首相・閣僚会見:開放機運広がる 回数減らす動きも
毎日新聞 2010年4月6日
政権交代から半年。鳩山政権の閣僚会見では、新聞や放送記者に交じってインターネットメディアやフリーの記者の姿が目立つようになった。鳩山由紀夫首相が3月末に開いた会見は、初めて「オープン」となり、質疑もネット中継された。閣僚会見の開放は加速している。【臺宏士、内藤陽、篠原成行】
「今日、記者会見もより開かれるようにしてまいりたい。まだ十分ではない。さらにもっと記者会見も開かれるように仕立てていかなければならない。その第一歩を開かせていただいた」。先月26日の会見冒頭で、鳩山首相はそう述べた。首相会見は原則として、主催する内閣記者会(104社)所属の記者に限られていたが、この日初めてフリー記者らによる質疑を認めた。
準備された120席はほぼ埋まり、フリーやインターネットの記者ら約40人も出席した。昨年9月の鳩山首相就任時の会見で、日本雑誌協会や日本外国特派員協会の記者にも参加を認めたことに続く拡大措置。参加者数の増加に伴い、会見時間もこれまでの2倍の1時間に延びた。
会見の出席資格は▽日本専門新聞協会▽日本雑誌協会▽外務省発行の外国記者登録証の保持者▽日本インターネット報道協会--に所属する報道機関の記者のほか、これらの媒体などに署名記事を寄せているフリー記者で、外務省が採用する基準とほぼ同じ。内閣記者会主催だが、指名と進行は内閣広報官が行った。
この日の会見では、14問の質問があったが、うち4問が内閣記者会以外の国内のフリー記者らから。大半は「首相主催の会見を開く考えはないか」「オープンの基準を設定する考えはあるか」などといった、記者会見に関する内容だった。会見の開放を強く求めてきた上杉隆氏は、指名を受けて「世界中のジャーナリストに代わってお礼申し上げたい」と謝意を表明したが、質問はしなかった。
首相会見は、週2回の閣議の後に開かれる他の閣僚会見と異なり定例化されていない。官邸報道室によると、首相会見は9月16日の就任会見を含めてこの半年でわずか4回。さらに、鳩山首相はこの日の会見で、官邸で立ち止まって数問の質問に答える「ぶら下がり取材」の廃止を示唆した。
小泉純一郎元首相は「ぶら下がり取材」を最大限に活用、「ワンフレーズ瞬間芸」の巧みなメディア対応で高支持率を維持し続けた。一方、麻生太郎前首相は短時間の応答をうまくこなせなかったことが支持率低下を招く遠因になったという指摘もあり、鳩山政権も就任前には回数の削減を検討したことがある。会見では、記者側が「総理が恣意(しい)的に会見を開いたり開かなかったりということがないよう、主催が記者会になっている。もっと頻繁に会見を開いていただきたいと要望してきた」とクギを刺す場面もあった。
鳩山政権は首相自ら短文をインターネットに流すサービス「ツイッター」を利用しているように、報道機関を通さずそのまま発言が国民に届くメディアを重視している。一方、ネットメディアにとっても閣僚会見は有力コンテンツの一つだ。
動画投稿サイト「ニコニコ動画」を運営するドワンゴは「首相会見の中継には約1万1000人のアクセスがあった。事前告知していなかった割には大変多かった。またやりたい」(広報担当者)という。昨年9月、岡田克也外相が主催者だとして記者会見を開放してから会見を中継し、同サイトに視聴者から寄せられた質問のうちいくつかを記者がぶつけている。さらに、今年からは岡田外相が外遊の同行取材もフリーやネットメディアに認めたことを受けて、ニコニコ動画記者は主要8カ国(G8)外相会合やハイチ支援国会合への訪問などに同行取材。米、カナダから岡田外相の会見を中継した。
また、外務省によると、今年からは平均週1回以上、会見取材するフリー記者らには入館が容易になるよう「アクセス・パス」の発給を始めた。これまで15人に交付したという。
政治主導を掲げる鳩山政権は事務次官会見を廃止する一方で、閣僚会見の参加者枠を広げるよう主催する記者クラブ側に求めてきた。情報公開に積極的な姿勢をアピールし、前政権との違いを強調するためだ。
総務省が先月発表した「記者会見のオープン化状況」の調査結果によると、官房長官、国家公安委員長、防衛相の3大臣や宮内庁、地方検察庁などを除く多くの閣僚会見は、フリー記者らも一定の手続きを経れば、参加可能だった(質問ができないオブザーバー参加を含む)。また、金融・郵政担当相と行政刷新担当相は、雑誌やフリー記者らを主な対象にした会見を別に実施している。環境相も今月6日から行う予定だ。
総務省の調査によると、参加を制限する主な理由は(1)セキュリティー上の問題(2)記者会見場の狭さなど(3)実質的な質問の機会の確保--が挙げられていた。こうした理由によって、実際にフリーライターの出席が認められなかったのが国家公安委員長が主催を主張する記者会見。毎週木曜日の国家公安委員会後に警察庁庁舎内で開かれており、警察庁長官も同席し、警察行政のトップがそろう場だ。
今年2月に会見参加を希望したフリーライターの寺沢有さんは、庁舎を管理する警察庁に入館を認められなかった。「警察庁記者クラブは『会見は原則的にオープンの立場。質問をさせないというつもりはない』としている。だが、警察庁のほうが出席者を制限して入館を認めなかった」。寺沢さんは会見への出席を妨害されたとして国を相手に妨害禁止を求める仮処分を申請したが、東京地裁は3月に申し立てを却下。抗告する方針という。警察庁は毎日新聞の質問に「庁舎管理およびセキュリティーの観点から、出席者を制限している」と書面で回答した。
インターネットなどメディアが多様化する中、閣僚の定例会見の開放の動きは、情報公開と説明責任が重視される民主主義社会にあって、その勢いが加速することはあっても後退することは許されない。ただ、課題も見えてきた。その一つが会見主催者の問題だろう。
日本新聞協会がまとめた記者クラブに関する見解は、閣僚など公的機関主催の会見について「運営などが(官側の)一方的判断によって左右される危険性をはらんでいる」と指摘する。鳩山政権は昨年9月の発足時、事務次官会見を一方的に廃止した。都合が悪くなれば一時的に中止、または延期する恐れがある。同見解は「報道に携わる者すべてに開かれたものであるべきだ」としている。
一方、会見参加の可否を誰がどうやって決めるかは難しい問題だ。ただ、官邸がオープン化した以上、「庁舎管理」などの理由だけで官側が参加を認めないのは妥当ではない。また、総務相会見のように主催する記者クラブが外務省に準じた規定を設けたケースもあるが、記者クラブ側が参加の可否判断をするのを批判するフリー記者もいる。組織かフリーの記者かを問わずに個人で構成する新たな団体に委ねるべきだという意見もある。いずれにしろ報道関係者自身が真剣に考える時期を迎えていると思う。【臺宏士】
◆オープン化した首相会見で、あえて「質問」しなかった
◆閣僚会見のオープン化「世界中のジャーナリストに代わってお礼申し上げたい。質問はありません」