命の償い 獄中で芽生えた「反省」 第3部 米死刑囚の声(上)

2023-05-03 | 死刑/重刑(国際)

 中日新聞2023.05.03

獄中で芽生えた「反省」 

  命の償い  第3部 米死刑囚の声 上 

4月5日、米テキサス州のポランスキー刑務所で、自身の犯した罪や処刑への思いを語った死刑囚レイナルド・デネス
4月5日、米テキサス州のポランスキー刑務所で、自身の犯した罪や処刑への思いを語った死刑囚レイナルド・デネス

 死刑囚レイナルド・デネス(67)を、米テキサス州リビングストンにあるポランスキー刑務所に訪ねたのは、一通のメールが始まりだった。「こちらは日本の新聞です。死刑という複雑な問題を考えるために、当事者の肉声に耳を傾けたいと思っています」

 テキサス州など一部の州では、日本と異なり、確定死刑囚でも原則的にメディアとの面会を許される。
 取材対象にデネスを選んだのは、死刑囚が制作した絵画などを載せる支援団体のサイトで、彼の作品を見つけたからだ。米国には死刑囚や受刑者向けに送金やメッセージ交換を行うネットサービスがある。デネスは外部との交流に興味があるのではないかと感じ、収監番号から検索してメールを送ると、ほどなくして返信があった。「日本から関心を持ってもらえるのは光栄だ。お会いしましょう」
 ボランスキー刑務所の死刑囚が訪問者と会えるのは毎週水曜日の午前。指定された時間に駐車場で車を止めると、広報官のロバート・ハーストが待っていた。
「昨晩はこの町に泊まったの?それは残念だったね」。大都市ヒューストンから120㌔。郊外型のチェーン店と刑務所だけが目立つ街並みを自嘲しながら、所内へ案内してくれた。
 空港の保安検査所のような玄関を抜け、係員にパスポートを預ける。事前申請した録音機やカメラ、筆記具は持ち込めるが、スマートフォンは禁止。面会室に入ると、死刑囚とガラス越しに会話できるブースが40以上並び、まもなく「37」にデフネが姿を見せた。
 「処刑は怖いですか」と尋ねたのは、あいさつや一通りの交わした後。「怖くない」と落ち着いて答えたデフネの口調は、それが67年の人生でたどり着いた本人なりの覚悟なのだろうと思わせた。
 キューバで生まれ、3歳の時に一家で渡米した。学業不振で高校は中退。父と同様に宝石商となったが「17歳で大麻を吸い、27歳のころには強い薬物に染まった」。家庭を持っても「道徳という羅針盤が欠けていた」と言う。「妻にも子どもにも、愛していると言ったことはなかった」
 すさんだ生活の果てに犯した強盗殺人。直後に逮捕された時は「何だかほっとした」とさえデフネは言う。「だから、ゴキブリがはい回る刑務所でも自分にとっては教育の場だった」
 酒や薬物への依存が抜け、聖書を手にすると「自分の中に、学ぶことへの愛が生まれた」。絵を描き、彫刻をつくることで日々に喜びも見いだしたという。そうした生活を送る中で処刑の恐怖を乗り越え、事件の被害者には「取り返しがつかず、心から申し訳ない」と思うようになった。
 それなら、デフネは自身の罪を命で償うことを受け入れているのだろうか。
 1時間のタイムリミットが迫ってきた。広報官のハーストがこちらに近づき、無言で両手を広げて残り10分ほどだと合図する。
 「死刑制度についてどう思いますか。犯罪の犠牲者や遺族は、加害者の処刑によって心の終止符を打てるという考え方もあります」。そう尋ね、ガラス越しの死刑囚の言葉を待った。(リビングストンで、杉藤貴浩、写真も)=敬称略

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)


命の償い 米死刑囚の声「処刑は怖くない」2023.5.3


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。