の報道ばかりに見えた。世の中に「一度変えた方がいい」「このままよりはほかの政権に」という気分が充満していた。松尾もテレビやネットを見ながら「政権交代が実現したらどうなるのか」と想像すると、少し胸が躍った。
 昨年夏の衆院選の投票行動とテレビの視聴時間を検証した調査がある。「平日30分以内」では自民、民主への投票の差は小さかったが、「2時間以上3時間未満」は自民17%、民主38%。視聴時間が長いほど民主党に投票する傾向が強かった。自民党が圧勝した平成17年の郵政選挙では視聴時間が長いほど自民党に投票していた。
 「選挙を制するかどうかは、時代の気分を作り出せるかにかかっている。その気分はテレビが醸成する」
 調査を監修した明治学院大教授(政治心理学)の川上和久(52)はこう断言する。
 メディアが気分を作り、気分を感じ取った国民が投票に行く-。皮相的でもあるが、松尾は「投票はゲームと同じ。投票先は面白いかどうかで決めるだけ」と意に介さない。
 現在は一転、虚偽献金問題などで鳩山政権の支持率が急落している。
 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、発足直後の68・7%が3カ月後の昨年12月には51・0%にまで落ち込んだ。いいときはいいが悪いときは悪い。極端に振れる国民の気分は、今年夏の参院選ではどちらに振れるのか。誰にも分からない。
 「トマト鍋」。いやにミスマッチにも見える料理が、この冬のブームになっている。居酒屋メニューへの登場はもちろん、鍋スープも商品化された。鍋スープを昨年8月に市場投入したカゴメは、シーズン売り上げ目標2億円を、すでに昨年中に達成してしまった。
 トマトを使った煮込み料理は以前から存在し、味も想像できる。奇抜な名前が目を引くくらいだ。それでもヒットしたのは「目新しさとヘルシー感がある。消費者の気分をつかむ重要なフレーズだ」と、飲食店の販売促進戦略やメニュー作成などを手がけるフードコーディネーターの小倉朋子は分析する。
 最近では、さらなる気分醸成に「分かりやすい情報も欠かせない」という。
 トマト鍋を紹介するメニューやパッケージなどには「野菜が多くとれる」「生活習慣病予防にいい」「美肌効果がある」といったフレーズが書いてある。鍋を1回食べたところで肌がきれいになるわけでも、糖尿病が治るわけでもない。そんなことは消費者も承知の上で、ヘルシー気分を味わう。
 「環境・エコ」を売りにする商品も気分醸成型だ。さまざまな商品に「リサイクル原料」や「天然素材を使っています」といった文言が並ぶ。
 宣伝によって大量消費されれば、包装材はたくさん使うし、燃料を使っての輸送だって頻繁になる。かえって環境に負荷がかかる事態になるかもしれないが、「少しでもエコに貢献している気分になれるからいい」(東京都内の主婦)。その気になれることが大事なのだ。
 「バカ親」「親がカス」。インターネットの個人サイトや巨大掲示板「2ちゃんねる」上でこんな過激な言葉が飛び交う話題がある。子供に「DQN(ドキュン)ネーム」と呼ばれる、普通は使わない字を使った名前や無理な当て字の名前をつけた親を揶揄(やゆ)しているのだ。平成5年、親がわが子の名を「悪魔」と市役所に届け出て騒ぎになった「悪魔ちゃん騒動」を想起させる。
 DQNはネット用語で「不良や迷惑行為など非常識な言動をする人」を指す。2ちゃんねるでは、親が無教養で低所得者層というプロトタイプを前提に言動をあげつらう。
 「バカ親」など見ず知らずの人に言える言葉ではない。にもかかわらず、ネットにあふれている理由について、関西学院大助教(社会学)の鈴木謙介(33)は「面と向かって言えないことでも、ネットでは言っていいという風潮がある」と分析する。
 2ちゃんねる上で書き込みが殺到する「祭り」に参加した経験がある東京都の会社員、高橋和夫(32)=仮名=も悪びれない。「ネタの内容も真偽も関係ない。みんなで盛り上がることができる気分が楽しい。現実の人間関係で言えないことも、匿名集団の中なら言える」
 気分のままに書き込んだ意見が自殺を思いとどまらせるなど、ネットの自由さがいい作用を及ぼすこともある。「でも」と鈴木は忠告する。「ネットに気分で書き込んだことで、現実の世界で傷つく人がいることがある。どうも、そこを忘れてしまっている気がしてならない」
(敬称略)
 気分が社会を支配している。「変えたい気分で」政権が代わり、「そんな気分になって」モノが売れ、面と向かっては言えないことを気分のままにインターネットに書き込む。深く考えることなく、気分のままに行動した結果、どこに行き着くのか。「キブンの時代」を検証したい。
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【キブンの時代】第1部(2)考えはどこに 政治無関心層もその気に 
産経新聞2010/01/02
 「さっきの小泉の演説聞いたか? すごく感動した。おれは小泉を応援する、自民党に入れるぞ」
 平成17年8月8日夜。コピーライター、川上徹也(48)のもとに、興奮気味の父親から突然、電話が掛かってきた。官邸で当時の首相、小泉純一郎がテレビカメラを前に衆院解散を告げ、「郵政民営化は必要ないのか国民に聞いてみたい」と熱っぽく語った直後のことだった。
 川上は著書「あの演説はなぜ人を動かしたのか」で、「小泉演説」のほか田中角栄やオバマ米大統領、ケネディ元米大統領ら有名政治家の演説の魅力を分析した。
 心を揺さぶる演説には(1)何かが欠落した主人公(2)やり遂げたい遠く険しい目標やゴール(3)葛藤(かつとう)や障害、敵対物の存在-の3条件が備わっているという。「感動のツボ」を押さえた演説に国民は感情移入しやすく、応援したい気分に駆り立てられる。
 「『自爆解散』と揶揄(やゆ)された小泉は、この演説一本で逆境をひっくり返した。造反議員には刺客候補が擁立される様子を連日テレビが映し出し、国民はハラハラして見守る。この構造が小泉支持の空気をつくっていった」と川上は解説する。
 昭和52年に出版された山本七平著「『空気』の研究」。山本は会議や組織、社会全般に至るまで場を支配する空気が優先し、それが日本人の判断基準になっていると指摘した。
 最近の選挙ではメディアが大きな力を持ち、気分という空気にことのほか影響を及ぼす。メディア戦略は選挙戦の柱に組み込まれ、党や候補者は有権者の気分を操ろうと躍起になる。
 選挙PRに詳しいPR会社代表の中村峰介(42)は「民主党は19年の参院選からの戦略が非常にうまかった」と評価する。
 参院選時、こわもてイメージの強かった当時の民主党代表、小沢一郎をコマーシャルに担ぎ出し、「生活が第一」と叫ばせた。民主党は参院選に大勝。自民党は37議席しか獲得できず、結党以来、初めて参院第1党の座から滑り落ちた。
 「このとき有権者が『疑似政権交代』の気分を味わった。そのまま衆院選になだれ込めた」(中村)
 「自民=負け」という気分がうまく作られていったというのだ。
 昨年夏の衆院選は「マニフェスト選挙」とも呼ばれた。各政党が有権者に対して政権公約(マニフェスト)を示し、支持を呼びかける。
 しかし、本当にマニフェストに基づいた投票だったのか。明治学院大教授(政治心理学)の川上和久(52)は懐疑的な見方を示す。
 「有権者はマニフェストを読んだつもりでいるが、結局、テレビを通じて理解しているだけだ。議論は深まらず、ムードとイメージの選挙に終わった」
 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査で、衆院選前に「投票はマニフェストを考慮する」と回答した人は8割を超えたが、「マニフェストをどのくらい知っているか」との問いには、65%が「少し」だった。
 「17年の衆院選の気分のもとは郵政民営化で、昨年は政権交代に変わっただけ。『それが実現すれば、明るい未来が訪れるかもしれない』という気分を演出できたかどうか。選挙の勝敗の鍵はその一点のみだ」 川上はそう考えている。
(敬称略)
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【キブンの時代】第1部(3)考えはどこに とりあえず幸せ探し、「婚活」で下がるハードル
産経新聞2010/01/03
 「登山をされているんですか」「ハイキング程度ですけど」
 暮れも押し迫った昨年12月27日、東京・銀座の個室レストランは華やいだ雰囲気に包まれていた。女性が待つ部屋に男性が1人ずつ入り、事前に配布されたプロフィル票を基に10分間の会話をする。6つの部屋はどこも会話が盛り上がり、笑い声が絶えない。とても初対面同士とは思えない。
 最後に1組のカップルが誕生した。40代の男性と30代の女性で、女性は1番人気だった。パーティーの後、数時間前まで他人だった2人は、年の瀬の街に消えた。
 独身の男女を対象にした結婚相談所主催の「お見合いパーティー」である。
 近年、お見合いパーティーは盛況で、日本仲人連盟に加盟している結婚相談所上位30社の売り上げと会員数は昨年、前年度比1・2倍に伸びた。
 長引く不況で、将来に不安を持つ女性が安定を求めている点が理由とされるが、結婚に向けての活動という意味の言葉「婚活」が2年ほど前から蔓延(まんえん)していることも女性の行動を強力に後押ししている。
 東京都内に住む会社員の中村京子(36)=仮名=も独身で「婚活中」だという。「『彼氏募集中』だと引かれるけど、『婚活中』なら堂々と言える。男性の好みなど言っていられない。今年こそ結婚します、絶対に」
 結婚相談所に登録する会員の男女比は数年前が4・5対5・5だったが、昨年は4対6になった。お見合いパーティーの参加者を募集すると、女性はすぐに埋まり、キャンセル待ちもあるが、男性は当日まで決まらないことも多い。
 相談所関係者は「婚活という言葉で女性の結婚に対する敷居が低くなった。以前に比べ、職業などの条件が合えば結婚までは早い。突き詰めて考えることなく結婚を決める」と説明する。
 「主人が土日は自分の趣味ばかり」「家事を手伝ってくれない」
 離婚の相談を受ける「Re婚カウンセラー」の鈴木あけみ(52)の下にはそんな相談が月80件も寄せられる。ほとんどが20代から30代前半。「浮気とか借金とか離婚するしかないというハードな相談ではなく、些(さ)細(さい)な内容が圧倒的に多い。以前なら自分の親に愚痴をこぼすレベルだ」 
 鈴木のカウンセリングは離婚のノウハウより、できるだけ結婚生活を続けることに重点を置いている。男性からの相談は修復できない内容が多いが、若い女性は容易に修復できそうな場合が多い。
 厚生労働省の人口動態統計によると、平成7年に約19万9千件だった離婚総数は、19年に約25万5千件にまで増加。なかでも30~34歳の女性の離婚は突出しており、約1万9千件から約4万1千件に急増した。
 「婚活ブームに乗せられると次に来るのは離活ブームだ。それも熟年世代の計算ずくの離活じゃなく、何となく気分で離婚したいという若い世代の離活」とみている鈴木は、「以前なら親は『結婚するなら覚悟をもって』と言ったが、今は親も一緒に相手の悪口を言う。バツイチは決して格好いいものではないのに」と嘆く。
 中村は今も婚活を続けている。昨年末には「独身の男性を紹介して。年明けならいつでもOK」と知人にメールを出した。
 鈴木がクギを刺す。「女性は『結婚すれば幸せになれる』『子供を産めば幸せになれる』という気分になりがち。その幻想が幸せから遠くさせているのに」
(敬称略)
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【キブンの時代】第1部(4)考えはどこに 「遊び型非行」増加
1月5日7時56分配信 産経新聞
 ■雰囲気に流されて
 「誰でもいいから殺したい気分です」「私のすべてを否定されている気分です」
 平成20年6月、7人が殺害された東京・秋葉原の無差別殺傷事件。殺人罪に問われた被告、加藤智大(ともひろ)(27)が、犯行前にインターネットに書き込んだ言葉だ。
 「キレる」という言葉でくくられることが多い加藤の犯行。しかし、犯行に至るまでの心に「殺したい気分」の堆積(たいせき)があったことがうかがえる。
 気分によって引き起こされる犯罪がある。犯罪心理学者で精神科医でもある作田明(59)は「秋葉原の殺傷事件とは明らかに異なるが」と前置きした上で、「少年非行の中に、『その場の気分、感情、感覚』が動機となる犯行形態がある。専門家の間では『遊び型非行』の一種として分類されている」という。
                   ◇
 北関東のある県の公立中で最近、集団万引が発覚した。同じクラスの男子生徒3人が、駅近くの大規模店舗で電化製品を繰り返し盗んでいた。
 「店員が少ないから簡単」「きょう盗んだのはこれ」。自慢話が友人らに伝わっていった。1人の補導を端緒に芋づる式に犯行が発覚。女子生徒を含む10人以上が万引にかかわり、盗んだ品を自慢し、交換しあったりしていた。
 過去に問題行動はない生徒たち。泣きじゃくるばかりで、周囲が納得できる動機は聞けなかった。
 経緯を知る県警幹部(54)は「同様の非行は昔からあるが、まさに気分による行動。個人個人は善悪の判断ができるのに、集団になると変な雰囲気が生まれ、広がる」と話す。
 元裁判官で、神戸児童連続殺傷事件(9年)など約6千件の少年審判を担当してきた弁護士の井垣康弘(69)は、「少年院へ送られる少年は、年間に検挙される少年(20年は約13万4千人)のうち3、4%。それ以外は大ざっぱにいうと遊び型非行だ」と指摘する。非行歴もなく育ちもいいのに、何となく非行に流されていくのだという。
 井垣には神戸家裁時代にこんな経験がある。
 万引で検挙された中学2年の少年。「非行性は進んでおらず、遊び型といえる犯行。しかし、少年を取り巻く環境などを調べた調査官の意見は『初等少年院送致』だった。在宅処遇にすれば、仲間から誘いを受け、また非行に走るという理由からだった」
 「少年院送致まではしなくとも」と考えた井垣は、仲間から少年を離すため、親と相談の上、鹿児島へ転居させた。
 周囲の雰囲気に付和雷同しやすい少年が、友人らからの誘惑によって再犯に走る姿を何度も見てきたからだ。
                   ◇
 犯罪心理学者の作田は遊び型非行の増加について、「昭和50年代くらいまでの非行には、貧困を背景にした金銭的な動機がみられた。日本が豊かになればなるほど、社会から道徳が廃れるほどに、軽い気分で犯行をする形の非行が増え、その傾向が最近も、年々強まっているのではないか」とみる。
 17年の犯罪白書に作田の見方を裏付けるデータがある。白書は少年院の教官を対象にした調査をまとめている。
 それによると72%の教官が「最近、処遇困難な非行少年が増えた」と回答。理由として「善悪の判断ができないというより、感覚、感情で物事を判断する(少年が増えている)」と回答した教官が6割と最も多かった。
 「比率を増す『気分で犯罪』への対処に苦慮している」。現場を知る作田はため息をつく。(敬称略)

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